第31話 付与魔術
いろいろ店を回って、さすがに少々疲れた。
アルドラを見ると、彼にも疲れの色が見える。
召喚獣のくせに疲れるのか?
リザを見ると、彼女は元気そうだ。
自分の服や下着を買えて機嫌がいいのかもしれない。
ともあれ1度休憩したい所だ。
おそらくそろそろ昼頃だろう。
かつての生活では、時計のない生活など考えられなかったが、こうして時計のない生活を送ってみると案外いいものだし、どうとでもなるものだ。
時間に追われ、あくせくと考えこまなくていいだけでもありがたいと感じる。
「ちょっと腹が減ったな。何か食べるか」
いい匂いに誘われて、俺達は1軒の店先にやってきた。
串に刺さった物を、店先で焼いて提供する店のようだ。
焼き鳥屋みたいなものだろう。炭で焼かれた肉の香ばしい匂い、ジュウジュウと焼ける肉が視覚にも訴えてくる。
店先に掲げられた木の板に文字が羅列してある。
おそらくメニュー表だろう。
店内は狭くて、あまり居心地は良さそうではない。
外にもテーブルと椅子が並べられてあったので、そこに座ることにした。
「何かいろいろあるみたいだけど、文字が読めない……」
リザはなにも言わず、スッと俺の横に立ち並ぶ。
密着するほどの距離だ。
「お任せください」
リザはにこりと微笑んだ。
目の前のテーブルには、山盛りの串焼きが乗った大皿が置かれている。
リザは丁寧に説明してくれたが、種類が多すぎるので1つ1つ説明させるのも手間になると思い、適当に注文してくれと頼んだ。
山盛りの串に驚いていると、中年の店員が銅製のマグを3つ持ってきて、それぞれの手元に置き去っていった。
中には並々とワインが注がれている。
「頼んでないぞ?」
俺は思わず声を出すが――
「王国人にとってワインは水みたいなもんだ」
という捨て台詞を残し、店員はさっさと仕事に戻ってしまった。
俺王国人じゃないんだけど……
って言うか、どういうことだよ。頼まなくても出るのが普通って事か?
「田舎の酒場とかじゃ酒なんぞ選べるほど置いてないからのう、座れば勝手に出てくるもんじゃ」
まぁいいや。
そんなものかと俺は昼間からワインの入ったマグを傾けた。
串焼き 食品 E級
1つの串を手に魔眼を発動させるも、このような情報しか得られない。
一番重要な何の肉だか、わからないのである。
状態を見ても特に異変は無いため、普通の食品には違いないのだろうが……
やけに黒い肉が怪しさを高めている。
「ちょっと固いな。まぁ食えるけど」
キツイ香辛料で臭みを消しているが、消しきれていない獣臭が後味に残る。
あまり旨くはない。
串焼きは、どれも1本5シリルらしい。
すげー安い。
「ジン様、それは蝙蝠です」
なるほど。
普通の焼き鳥屋ではないようだ。
臭い肉やら、固い肉をワインで流し込む。
「あ、これ旨いな」
四角くカットされた脂身の付いた肉。
塩と胡椒で味付けしてあるようで、少々獣臭はするものの、不快なほどではない。
それ以上に旨味が強い感じだ。
ビール飲みたくなる。
「ワイルドボアですね。大叔父様の村でも、よく狩人衆の方たちが狩っておられましたよね」
猪か。
地球では食べたことなかったけど、旨いらしいからな。
食べておけば味の違いもわかったんだろうが。
そんなことを思いつつ、アルドラに目をやると、
「うまわいわ。こわれいへる、はふはひひはじは」
口いっぱいに、ワイルドボアの肉を頬張るアルドラがいた。
子供の姿で手をグッと握り、指の間にそれぞれ4本づつ串焼きを差し込んでいる。
全部ワイルドボアのようだ。
どこの意地汚い子供だアンタは。
「あれ?食事とかいらない体なんじゃ?」
魔力で作られた体が、どうのこうの言ってたような気がするが。
「ふあぐ……んぐッ」
飲み込んでから話しなさい。
もぐもぐもぐもぐ……
リスの様に頬張るアルドラは、一生懸命咀嚼しそれらをワインで流し込んだ。
「はぁ、危なかったわ……」
ふぅ、と一息ついた食い意地の張った子供は――
「たしかに魔力があればいいので、飲まず食わずでも問題無い。だが食えるんじゃからいいじゃろう?食ったものは魔力として還元できるんじゃし、無駄にはならん!わしだけ仲間外れにする気か!?」
アルドラは涙ながらに訴えた。
今の姿は7~8歳くらいのエルフの美少年であるため、悲しみに憂いだその姿には、その手の女性ならずともグッとくるモノがあるのかもしれない。
ただ中身はあのオッサンだと思うと微妙な気持ちになってくる。
「いや別にいいけど。食事は大勢でしたほうが旨いしな」
おぉ、と感動したような表情をみせる少年。
「さすが我が主じゃ!」
アルドラの声が晴天の空に高らかに響いた。
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さて、いろいろ店を回ってきたが、後1件行かなければならない店がある。
エリーナさんに聞いて、おすすめと教えられた店だ。
ウルバスとの戦いで破損した外套を修理したい。
そのためにいい店はないかと、エリーナさんに聞いておいたのだ。
冒険者ギルドの幹部なら、いい店を知っていることだろう。
「ここか……」
その店は、かなり混沌とした店であった。
おそらく元々の建物は普通のものだったのだろう。
原型はまだ見える。
木造2階建ての大きめの建物。
かつては木造の柱や枠に塗り壁が良い雰囲気を出していのだと思う。
俺の目の前の店入り口には、おそらく魔獣の骨と思われる巨大な看板が掲げられている。
どこの部位かは不明だが、平たく巨大なものだ。
これの主は鯨とかそのくらいの大物だろう。
屋根からは牙だか、角だかが生えており、店の各要所には魔獣の頭蓋骨が鎮座している。
初見であれば黒魔術の館か、呪いの館だという名称が頭を過ることだろう。
店の周囲にはプランターのような物が設置されていて、そこから伸びる謎の植物の蔓が建物を縛り上げており、不気味さをより際立たせていた。
「なんか全体的に黒っぽい店だな」
俺がぽつりと呟く。
「さぁグズグズしておらんと、さっさと用を済ませてしまうぞ」
店先で立ち止まる俺とリザを尻目に、アルドラは店内へズカズカと入っていった。
店内は物で溢れていた。
洗濯物の様に、革が干されてあったり、木枠に紐で縫い付けられ、引き伸ばされているものもある。
棚を見れば様々な色の美しい鉱石や、何かの植物を乾燥させたものなど、様々な素材がガラス瓶に収まり陳列されていた。
保存瓶 魔導具 E級
魔術効果【品質保持】
ただのガラス瓶ではないようだ。
収納する器が魔導具なのか。
品質を保持する能力があるようだ。
「硝子工芸ギルドが数量限定で販売しているものです。大変貴重なものだと聞いたことがあります」
俺が見つめていると、リザが教えてくれた。
「リザは物知りだな」
俺は感心した様子で偉いぞ!といったような感じでリザの頭をヨシヨシと撫でる。
「いえっ、私は薬師ですので、薬草の保存などに便利だなと思って知っていただけですっ」
リザは、なんでもないことだと、顔を赤らめた。
照れるリザが可愛いので、もう少しヨシヨシしよう。
「あのなぁ。人の店で乳繰り合うのは止めて貰えないか?」
後ろから響く声に振り向くと、革のボディスーツに身を包んだ褐色の美女が立っていた。
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ラドミナ・バレク 付与術師Lv46
ダークエルフ 122歳 女性
特性 夜目 献身
皮革細工 B級
付与魔術 B級
闇魔術 D級
風魔術 D級
剣術 E級
初めて見るダークエルフだ。
ベイルの街も幾らか歩いたが、ダークエルフは見ていなかった気がする。
灰色の髪に褐色の肌。
エメラルドグリーンの瞳を備えた長身の美女。
言葉に表せばボンッキュッボンッと言った感じだろうか。
なんとも肉感的というか、扇情的というか、アメリカのポルノ女優みたいな肉体にピッタリと貼り付く革のボディスーツが艶かしい。
まるでSMの女王様のような装備だ。
まぁ俺はそのような店には言ったことがないので、ほぼ想像である。
(献身って知ってるか?)
俺は隣に立つアルドラに、そっと声をかける。
(あぁ、ダークエルフの特性か)
ダークエルフは闇魔術に強い適正を持つ種族で、反属性である光の魔術を扱えるものはほぼいないと言われている。
体の傷を癒やす魔術である治療は光魔術であるため、ダークエルフという種は治療の魔術の恩恵を受けることの出来ない種というわけだ。
そのために治療術さえあれば救えるはずだった命を、多く失ってきたのだという。
かつては特に乳幼児死亡率が高く、深刻な問題だったそうだ。
(そこで生み出された秘術が献身じゃ。自分の生命力を他人に譲り渡すというもので、使用すれば寿命は減るが高等治療術なみの効果があるそうじゃな)
ただ誰彼相手にでも使える能力と言うものでもないらしい。
基本的に本当に自分の命を捧げても救いたい相手にしか使えないそうだ。
(聞いた話しによれば、母子の間柄くらいにしか使われんそうじゃな)
確かにそういうことなら自らの命も差し出すのかもしれない。
きっとそこまで愛されているということを知れたら、幸せなことだろうな。
「そっ、そのような熱視線を送られても、私は答えることは出来ないぞ。私には既にパートナーがいるからな!」
ラドミナは腕を組み、その張り出した双丘を持ち上げるように押し出すが、あきらかに挑発しているとしか思えない。
エロの女王様である。
「痛ッ!?」
一瞬腰の上辺りを抓られ、痛みが走った。
俺は振り向きリザを見つめるも、フイっと視線を逸らされる。
なんなんだ一体?
「どうでもいいが、話を進めようかのう」
ダークエルフの民族衣装はエロい。
どこかでそんな噂を聞いたことがあるが、本当だったようだ。
あぁそんなことは、どうでもいいか。
「冒険者ギルドの勧めで、お伺いしたのですが」
俺は本題を切り出した。
破損した魔装具の修復である。
「なるほど。影隠の外套か」
【夜間限定隠蔽効果上昇】
珍しい能力を持つ魔装具の一種。
見た感じは黒いトレンチコートのようだ。
「シャドウバットの外皮を利用した珍しい魔装具だ。アレは見つけるのが大変だからな。この装備もけっこうな値がしただろう?」
アルドラの地下倉庫に眠っていたものだからな。
高いものだったのか?
俺はどうなんだとアルドラに視線を送る。
「昔、村の近くでこそこそ悪巧みをしておった盗賊を捕まえてのう。その時に身ぐるみを剥いだ物じゃ。値段はしらん」
ラドミナは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに顔を伏せてクククッと笑い出した。
「そうか。それは美味しいな」
俺は鞄から黒狼の毛皮を取り出した。
「これが使えると聞いてきたんだが」
毛皮はロール状に巻かれて紐で縛って纏めてある。
ラドミナは徐ろに紐を解くと、作業台の上で毛皮が広げられた。
艶のある美しい青黒い毛皮だ。
完全な黒と言うよりは、限りなく黒に近い濃い青と言った色である。
「黒狼か。あんたが狩ったのか?」
「いや、貰い物だ」
まだ生きてる奴は見たことありません。
それにしても毛皮けっこうでかいな。
150センチ以上はあるようだ。
「まぁまぁの質だな。これなら使えそうだ」
たしかD級の素材だったはずだが、まぁまぁなのか。
「付与術師という職業が魔装具の修理を行えるのか?」
「私は皮革細工の技術も持ってる。それで修理ができるんだ」
「なるほどな。ということは革系の装備しか修復出来ないということか?」
「そうだ。付与術なら魔装具、魔剣があれば付与してやれるぞ」
疾風の革靴 魔装具 E級
魔術効果【移動速度上昇】
力の指輪 魔装具 E級
魔術効果【腕力上昇】
金の腕輪 魔装具 D級
魔術効果【製作技術上昇】
「ずいぶん持ってるな……よっぽど魔力量に自信があるのか。なるほど、特異体質か」
ほう、と1人納得するラドミナ。
「どういうことだ?」
「魔装具は身に付けるだけで、僅かながら魔力を消費する。グレードの高いものほどな。魔力量は種族での違いこそあれ、個人差はあまりないのが普通だが、まれに例外もいるってことだ」
魔力を不必要に消耗することは、命の危険にも繋がるからな。
本当に必要と思うものしか、身に着けないのが普通なのか。
「しかしこの中で付与術を行えるのは金の腕輪だけだな」
どういうことかと聞いてみると、付与術は幾らでも付けられるわけではないらしい。
F~E級装備で1つ。
D~C級装備で2つ。
B~A級装備で3つ。
S級装備で4以上。
付与術には魔石を使用する。
グレードの高い装備ほど上質な魔石が必要のようだ。
また装備のグレードが高くなるにつれ、付与術の成功率は下がる。
更に2つめ、3つめに行う付与術もまた成功率が下がっていく仕組みになっているらしい。
「ん?ということは、疾風の革靴は移動速度上昇が既に付いているため、新たに付与術を行えないということか?」
「そういうことだ」




