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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第27話 ギルドマスター

 ギルドマスターへアルドラの村の事を直接報告する、ということでとある部屋を通された俺とリザ。

 しばらく待っていると、部屋に2人の男女が入ってきた。


「待たせたな。最近はギルドも忙しく、職員も手が回らんので参っとる。ええっと……」


 ドカドカと床を踏み鳴らし現れた男は、低い背丈に頑強な体を持つ――


 ヴィム ギルド職員Lv48

 ドワーフ 152歳 男性

 スキルポイント 0/57

 鍛冶 B級

 鉄壁 B級

 剛力 D級

 探知 D級

 斧術 B級


 ドワーフであった。


 俺とリザは長椅子より、即座に立ち上がり――


「ジン・カシマです」


「エリザベス・ハントフィールドです」


 頭を下げ、礼をする。


「ヴィムだ、このギルドを纏めている。あんたらも冒険者なら、堅苦しいのは無しにしてくれ。まぁ座んな」


 ヴィムはぶっきら棒な調子で挨拶を済ませると、ドカリと革張りの長椅子に腰を下ろした。

 彼と共に現れた女性は、先ほど部屋を案内してくれたエルフのエリーナだ。


「彼女はエリーナ。愛想は悪いが優秀な職員だ。君たちの報告に同席して審議を測るために来てもらった」


「わかりました。よろしくお願いします」


 エリーナはヴィムの横に座り、無言のまま軽く会釈をして答えた。


「時間も惜しいし、話を聞こうか?」




 俺はアルドラの村であったことを、ヴィムに語った。

 俺が異世界から来た漂流者であることは今のところ伏せている。

 言う必要があれば折を見て話せばいいだろう。

 村でアルドラの亡霊にあったこと、しばらく村で生活していたこと、魔人に襲われたこと、それを撃退したことなどだ。

 その後ガロの村を経由して、ベイルまでやってきたという旨を話した。


「……ふむ」


 ヴィムは俺の話を口を挟まず静かに聞いていた。

 時折ふむふむと、何かに納得しているような様子も見えたが。


 ヴィムはエリーナに視線を送ると、エリーナは首を振って答えた。


「嘘は言ってないようだな」


 エルフには直感という特性があるという。

 リザも持っているやつだ。

 ハーフではその力も弱まるというが、リザはハーフの中でも強い方らしい。


 特に人生経験を積んだ老練なエルフたちが持つこの特性は、かなり強力なものだという話を聞いた。

 ざっくり言えば、凄まじく勘が鋭いとでも言うのだろうか。

 これはただ当てずっぽうというのではなく、僅かな情報から本質を見抜く能力のようだ。


 人が嘘を言っているかどうかであれば、嘘を言う人間には必ず嘘を隠そうとする仕草などの、違和感があるという。

 それらを僅かな挙動から、あぶり出し本質を見抜くものなのだという。

 これらの能力は経験の浅い若いエルフではたいした信頼性を持たないが、経験深い老練のエルフに置いては強力な能力になり得るという。


 特に経験を積んだエルフ女性の勘の鋭さは、どんな男も彼女達には隠し事が出来ないほどであるという。


 おそらくこのエリーナの能力は、そこに徹し得るレベルのものなのだろう。




 ガチャリ




 緊張感が場を支配しているその時、ドアの開く音がその空気を破った。


「失礼しま~すっ」


 現れたのは先ほど受付で、登録手続きを行ってくれていた少女だった。

 その手にはお盆が、そしていくつかのマグが見える。


「お飲み物お持ちしました~」


 お盆に乗ったマグが、ガチャガチャと揺れる。


 ヴィムは何故だか嫌なものを見たように顔をしかめ、エリーナは無表情ながら僅かに眉がピクリとあがったような気がした。


 ノーマに目をやると魔眼を通して情報が入った。

 

 しかしいつものそれとは違う。


 俺の魔眼は見た物の情報が、直接頭のなかに流れこんでくる感じなのだが、それがおかしな事になっている。


 まるでトランプのシャッフルの様に、幾つもの情報が目まぐるしく変化していくのだ。


 魔眼がバグったのか?


 このような事は初めてだった。


『これは奴の能力じゃ』


「え?」


 今一瞬、声が聞こえたような気がした。


 俺は思わず変な声が出てしまった。


 どこかで聞いたことあるような?っていうか。


 いや、まさかな?


「ジン様?」


 リザが急に変な声を出した俺に、心配そうな顔を向ける。


 俺はポケットに手を入れ、中に入っていたものをテーブルに出した。


「これは?」


「俺がアルドラさんから受け取った形見です」


 それは――

 

 魔晶石 素材 S級


 だった物だ。


 だが今は名称が変化している。いつの間に?


 幻魔石 魔導具 S級


「魔晶石か?かなりの高純度のようだが……」


「いえ、魔晶石に酷似していますが違うようです……私も初めて見る」


「……」


 3人の反応はそれぞれだが、ノーマのそれは先ほどまでの純粋な子供の笑顔は消え去り、いやらしい笑みが顔に張り付いていた。


 ゼスト・シトロン ギルド職員Lv53

 人族 56歳 男性

 スキルポイント 0/57

 短剣術 D級

 闇魔術 B級

 風魔術 C級

 回避  C級

 隠密  B級

 探知  F級


 ノーマの個人情報が変化している。


 いや、元に戻ったのか?


 入り乱れた情報が整理され、ゼストの情報が迫り出されるように浮上してきたような感覚だ。


「ゼストさん?」


「ほう!?」


 ノーマは一瞬驚き、そしてすぐに歓喜の笑みを見せた。


「私の変化を見抜ける者がいるとは……やはり只者では無いみたいだね!」


 ノーマから黒いオーラが立ち上り、その身を包み込む。

 一瞬にして、幼い少女は背の高い白髪の老紳士へとその姿を変えた。


 ヴィムもエリーナも表情は変わらない。

 つまりはそういうこと。

 2人は少なくとも知っていた。


 リザは俺の横で目を見開いて固まっている。


「エルフババァの直感を凌ぐ能力か。特性か、スキルか……神器の所有者では無いようだが」


 顎に手を当て、むううと唸るゼスト。

 その立ち姿は貴族の執事の様でもあり、背筋が伸びスラリとした体躯に、黒い軍服のような服をビシッと着こなしていて洗練された印象を受ける。


「おい誰がババァだ?」


 エリーナが横でゼストの横腹に、手刀で鋭い突きを入れる。


 ゼストはそれを、ひらりと躱す。


「お前以外に誰がいる?」


 からからと嘲り笑うゼスト。


 更に手刀がゼストを襲うが、それをことごとく躱していく。

 何してんだこの人達。


 ん?

 

 今何か、幻魔石が反応したような?


 俺はおもむろに石に手を伸ばす。


 石から魔力が溢れ出る。

 それはまるで石から虹が溢れ出ているかのように、様々な色をしたオーラをそこから立ち上っていた。


「エリーナ何だこれは!?」


 ヴィムが慌てて叫ぶように訴える。


「わからん、私の鑑定でも見えん。何をしたお前!?」


 エリーナの顔にも焦りの表情が見えた。


「慌てるなばかども。黙ってみていろ」


 ゼストは一人落ち着き払い、それでいて期待感を持ったような目でそれを見つめていた。


 時間にして数秒、石はやがて全て魔力へ分解、変質し、やがて1つの形を作る。


「よう!」


 片手を上げて、気軽な感じで挨拶をする。


 そこに現れたのは推定7、8歳くらいの銀髪のエルフ少年だった。




>>>>>




「君は私の変化を見ても、あまり驚かないんだね?」


 ゼストは椅子に腰掛け、残念そうに言った。


「いえ驚いてますよ?ただ、何でもありの魔術ですから、そういう事もあるんだろうなと思っただけです」


「そうか、しかし私の変化を見破ったのは君が初めてだよ。いやぁ驚いた」


 はっはっはっと軽快に笑うゼスト。


「しかしゼストお主も老けたな?最後にあったのは、まだ尻の青い若造じゃったと思うのじゃが」


「人族はそんなものですよ、エルフやドワーフの寿命は人族の3倍ほどでしたっけ?羨ましいかぎりです」


 俺が形見に受け取ったと思っていた魔晶石。

 それが幻魔石という魔導具に変化していた。

 そして今、その幻魔石はアルドラさん(子供バージョン)に変化している。

 

 どうしてこうなった?


「わしにもわからん。気づいたらこうなっていたのじゃ」


 アルドラ・ハントフィールド 幻魔Lv1


「幻魔って何ですか?」


「わからん」


 俺は周囲を見渡す。

 皆一様に、首を振っている。

 どうやら幻魔を知るものは居ないようだ。


「大叔父様よかった……生きていらっしゃったのですね」


 リザの目には涙が浮かんでいる。

 本当に嬉しそうだ。


「いや、死んでたけどなー!わしにもようわからんが、生まれ変わった様な気分じゃわい」


 アルドラはテーブルの上に立ち、清々しい顔で胸を張った。


「いや、完全にそれ生まれ変わってますよ」


 俺はため息を吐いた。


「まったく昔からむちゃくちゃな奴だとは思っとったが、死んだ後に再び舞い戻るとは、ほとほと規格外の男だな」


 ヴィムは呆れたように呟いたが、その顔には決して悪意は感じられない。

 久しぶりに見る古い友人を、歓迎しているように見えた。 


「さて、こうして古い友人が久々に顔を出してくれたのだ。積もる話もあることだろうし、どうだろうか近くの酒場で1杯……」


 エリーナの睨みがゼストに刺さる。


「……と言いたい所だが、うちの秘書が許してくれ無さそうだな。まぁアルドラも世間話をしに姿を現した訳でもあるまい?」


 革張りの長椅子に深く腰掛け、足を組んだアルドラが不敵な笑みを浮かべる。


「もちろんじゃ。活動期じゃからのう、ギルドも忙しいじゃろう。わしもゆっくりしていきたいところじゃが、要件を済ませてしまおうかの」


 俺はアルドラさんに指示され、懐からウルバスが残した血石をテーブルに載せる。


「……これは?」


 ゼストの飄々とした表情が、一瞬凍りついたかのように見えた。

 ヴィムやエリーナも初めて見る品のようだ。


「魔人化したウルバスが残したものじゃ。おそらくは魔石に準ずるもののようだが、わしも初めて見る」


 崩れたウルバスの亡骸は、あっという間に塵となり、風に吹かれて消え去った。

 後に残されたのは、この血石のみだった。


「触ってもいいかな?」


「どうぞ」


 ゼストはそれを慎重に持ち上げると、しげしげと眺めた。

 その後、エリーナに手渡すも――


「私の鑑定でも、血石 素材 E級とまでしか見えませんね」


 魔人は人類の歴史上、人族の1体しか確認されていないそうだ。

 発生原因は疎か、魔人とはどういったものなのか、ほとんど資料もなくその存在は謎に包まれている。 

 唯一伝えられていることは、非常に好戦的で、極めて危険であるということ。

 人類にとって害であるということだけであった。


 研究者の間では、魔物の発生原因と同じでは?と考える者も多いらしいが、今のところ確証はない。


 魔物というのは動物が短時間に魔素を大量に吸収した結果、器が耐え切れなくなり魔物へと突然変異したもの。と考えられている。

 魔素はどこにでもある、目には見えない特殊な物質らしいが、濃度の濃さには場所によって違いが在る。

 植物の種類によっては濃い魔素が沸く場所で成長が高速で進む種もあり、条件があえば見る間に深い森が形成されるという現象が起こることも在る。

 大森林がその1例だろう。

 大森林では深いところほど魔素が濃く、魔物が多く生まれる場所なのだ。


 ちなみに植物、動物、虫、魚、どれも魔物化すると魔獣と呼ばれるらしい。

 知性の乏しい、本能に突き動かされる魔物のことを差すのだとか。




 俺達はウルバスについて、わかることを伝えた。

 俺は僅かな時間しか相対していなかったので、大した情報を持っているわけではないのだが、それはアルドラさんも同じのようだ。

 彼もまた接触していた時間は短く、それほど有意義な情報はなかった。


「つまるところ、魔人についてはさっぱりわからないということだな」


「じゃがこうなると、第3、第4の魔人が現れてもおかしくはあるまい」


 むむむと唸るヴィム。

 

「専門の研究者に任せましょう。少しでも何かわかるかもしれません」


 血石を調べ、発生原因を特定する。

 それができれば、今回のようなことも防げるかもしれない。


「ではこの血石はギルドに提出という形でいいかな?」


 ゼストがテーブルに置いてある血石に手を伸ばしかけると、アルドラから待ったがかかる。


「それは強制か?」


 ちらりとエリーナを見ると、彼女は一瞬考えた素振りを見せ――


「……いえ、任意です。冒険者が獲得した素材を、ギルドに提出するか、自分で処理するかは、本人の自由意志となります」


「……」


 ゼストが苦い顔で、アルドラを見つめる。


「ふむ、じゃがわしらも魔人がまた出現するようなことが起こり、誰かが犠牲になるようなことは望んではおらん。じゃがこれはジンの戦利品じゃ、わしが勝手にどうこうしていいものではない。じゃからわしがジンに掛けあって、魔人の手掛かりとなるであろう、その素材を優遇してもらえるように頼んでみよう。無論謝礼は必要じゃが」


 それでええかの?といった表情で俺を見つめてくるアルドラさんに俺は無言で頷き返した。


「わかりました。金貨30枚でどうですか?」


 エリーナが無表情で金額を提示してくる。


「金貨60枚じゃ」


 アルドラはそう即座に返答した。


「無理言わないでください。35が限界です」


「貴重な情報に金を出し渋るのか?50じゃな」


「わかりました。50でいいでしょう」


 ゼストはテーブルの血石を手に取りそう告げた。


「マスター!?」


 エリーナは信じられない!とばかりに驚愕の声を上げる。


「前途有望な若者に融資するのは悪い話じゃない。うだつのあがらないロビーで騒いでいるだけの連中に、金をバラ撒くよりずっと建設的だ」


 エリーナはまだ少し納得していなかったが、最後には折れ、了承した。


 その後、エリーナは謝礼金と俺のギルドカードを用意するために席を立った。

 ヴィムには俺が持ち込んだ、魔石や素材もろもろを鑑定、換金するために鑑定所へ行ってもらっている。

 俺が持ち込んだというか、多くはアルドラさんの地下収納庫にあったものだが。


 鑑定所と言うのは、ギルドの裏口に併設されている施設で、冒険者が持ち込んだ魔物の素材や迷宮から産出された未知の素材を鑑定する場所である。

 鑑定所はベイルの街中にもあるが、ギルドで行えば冒険者であれば無償で鑑定してくれるので、ほんんどの冒険者はここで鑑定するだろう。

 鑑定後、自分で使用する場合は持ち帰り、必要の無いものはここで売却するのが決まりになっている。

 ここで無償で鑑定後、もっと割のいい店に売却というやつも、中にはいるらしいが、一応罰則は無いもののそれらの行為は禁止となっている。

 そんなケチな事をするのは、いつまでも低ランクで行き詰まっている連中くらいなものだとゼストは笑った。


「それにしても、お主がギルドマスターとはな。それだけ時が流れたということか」


 アルドラさんは、ちょっとだけ遠い目をしている。


「まぁ周りが優秀ですからね。私が働かずともみんなが頑張ってくれるので助かってます」


「あの、受付で変化していたのは、俺を試すためだったんですか?」


 そう言われたゼストは惚けた様な顔を見せて、


「いえ、私は少女に変化して受付業を行うのが趣味でして」


「趣味!?」


「見破られたのも驚きましたが、アルドラの知人だったのも驚きました。アルドラが目をかけているだけあって興味深い。もしベイルで困ったことがあれば、声を掛けてください。私は普段先ほどの様な姿でベイルを巡回するのを仕事にしていますので」


 少女に変身して街を散歩するのが仕事なの?ギルドマスター!?


「ギルドマスターの肩書などただの飾りです。なんの意味もありません。私の仕事は街の犯罪者から少女を護ることです。街の平和を守りつつ、遠くから見守り愛でるのが私の仕事なのです」

  

「……はぁ」


 ギルドマスターは格が違った。

 

 俺の理解を遥かに超える存在のようだ。


 まぁ、いいか。平和を守ってるんだし、いい人なんだろう。


 ふと横を見ると、リザが無表情になっている。理解が追いついていないという顔だ。


 ……そっとしておこう。


「お主も、変わらんのう」


 そういってアルドラさんとゼストは、はっはっはと笑いあった。

   



 

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