表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
31/274

第28話 F級冒険者

「失礼します」


 ガチャリと扉を開けて、エリーナが小さな木箱を手に戻ってきた。

 木箱をテーブルに置くとその中を開けて見せる。


「おぉ」


「すごいです……」


「ほう」


 小さな木箱の中には、金貨と銀貨と銅貨が収まっている。

 金貨は日本の100円硬貨くらいのサイズで、まさに黄金というように輝いている。


 やはり存在感が違う。


 もしかしたら純金だろうか?いや純金だと柔らかすぎて、実用性に欠けるらしいから違うのかもしれない。

 銀貨は金貨より僅かに小さい。黄銅貨も似たようなサイズで黄色に輝いている。金とは明らかに違うとわかる黄色で、5円玉に似た色合いだ。


「素材提供の謝礼として金貨50枚。魔石その他の売却金として金貨30枚、銀貨4枚、黄銅貨80枚。合計80万4800シリルになります。黒狼の毛皮は外套の修復に利用可能ということでしたので、除外しておきました」


 うん。

 価値がわかんねぇ。


 すごいのか、すごくないのかわかんねぇ。


 とりあえず確認はリザに任せよう。


 この国で流通している通貨は、シリルと言われる貨幣でそれぞれ――


 大金貨 50000シリル 

  金貨 10000シリル

 大銀貨  5000シリル

  銀貨  1000シリル

 黄銅貨    10シリル

 青銅貨     1シリル


 となっているらしい。


 続いて俺は冒険者ギルドの説明を受けることになった。


 冒険者ギルドへの加入には、通常紹介状が必要らしい。

 無い場合は仮採用扱いとなり、数ヶ月は見習いとなって依頼の報酬が何割か差し引かれるそうだ。

 俺の場合はアルドラさんが保証人となるらしく問題無いようだ。


 加入には年会費銀貨2枚必要とのこと。


 ギルドに加入するとギルドへの貢献度によりF級から始まり、E級、D級、C級、B級、A級、S級と階級が上がる。

 基本的にはレベルが一定以上に達していること、一定期間内に貢献度を規定以上達成することで審査となり認められると階級が上がるという。


 依頼失敗、または放棄の際には報酬の倍額の違約金が発生する。

 また昇級のための貢献度もリセットされ1からとなる。


 依頼は2つ上の階級まで受けられ、FであればD以下の依頼まで受けることが出来るということのようだ。

 貢献度は同ランク以上の依頼で加算されるが、上のランクだからといって貢献度が多く加算されるということはないらしい。

 つまり階級を上げる目的なら、同ランクの依頼を着実に達成していくのが一番の近道だということだ。


 貢献度というポイントの増減はギルドカードで管理されているようだが、ギルド会員にその情報を提示することはなく、ギルド内にある特殊な魔導具で職員が管理する規定になっているらしい。

 昇格条件の達成が近づくと職員が会員に通告し、昇格するか否か、もしくは昇格試験を受けるか否かを問われるのだという。


 依頼はギルドの掲示板に張り出される。

 それぞれ階級別の掲示板が設置されているようだ。


 ちなみにS級の依頼は個人指名となるので掲示板は存在しないのだとか。

  

 冒険者ギルドの会員になることで身分証明になり、階級が上がれば市民権と同等の権利も与えられる。

 城壁で囲まれた都市で生活するには、通常市民権が必要らしい。

 ここベイルでは冒険者は優遇されているため市民権が無くても壁内に住むことも許されているが、たとえば怪我や病気で冒険者を引退せざるを得ないときに、市民権を持って引退するか否かでは大きく意味が異なってくるのだ。

 最悪の場合は、都市から追い出されることになる。


 市民権を得るにはC級以上の階級もしくは、多額の金貨が必要になるらしい。


 そのため将来を見据え引退後の生活を考えるなら、C級以上の階級を目指しつつ引退後の為に貯蓄をするというのが、賢い者のやり方かもしれない。

 もちろん誰しもがC級以上になれるとは言えないらしいが。


「まぁ多くの冒険者たちはその日暮らしの労働者と何ら代わりません。金が無くなれば働き、金ができれば飲みに行くような生活です。怪我や死の危険を犯してまで、レベルを上げようとするものは少数派でしょう」


 他には規則についてなど、まぁ揉め事を起こすなとか、そんなようなことだ。

 後はギルドで受けられるサービスや、訓練場の利用の仕方などなど……

 

 それとベイルには初心者の迷宮と呼ばれるダンジョンもあるらしい。

 F級の間にしか利用できない、いわゆる迷宮攻略の練習場のような場所だ。

 

「なるほど。その初心者の迷宮ってのには、ギルドでやってる講習20時間、実習20時間を受けなければ利用できないんですね?」


「はい。例えば今日の午前中に薬草学講習2時間、午後から体術実習2時間、というように毎日行われていますので、それらを受講していただき、指導官に証明書へサインを貰ってギルド受付へ提出という流れになります」


 講習10種類、実習10種類、計40時間、毎日やって最短で10日間か。


「わかりました。講習は明日からでも受けてみます」


「そうですか。お待ちしています」


 エリーナから免許証サイズの金属のカードが差し出される。


「これがギルドカードですか」


 何の変哲もない金属のカードだ。

 見た目は鉄板といった感じだ。


「このナイフで血を1滴カードに垂らして見てください。それで本人登録が完了となります」


 俺は言われるがまま、指先に傷を付け、カードに血を垂らした。

 一瞬、カッと輝いたと思うと、すぐに光は収まる。


 ジン・カシマ 冒険者Lv1

 人族 17歳 男性 平民

 冒険者ギルド ベイル所属 階級:F 


 魔眼を使うとこの様に見えた。

 ん?冒険者Lv1?


 冒険者ギルド所属になったからか?


「これでギルドカードの登録は終了です。このカードは本人の魔力を記憶させてありますので、本人にしか使えません。この情報を見ることも特別な魔導具な無ければ本人しか見えません。貴重な物なのでくれぐれも無くしたりしないように、大切にしてください。再発行の際には金貨1枚が必要になりますので」 


「わかりました」


 これで一応ギルドの登録は完了のようだ。


 ちなみにギルドカードは階級によって色合いが変わるらしい。


 鉄から始まり、青銅→黄銅→赤銅→銀→金→ミスリルとなる。

 

 ミスリルというのは俺もまだ目にしたことはないが、ミスリル、ミスリル銀、霊銀などと呼ばれる白銀に輝く希少金属のようだ。

 採掘される量が限られているために極めて高価なのだとか。

 ゲームや小説でもよく聞く名前だし、例に漏れず優れた素材のようで俺も興味をそそられる。何れはミスリル製の品など手にしてみたいものだ。



 

「このまま大金を持ち歩くのも不用心じゃ。幾ばくかは手元に残して、預けて行ったらどうじゃ?」


 冒険者ギルドには無償で貸し金庫を提供しているらしい。


 しかし、この金は俺だけの物ではない。

 一部はアルドラさんの地下室から拝借した素材や魔石を売却したものだし、血石のことにしても俺1人で戦ったわけではないのだ。

 俺の戦利品ということにはならないと思う。


「わしはこの体では金を自由に使うということは無いのだし、持っていても意味は無いのう」


「ジン様はまずご自分の装備を整えることを、考えられたほうが良いと思います。私のことは気になさらないでください」


 リザには今まで色々出してもらっているからな。

 何も返さないと言うのも、どうかと思うのだが。


「これから共に暮らそうというのに、そのような些細なこと問題になりません。それにあまり他人行儀にされるのも寂しくなってしまいます」

 

 リザが寂しそうに俯いて訴える。

 

 俺は申し訳無い気持ちも感じつつ、彼女達の申し出を受け入れることにした。



 

 どういう理屈で幻魔、幻魔石へ変化したのかは不明だが、幻魔石へ魔力が貯まるとその魔力を用いて肉体を実体化させ、時間制限付きで現世に顕現できるのだという。


「この体は魔力で作られているため、食事も水も必要ないようじゃ。当然時間がくれば石に戻る。そして石の状態から、再び実体化させられる権限を持つのは、ジンお主だけの様じゃ」


「どういうことですか?」


「わしにもわからん、だがそうだということはわかる。今のわしはお主の眷属のようなものだと思ってもらって良い。そうじゃな、アルドラ・ハントフィールドはもう死んだ。今のわしはただのアルドラじゃ」


「わかった。アルドラさん」


「さんは不要じゃぞ?これからは対等、いやジンがわしの主じゃ、よろしく頼むぞ」


 急に主従と言われてもピンとこないが、肉体を持ったアルドラさんが仲間になったのだとしたら心強い。

 制限付きだとはいえ、冒険者としてもこの世界の住人としても先輩の彼は大きな力になってくれるだろう。


「わかった。よろしく頼む」


 俺はアルドラと固い握手を交わし、その決意を受け取った。




 カードを受け取り、ギルドの説明を聞き終えた俺達は――


「たまには顔出せよアルドラ」


「主の許可が出たらのう。ゼストよ村のことは頼んだぞ」


「ああ、この街にも避難している奴が何人かいる。彼らに連絡を取れば、そこから他の者達へ伝わるだろう」


「うむ。それで十分じゃ」


 ギルドマスターとエリーナに見送られ、部屋から退出した。




 同じ建物内にある貸し金庫へ、受け取った金の大部分を預けギルドを後にした。

 ちなみに金庫とはいっても、ちょっとした物置サイズもあって冒険者という仕事柄か、希少な素材や武器や鎧の類も預けて置けるらしい。

 最小のサイズで3帖ほどの広さだが、階級を上げ追加料金を支払うことで広い金庫を借りることもできるようになるそうだ。


 ちなみに貸し金庫や倉庫は街にもあるらしいが、安全面で一番信頼できるのはここだと教えられた。

 まぁ無償で借りれるのだし、ギルド内にあって便利もいいのだから他で借りる理由は今のところない。


「とりあえず差し当たって必要なもの買い揃えたいな」


 これからこの街で生活するなら、日用品から冒険者としての装備品までいろいろ必要になる物はあるだろう。

 それに異世界の街の商店というものにも興味がある。




 俺達は街の大きな通りに出た。

 ベイルは旧市街、現在では中央と呼ばれる街の中枢と、新市街と呼ばれる中央を取り巻くようして作られた新たな居住区域によってできている。

 中央を囲む城壁に、外周の城壁と2つの城壁があるらしい。

 中央には大聖堂やら修道院やら、街の行政を司るような施設だったり、裁判所だったり、貴族の邸宅だったりがある。

 いわゆる重要な施設が集まっている場所で普段は門も固く閉じられ、関係者しか入れない場所のようだ。


「だいぶ人が多いのう。いくら活動期と言うても、わしが知っているベイルはここまででは無かったような気がするが」


 現在のアルドラは120センチ強ほどの背丈に、上半身裸で七分丈の革パンに裸足という出立である。

 人族と比べると尖った長い耳に、胸辺りまである長い銀髪。

 サファイアの様な青い瞳。

 子供にしか見えない姿であるため許されそうだが、あの元の姿で街中を歩くと通報されそうなんだが。


 そういえば元の姿には戻れるんだよな?

 あれ?戦闘とかで頼りにしてもいいんだよな?ずっと子供のままか?


「今の姿は魔力を節約した姿じゃからのう。無論、お主の知っておる姿を取ることも可能じゃ。魔力で出来た体ゆえ、ある程度の自在は可能なのじゃ」


 ある程度って、相当な自由なようだが。


「それにしても多いな。いつもこんな感じ?」


 俺の側にいるリザが、口元を隠していたストールをずらして答えた。


「いえ、このようにまともに歩けないほど混雑するというのは珍しいですね」


 リザは外出するときは、いつもローブのフードを深くかぶり、口元をストールで覆って行動する。

 隠蔽系の魔術が付与された魔装具らしく、エルフは何かと絡まれやすいため自衛の為にそうしているらしい。

 ちなみにそれほど強力なものではないようなので、俺の魔眼では普通に見破ることができるわけだが。


「ギルドマスターって何者なんですか?昔から知ってる様子でしたけど」


 俺は見える情報を自分で段階を付けて制限することができる様になったが、無駄な使用は控えるようにしている。

 あまり情報を多く取り過ぎると俺が疲れるというのもあるし、魔眼の酷使し過ぎは疲労、魔力の消耗にも繋がる。

 いざという時、疲弊していては困るからな。


 ギルドマスターについては、あのような見え方のする人物は初めてだった。

 あれは何かのスキルなのか、特性なのだろうか。


「奴は神器の所有者じゃ」


 神器?

 そういやギルドマスターも、なんか言ってたな。


「古代遺跡などでごく稀に発見される、現代の魔術では作成不可能なレベルの魔導具、魔装具の類じゃ。どれもこれも強力な能力を持っていると言われておる」


 それ自体が命を持つとも言われる神器。

 使い手を神器自ら選び、資格無いものが身につけても扱う事は出来ないという。

 一度所有者として選ばれると、その者が死ぬか所有権を放棄、もしくは譲渡しないかぎり所有者専用装備となるらしい。


「ギルドマスターのは変身能力ですか」


「そうじゃ、たしか変化の指輪と言ったはず。ただどんなものでも変化できるわけでもなく、思い入れの強いものにしか変化出来ないらしいが。中身は本人と変わらんらしいから、剣の達人に変化しても達人になれるわけでは無いらしいがの」


 それでも、あの人がそんな能力持ってたら、ある意味最悪のような気もするが。

 まぁ立場のある人だし、きっとその辺は弁えているんだろうと思いたい。


「わしとゼスト、エリーナ、ヴィム、あともう1人と5人でPTを組んでいたのじゃ。もう何十年も昔の話じゃ」


 冒険者時代の元メンバーか。

 アルドラはS級、他のメンバーはA級だったようだ。


「ゼストは斥候、ヴィムは鍛冶師、エリーナは鑑定師じゃったな」


 今はみな冒険者を引退して、ギルド職員をしているということか。

 

 ん?そういやギルド職員というのも、魔物と戦ってレベルが上がるのか?


「そんなわけ在るはずなかろう。ギルド職員はギルドの運営の仕事をしていれば上がるのではないか?」


 職業というのは戦闘職、生産職、特殊職の3つに分類される。


 戦闘職は戦闘訓練、戦闘行為を行うことでレベルが上がる職業。戦士や魔術師などのことだ。


 生産職は生産活動を行うことでレベルの上がる職業。薬師や鍛冶師などである。


 特殊職はそれ意外の職業。レベルの上がり様は、それぞれ異なるが生産職に近いものが多い。ギルド職員などのことである。


 ちなみに特殊職のことはアルドラもよく知らないのだという。


 それぞれの職業はその職業にあったスキルを修得しやすくなるだけでなく、職業にあったスキルを上手く扱えるようになる補正効果が得られるらしい。


「アルドラは神器、持ってないのか?」


 ギルドマスターは元A級で神器持ちなのだろう?

 普通に考えればS級のアルドラが、神器を持っていない道理は無いと思うが。


「あー、あぁ……いや、わしは持っていないな」


 今、露骨に目を逸らしたな。


 何か触れてほしくない話題だったのだろうか。 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ