第29話 奴隷市場
俺達は人混みを掻き分け通りを進んだ。
「ジン、ちょっと肩を貸せ」
アルドラは俺の肩に手を掛けると、ひらりと飛び乗った。
肩車である。
「何か見えますか?」
「うーむ、広場で何かやっているようじゃな」
イベントだろうか。
俺達は広場まで行ってみることにした。
「リザ」
リザに向かって手を延ばす。
「え?」
「人混みがすごいから、はぐれないように」
「あっ、はい。ありがとうございます」
彼女はそう言うと、頬を少し赤らめ俺の手を取った。
人混みを掻き分け広場に着くと、何台かの大型馬車が停車しているのが見える。
一般の荷馬車の類は、通りを移動できる時間帯を決められている。
であれば見かけるのは特別に許可を受けた商会か、いろいろ優遇の効く貴族あたりのものなのだが、見たところ貴族ではないようだ。
見た目が派手なのと、領家の紋章があるかどうかでひと目で貴族のそれかどうかはわかるらしい。
広場の中心部には木製の演壇が設置され、そこへ子供から大人まで、様々な年代の男女が立たされている。
「何ですかあれ?」
俺が発した声を、自分への質問と勘違いした野次馬の1人が反応した。
「ん?何だお前、奴隷競売も知らんのか?」
何処の田舎者だよ?みたいな顔で見られたが、気にせず話を聞いてみる。
「王国認定の奴隷商が、北方の小国から犯罪やら借金やらで奴隷落ちしたやつを買い付けてくるんだよ」
演壇に上がった者達は、一枚布を2つに折って作られた、貫頭衣と言われる簡素な衣類に身を包んでいた。
横1列に並ばされ、おそらく奴隷商人と思われる腹の出た大男が1人1人奴隷の情報を説明していく。
その手には鞭のようなものが見え、細かく何やら指示しているその態度から、奴隷に対してかなり高圧的な男なのだなと思った。
「さぁさぁ、次は北方の山岳部にある小国ダニアから參りましたハーフエルフの娘、年齢は15歳。北方の民と北の森に住むエルフの混血児です。皆さん御存知の通り、異種族同士の交配では子が出来難いと言われ、更言えばエルフは元々、子の出来難い種族だと言われております。ともすればこのハーフエルフの価値がいかほどかも、お分かりいただけますでしょう」
そう言うと、奴隷商人は鞭を手に娘に指示を出す。
彼女はその指示に、おずおずと従い、一歩前に出ると自らその衣をたくし上げた。
多くの野次馬、そのほとんどがおそらく人族の男性だろう。
彼女のその行為に会場から歓声が上がる。
「これほどの逸材なら、王都へ行けば80万シリルは下りませんよ。さぁ今日は特別に40万シリルから始めましょう」
奴隷商人がそう言うと、会場のあちこちから声が上がる。
なるほど、これが奴隷競売か……
王国認定というからには、国に認められた仕事なんだろうが、人を物のように扱うさまを見るのは、さすがに抵抗がある。
この世界の、この国の事業にとやかく言うつもりはないが、リザとそう年格好も変わらない女性が好奇の目に晒されているのは見るに耐えない。
俺の所持金を見れば、あの演壇の少女を買い上げることも可能だろうが、同じような境遇の者は幾らでもいるのだということは簡単に想像できる。
だとすれば、ここであの1人の少女を救ってやっても偽善にしかならないだろう。
いや、救ってやるという考え方そのものが偽善なのだろう。
別に俺はこの国の奴隷解放運動でもしようという訳ではないのだ。
この国にはこの国のやり方があるのだ。
郷に入っては郷に従えというやつだ。
それでも俺には、この場所はあまり居心地のいい場所ではなかった。
「行こうか」
「はい」
俺達は足早にその広場を後にした。
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「この辺りは、商店街といったところか」
広場からしばらく歩き、大きな通りから1本裏に入ると、年季の入った古い店が石畳の両側に並ぶ通りにやってきた。
この場所へ案内してくれたのはアルドラだ。
「この辺りは冒険者が利用する店が多く集まる通りじゃ。わしが冒険者をやっとった頃からたいして変わっておらんように見えるで、おそらくわしの知る店もあるといいんじゃが……」
そう言って、アルドラは石畳の道をずんずん進む。
道の脇には等間隔に大きな街路樹も植えてあって、近代の都市のように整備されている。
道にはゴミらしいゴミも落ちてはおらず、かなり綺麗だ。
建物の古い感じも、また味になっていて、なかなか雰囲気のいい通りだ。
俺はリザの歩幅に合わせて、ゆっくりと進む。
そうこうしていると、アルドラは1軒の店の前で立ち止まった。
「うむ、ここへ来たのはもう何十年も昔になるが、変わらず営業しておるようじゃ」
カランカランッ……
ドアベルが客の来店を知らせる。
店の扉を開けると、カウンターの奥から店主であろう1人の老人が深いシワのある顔を覗かせた。
「……客か?」
「ふははは、老いぼれたのう、ダニエル」
アルドラは不遜な態度で、にやりとしてみせた。
店内には他に客は居なかった。
お世辞にも流行っているようには見えない店である。
「……貴様、まさかアルドラか?エルフは歳を取るのが遅い種族だとは聞いていたが、若返ると言うのは初めて聞いたわ」
見てくれは多少変わっても、その顔は忘れることはない。
老人はそう言って笑うと、アルドラの今の姿を見ても驚いた様子はなかった。
「まぁ長生きしておると、いろいろあるということじゃ」
「ふん、そうか」
老人はぶっきら棒にそう言い残し、店の奥へ引き上げたと思うと、しばらくして何かを抱えて帰ってきた。
「お前が、ここに来る理由は1つしか無いからな。悪いが今はこれしかないぞ」
「うむ、かまわん」
「アルドラこれは?」
「冒険者の鞄。特殊な魔獣の革を素材に作られる、何かと荷物の多い冒険者のための鞄じゃよ」
「決まりで冒険者にしか売れんがな」
見た目は大きめのウエストポーチ。
厚手の革で作られているらしく、なるほど確かに丈夫そうだ。
冒険者の鞄 魔導具 D級
これは魔導具になるのか。
収納 0/40
ゲームなんかでよく見かける魔法の鞄といったものだろう。
ランクによって収納数が変化するようだ。
D級では40種類の品物が入るらしい。
ゲームでは当たり前の機能であったが、こうしてみるとめちゃくちゃ便利なアイテムである。
どうやら重さも大幅に軽減されるようで、荷運びの仕事なんかコレ1つあれば手軽に大量輸送とか出来そうだ。
「小石程度の大きさの品は1枠につき99個、両手で収まる程度の大きさの品は1枠につき12個、両手で抱えるほどの大きさの品は1枠につき1個まで収めることができるぞ」
ちなみに中に生物を入れることはできず、まだ時間が止まっているということもないそうなので、食料品を入れっぱなしにして放置すると普通に腐るそうだ。
ただ鞄の中は通常よりも時間の流れは緩やかではあるらしいので、外に出しておくよりかは長持ちするのだという。
本来はD級以上の冒険者にしか販売しないそうだが、アルドラの顔が利いたようだ。
俺はふと思い、アルドラを見つめた。
アルドラ 幻魔Lv1
特性 夜目 直感 促進 眷属
スキルポイント 63/63
氏は消え、名のみとなっている。
これ本当にどういったシステムになってるんだろう……
俺の時も漢字から突然カナに変化したしな。
まぁそれはいいか。
それよりも、スキルポイント多いな。
これはアレか?
生まれ変わる前のエルフ時代のポイントも引き継いでるってことなのか?
S級だという話は聞いたが、元のレベルは62だったのか?
「ジン?どうかしたのか?金を払って次の店に行くぞ」
「え?あぁ、いくらですか?」
「アルドラの知人なら5000でいい」
俺は銀貨を払い店を後にした。
「次は武器だな。護身の為にも差して置いたほうがいいじゃろう」
とは言うものの、護身の為にとは言え腰から剣をぶら下げて街を歩くのもどうかと思うのだが。
俺は魔術もあるため、いざとなったら雷撃で片がつくのではないだろうか?
「街なかで、あんな派手なものぶっ放す気か?即牢屋にぶち込まれるわ」
基本、街なかで攻撃に関する魔術は使用禁止らしい。
やむを得ない場合と判断された場合のみ許可されるらしいが、やむを得ない場合ってどんな時だろう。
まぁ剣という武器を見せびらかすことで、余計なものに絡まれないよう抑止力になるってことなんだろう。
なんだか余計に絡まれそうな気もしないでもないが。
鞄を買った店からほど近くの武器屋に入り、アルドラが物色する。
「剣でいいじゃろ?」
「あー、はい」
まぁ無くてもいいのだが、せっかくだし買っておくか。
剣というのもロマンがあるしな。
この店は既に出来上がった品を買う店のようだ。
剣を買うというと、工房で自分にあったものを注文して作ってもらうのが一般的らしいが、それは時間も金もかかる。
特に冒険者の場合、急な仕事となると、準備に時間がないということはよくあることである。
急遽武器が必要となった場合など、このような店には一定以上の需要があるようだ。
「これにしようかのー」
俺には剣のことなど、よくわからないのでアルドラに任せることにした。
俺のリクエストは軽くて片手で扱えるもの、扱いやすいものだ。
刃渡り70センチほどのショートソードを選んでもらった。
ショートソード 片手剣 E級
特殊な効果は付与されていない。
見た目も実用主義で、余計な飾りもなくいい感じだ。
「わしはこれにしようかの」
バスタードソード 片手半剣 E級
刃渡り120センチくらい。
柄が長めで、片手でも両手でも扱えるようになっている。
片手でも両手でも扱えるように、重心が独自のものになっていて、そのため特別に訓練を受けたものでなければ使いこなせない特殊な剣だという。
アルドラさんや、それ本当に使えるんですか?
あなたの身長と同じくらいの長さの剣なんですけど……
「うむ、問題無い」
剣は2本で15000シリルだった。




