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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第26話 冒険者ギルド

 自由都市ベイルはルタリア王国の西の端、ラウド辺境伯の領地より自立を認められた都市の1つである。

 この都市より西側が魔物の生息域である、ザッハカーク大森林。

 東側が人族の国、ルタリア王国。

 

 地理的な条件により大森林で魔物の異常発生が起こった場合、ルタリア王国へ至るにはこの都市近郊を通過する可能性が高い。

 つまりはこの地が、王国の防衛拠点となっているわけだ。


 大森林は一定周期で、活動期と停滞期を繰り返している。

 現在大森林は活動期。

 魔物が活発に活動する時期だ。


 魔物の異常発生も起こりやすいと考えられている。


 要警戒の時期ではあるが、冒険者にとっては稼ぎどきの時期でもある。


 停滞期では姿を見せることのない魔獣の類も姿を見せるようになり、それらの希少な毛皮等の素材が高値で取引されるのだ。


 そのため活動期のこの時期には、冒険者を志す者がこの街へ多く訪れる。


「ここが冒険者ギルドか」


 俺はリザと共に、ベイル冒険者ギルドの屋舎へとやってきた。

 3階建の石造りの大きな建物である。

 窓には鉄格子と鎧戸が見られ、ギルドの門戸は分厚い木と金属で補強された無骨なものだった。


「朝の混みそうな時間帯は外したと思うのですが、凄い人ですね……」


 ここまでの道程も、早朝だというのに既に街は人で賑わっていた。

 

 だが冒険者ギルドはそれ以上だ。


 屋舎の外まで人で溢れ、喧騒に満ちている。


 武装した集団が何組も集まっているようだ。これから出立する準備だろうか。

 金属の鎧を身につけている者などはあまり居ない。

 良くて革鎧か、布製の鎧といったような者も多いようだ。


 ベイルは元々は数千人規模の人が暮らす、小さな城塞都市であったそうだ。

 王国の騎士団が大森林へ向かうための、中継地点のような場所であったのだという。


 その立地が見直され要塞化が進み、やがて大森林へ赴くのが騎士から冒険者へと移り変わると、多くの人が冒険者へ志願するようになり、加速度的に大都市へと変貌していったそうだ。


 俺達はギルド屋舎の外まで溢れ出る人達を掻き分け、開かれた重厚な戸を潜り中に入った。


 ギルドの床には、古い石畳が敷き詰められていた。

 外壁は石造りだが、内部や骨組みは木造で、所々にはカンテラが明かりを補強している。

 掲示板に張られた依頼書と思しき書類、大きなホテルを思わせるほど広いギルドホールには、寒い日には火が焚かれるのであろう大きな暖炉が設置されている。

 暖炉の周辺にはテーブルや椅子なども設置され、そこで談笑する人の姿も見えた。

 多くの人で溢れかえり、その中を行き交う荒々しい男たちの姿。


 獣の皮を剥いでそのまま被ってきたような、野獣のような戦士。


 黒のローブを頭からすっぽり被った老人。


 全身甲冑の騎士っぽい奴。


 ほぼ裸の女。


 ギルド内部は混沌としていた。




「すいません、冒険者の登録をしたいのですが」


 俺は受付と思われるカウンターで、係の女性に声を掛けた。

 

 リン・マウ ギルド職員Lv31

 エルフ 62歳 女性


 エルフ族はやはり長寿なのか、見た目と実年齢にギャップがある。

 そういえばミラさんのステータスを確認していなかったが、彼女の見た目もかなり若い。

 このリンさんも、いいとこ20代前半くらいにしか見えないな。


 そんなことを思っていると、リザに脇腹を指で突かれる。

 ちょっとだけ口が尖って見えるのは気のせいだろうか。


「はい、登録ですね。少々お待ちください」


 エルフは美人しかいないのかと思うほど、彼女も美しかった。

 胸はリザのほうが……


「おい、兄ちゃん。ちょっと待ちな」


 俺は不意に背後からかかる声に呼び止められた。




 声を掛けてきたのは、熊のようにでかい男だった。

 服を着たザンギエフのようなやつだ。


「並んでるのが見えねえのか?用があるなら後ろに並びな」


 男は親指を立てて合図を送る。


「あ、そうでしたか。すいません」


 どうやら順番だったらしい。

 

 俺は男の指示に従い、後ろへ回る。


「とは言ってもコレで並んでるのか?」


 日本人の感覚だと1列に綺麗に並ぶ姿を想像してしまうが、どうやら冒険者には順番に綺麗に並ぶという能力が備わっていないらしい。

 ぐちゃぐちゃに固まっていて、とても順番待ちしているようには見えなかった。


 リザを見ても、この感覚は理解できないようなので、冒険者特有のいい加減な性質というヤツなのかもしれない。


「お兄さん、こちらへどーぞっ」


 困っている俺を見かねたのか、受付カウンターから声がかかる。


「すいません、お願いしま……す?」


 そこに居たのは、小さな受付嬢だ。


 丸い顔に丸い耳、褐色の髪に鳶色の瞳。

 身長120センチほどの、どう見ても人族の子供がちょこんと椅子に座っている。


 ノーマ・ビュケ ギルド職員Lv3

 人族 10歳 女性

 

 エルフなどもそうだが、見た目と実年齢にギャップがあることは、この世界に置いて珍しくはないように思える。

 まぁ異世界だしな、エルフがいてドワーフがいて魔物が徘徊するような世界だ。

 子供に見えて高齢の妖精族なんてこともありえると思っていたのだが、普通の子供のようだ。

 しかしギルドの職員で子供が働いていいのだろうか?


「冒険者の登録ですねっ?ここに名前と出身地、職業を記入してくださいっ」


 やたらキャピキャピした受付嬢だ。

 カウンターに羊皮紙とペンが差し出される。


「字が書けない場合は、代筆も出来ますっ。いかがいたしますか?」


 俺はこの世界の文字は読み書きできない。

 それゆえ代筆を頼もうとすると――


「ジン様、お任せください」


 リザがやってくれると名乗り出てくれた。


「ありがとう、頼むよ」


 ジン・カシマ ザッハカーク大森林 


 職業か……


 職業ってリザの薬師とかのことだよな?

 俺の漂流者って職業になるのか?

 

 俺が職業の表記に迷っていると――


「どうなさいました?冒険者に転職でよろしかったですか?」


「あぁ、そうだな。もちろん冒険者になりたいんだけど……」


「わっかりました」


ノーマはそう言うと、まるでクリスタルで出来たかのような四角く透明なブロックを取り出した。


「どうぞー」


 ノーマは気軽な感じで薦めてくる。


 俺はわけも分からず、言われるがままそのクリスタルブロックに手を載せる。


 しばらくするとクリスタルはピカピカと明暗し、更に待つと光は静かに収まった。


 転職石 魔導具 D級


 転職させてくれる魔導具か。

 さすがファンタジー、時々超技術が出てくるのは、やはりお約束なのだろう。


 ジン・カシマ ザッハカーク大森林 冒険者


「家名はカシマ様ですか?聞いたことのない氏ですが、ルタリアの方ではないですよね?」


「あぁ、まぁそうだな」


 なんて説明すればいいんだ?

 あんまり誰彼なく、異世界から来ました!なんて言いふらすのも問題ありそうだしな……

 話すにしても、ある程度信頼出来る人にしておきたいとは思うのだが。


「そうですか、わかりましたっ。出身地はザッハカーク大森林とのことですが、獣人の村でしょうか?エルフは異種族や混血を村へ滞在させることは無いはずですが」


 あまり深く追求しないでくれるのは有難いのだが、どうもこの子の軽い感じが馴染めないな……


「まぁエルフの村かな、一応……」


 実際は森の中に降って湧いたわけなんだけど。

 異世界人というのを、隠したまま手続きするのは無理なのか……


「まぁ、言いづらかったら言わなくても結構ですけどね」


 いいのかよ。


 だったら最初から言ってくれよ。


「あ、そうだ1つ報告があります」




>>>>>


 

 

 ギルド1階の廊下を進み、とある部屋へ案内されることになった。

 アルドラの村についての報告は、ギルドマスターが直接受けるそうだ。


 俺たちを案内するのはエルフの女性だ。


 エリーナ・ライネ ギルド職員Lv43

 エルフ 84歳 女性

 スキルポイント 0/56

 鑑定  A級

 弓術  B級

 騎乗  F級

 光魔術 B級

 風魔術 D級


 やはり年齢と見た目にギャップがある。

 俺の目には30代後半くらいの、大人の女性のようにしか見えない。

 落ち着いた上品な感じを受ける。

 先ほどのギルドホールの、粗野な雰囲気とは偉い違いだ。

 あれが冒険者のイメージだとすると彼女が漂わせるそれは、まるで宮廷の女官のような規律や礼節といった言葉が似合いそうな雰囲気を醸し出している。


 それにしても、この人レベルとポイントが一致してないな。

 ポイントの取得はレベルアップが条件のはずだが……




 ここ最近俺は見える情報を、ある程度コントロールできるようになってきていた。

 

 名前や職業など基本的な情報。

 

 スキルなどに至る詳細な情報。


 怪我や病気などに冒されていないかという、状態に関する情報だ。


 より詳細に見るには、ある程度凝視というか数秒間対象に集中する必要があるし、魔力も多く消費する。


 激しい戦闘中では難しいし、特に詳しく見るには顔周辺を凝視しなければいけないため、タイミングもある程度必要である。


「こちらでお待ちください」


 考え事をしている内に、辿り着いたようだ。


 俺達は部屋に入り、革張りの長椅子に腰を降ろしてマスターが現れるのを待つ。

 こういう場合、立って待ってないと失礼にあたるんだろうか?

 冒険者たちの雰囲気をみるかぎり、そのあたりは寛容であろうと思いたい。


「リザ、冒険者ギルドとかマスターについて何か知ってることある?」


 リザは首を横に振り「わかりません」と申し訳無さそうに答える。


「そっか」


 リザは冒険者じゃないのだし、知らなくても当然なのだろうけど。


 

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