第261話 魔力覚醒
意思があるかのように、ひとりでに浮かび上がる無数の瓦礫。その中を軽快な動作で進むのは俺のよく知る人物だった。
「――――ジン様っ」
全力疾走かという勢いを腕を広げ胸で受け止める。彼女の猛烈な勢いは腕の中に収まると同時に消失した。
「リザ、無事だったか」
広範囲の複合探知によって当然ながら彼女の無事は確信していたが、こうして目の前に元気な姿を見ることで僅かばかりの懸念も払拭された。
「はいっ、ジン様も」
俺が安堵から笑顔を見せると、彼女は僅かに涙を湛え目元を綻ばせた。
互いの無事を確認するかのように、腕を回し強く抱きしめ再会をかみしめた。暖かな心臓の鼓動。それほど長い時間では無かったはずなのに、気のせいかずいぶん長く離れていたような気がする。
「怪我はしていないようだな。良かった」
「……ジン様は少し雰囲気が変わられたような」
そう言った後、どうやらリザは俺に取り憑く幼女、もとい雷精霊の存在に気がついた。
「これは……」
「実際に姿を見るのは初めてだったか」
リザも精霊の存在は感じることができる。しかし、できたとしても声を聞いたり、姿を見たりすることはできない。いや、できなかった。精霊の姿を見ることの出来る者というのは、ごく僅かな限られた存在なのだ。
それが今はリザであっても目の前にいる雷精霊を見ることができ、声を聞き存在を感じることができる。俺以外の人間にも知覚できる、雷精霊の完全な実体化だ。
「ジンはジンのジンなんなんだから、勝手に触らないでぇーーーーーーーーーッッッ!!!!」
頭の上にしがみつく雷精霊の怒号。その勢いにほんの一瞬怯んだように見せたリザだったが、思いとどまりそれに耐えた。
「……申し訳ありません雷精霊様。ダメだと申されましてもジン様は私の夫なので、私が触りたいときに触りますし、触られたいときに触られます!!」
「!?」
リザは強い口調ではっきりと宣言した。
「えっ……意味、わかんない……!?……人間の言葉、難しい」
困惑する雷精霊。
「つまり、ジン様は雷精霊様だけのものではないという事です」
彼女は落ち着いた口調で諭すように語った。
「……そ、そうなの?ジンは……私のじゃないの?……また、私ひとりぼっちになっちゃうの……?」
途端に顔を曇らせる雷精霊。目に涙を溜め、まるで絶望とでも言うような表情。その小さな手から見る間に力が失われていく。
「……えっと、あの、リザ?」
「雷精霊様、大丈夫ですよ!」
リザは晴れ晴れとした笑顔で応えた。
「え?」
「ジン様は皆のジン様なのです!ジン様は皆で支えるべき存在なのです!!……私はジン様に頼られ、必要とされることが何より嬉しい……ジン様はこの世でたった一人の代えがたきお方。雷精霊様も共にジン様を支えましょう!!」
そうしてリザは俺がいかに素晴らしいかと雷精霊に語り出した。リザが感じた俺の優しいところだとか、強くて格好いいところだとか、かと思えば抜けたところもあって可愛いだのなんだのと次から次と――
何この辱め。新しいプレイ? リザは夢中で話してるけど、俺目の前にいるからね? これ、本人目の前で話すことじゃないよね。
――まぁ、悪い気はしないから別に良いんだけど。
「……わかった!私、ジン守る! 頑張る! 超頑張る!!」
雷精霊は鼻息も荒く決意を新たにした。
「ありがとうございます。お願いしますね、雷精霊様」
専有を試みた雷精霊だったが、リザの説得で納得したようだ。まぁ、俺にそこまでの価値はないと思うんだけども、君らが仲良くしてくれるというなら、それはそれでいいと思う。
「ところで、あの瓦礫を浮かばせているのって、リザの風魔術だろ?」
1つ2つなら、大岩程度の重量でも浮かばせられるのがリザの風魔術だと思ったが、これは俺の記憶にある範疇を余裕で超えている。しかも、これほどの魔術を行使するならば普通なら相応の精神集中が必要だと思うのだが、そのそぶりは全くと言って良いほど見せていない。というか、普通におしゃべりしてるし。
「はい、そうなんです。実は私の魔力、ほんの少し強くなったみたいなんです」
リザは指でほんとに少しだけだと強調して語るけど、どう見ても少しってレベルじゃない。控えめに見ても魔術自体の効果が数段階上がっているようだ。
『……感動の再会を邪魔するつもりはありませんが、混沌の動きが活発になってきているようです。そちらのほうも忘れずにお願いしますね』
やれやれとアルメリアのため息交じりの声が頭の中に響いた。
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