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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第260話 災害救助

 俺をこの世界に呼び込んだ元凶、そして加護を与え影となり身を守ってくれていた雷精霊。普段それほど意識していなかった彼女の存在を、今は強くはっきりと傍に感じることができる。


 まぁ、というのも実体化した彼女を肩車している状態だから当然なのだがな。俺が求めると雷精霊はすんなりと肉体の制御を返してくれた。やっと自分が自分に戻ったようで、しっくり収まるとところに収まったような安堵。なんとなく落ち着かない気持ち悪さがあったので正直助かった。


 今の雷精霊は亡霊のごとき半透明のような実態の無い姿ではなく、普通の人間の子供と何ら変わることの無い姿だ。のし掛かる体に触れてみれば肉の感触を得ることができる。足をなで回されたのが嫌だったのか、彼女は身を捩って抵抗した。


「どうでも良いけど、そこから降りてくれないか。……このままだと、ちょっと邪魔くさいぞ」


 視界の先にある光源をちらりと除きつつ雷精霊に諭す。


「や」


 彼女は短い言葉で拒絶して、俺の頭に強くしがみついた。うーむ、非常に面倒くさい。いつものように大人しく腕輪に宿ってもらえると助かるんだけど。


「いつもは言うこと聞いてくれるのに、今日はどうした?」


 少し強引に引き離そうと試みるが、彼女は俺の腕をすり抜け肩車から顔面に移動。樹液を求めるカブトムシのごとく張り付く幼女。……何これ、どんな状況。


「やぁだ!!」


 雷精霊は微塵の遠慮も無く、甲高い音を耳元で炸裂させた。脳の奥に突き刺さるようなキンキン声だ。


『よくわからないが、嫉妬のようなものかもしれないね』


 メルキオールが興味なさそうに応えた。少し離れたとこから水精霊メローたちが、こちらに向かって遠慮がちに小さく手を振っている。こちらも小さく手を振り返すと、雷精霊の圧力が強まった。地味に痛い。


『言わなくてもわかってもらえていると思うけど』


「はい、そうですね」


 見たところ大きな動きをしていないが、次の瞬間どうなるかわからない。雷精霊と遊んでいる時間は無いのだ。説得に時間が掛かるなら、このままの状態でいくしか無いな。


 それは良いとして、雷精霊の助力を得た俺の攻撃が何処まであれに通用するのかが問題だ。通用したとしても爆弾を抱えたあれをこの場で仕留めて良い物なのだろうか。ミスラ島そのものが消し飛んだりしないだろうな。その辺りのことをメルキオールに問い質すと、彼の返答は歯切れ悪く小首をかしげたのみだった。


 周囲の状況を知るためにもと、探知スキルをS級にして広範囲探知を試みる。魔力に加え、聴覚探知が島の住人の混乱を如実に伝えてきた。


 動揺を抑えつつ、更なる魔力を注ぎ範囲を拡大。ラジオのチャンネルを高速で切り替えるように、ノイズ混じりの大量の情報が頭の中を流れていく。


 島に暮らす多くの住人をはじめ、数多の生物と闇に紛れる魔物たち魔力を持つあらゆる存在、突如島を襲った衝撃に混乱と慟哭。大きすぎる情報が交通渋滞を起こしている。ノイズの原因は情報の多さもありそうだが、爆発の衝撃によって大気中の魔素量に変化が起きたせいでもあるようだ。メルキオールによると一時的なもののようなので、時間経過によって回復するだろうとのことだった。


 島民の叫びに緊張と不安が交差する。この爆発についても、考えてみれば自分に原因があったのではと、ふと脳裏を掠めてしまう。だが今はあえて深く考えないようにしたい。今足を止めてしまえば動けなくなってしまう、迷いが生まれ何事も上手くいかなくなってしまう、そんな予感があった。


 自分の行動の全てに保証があるわけでも確信があるわけでもない。常に不安はあるし、迷いもある。ただそれは人間なら少なからず誰しもあることだと、凡人ながらに理解しているつもりだ。俺は賢者でも英雄でも無い。迷い悩み足掻く、どうしようもない普通の人間なのだ。失敗するときは失敗する。ただ失敗を恐れていては何もできない。それが無謀な行動か勇敢な行動かはわからない。それでも自分がそうすべきだと思ったのなら、それを信じて行動したいと思う。少しでも後悔の無いように――――


 情報の濁流の中にはリザの声、シアンの声もあった。この場所とシアンのいる調査隊本部からは距離がある。脳裏をよぎる探知情報では、ひとまずは大丈夫そうだと窺えたが、周囲の現状を見るとそれも一つ間違えば危うかったのだと予測できた。


 それはそうと、不思議なのはリザの声だ。それほど時間は経過していないはずなのに、地下にいる彼女たちがどうやって地上に移動したのだろうか。


『君の仲間にはアルメリアが傍にいるはずだよ』


 アルメリアはアールヴ古来の魔術に造詣が深く、青の回廊についても知り尽くしている。彼女もまた何かしらの手段を用いて地上に戻ってきたのだろうとメルキオールは語った。


「例えばですが、アルメリア様の結界で衝撃を抑え込むことは可能ですか?」 


 アルメリアの魔術はメルキオールをも上回る。彼女の魔術で混沌が引き起こすであろう衝撃波を抑え込むのだ。


『そうだね、彼女の力があれば可能だと思うよ』


 



 ズシリと腹に響くような振動。大気が大地が震えている。混沌の脈動が再び活性化する。肉饅頭のような姿が、のらりくらりと触手が伸び始めた。


「アルメリア様と合流します」


『ああ、急いでくれよ。本当に時間はなさそうだ。こうして話している時間さえも惜しいくらいにね』


 あまり自由に動けないメルキオールはこの場に残り混沌の様子を監視してもらうことにした。探知でアルメリアの魔力を補足しつつ、最大限の魔力を込めた疾走スキルで移動を開始する。


 高速移動の途中、聴覚探知が親子の叫びを偶然拾った。混沌が地上に出現したと同時、正確な瞬間はわからないが、島の地表が一部変化するほどの衝撃波が起こった。その際に巻き込まれた島民が少なからずいるようだ。


 海人族が暮らす島の住居は、切り出した大きな石を組み上げた物が大半。横からの衝撃にはあまり強くはなさそうだ。


 時間はない。全くない。間違いなく一分一秒さえ惜しまれる状況。むしろ、こうしてアルメリアを迎えに行く時間さえあるのかどうか疑わしい。今すぐ俺の持てる魔力を総動員させ、雷精霊の助力を最大限に利用し、最大の攻撃力を持って混沌に対処するのが最善なのかもしれない。もしかしたら、そのほうが結果的に被害は抑えられるのかもしれない。


 思わず足を止める。目の前には切りそろえられた大きな石が、まるでドミノ倒しのように崩れていた。すぐ近くで聞こえる子供の泣き声。


 ――火魔術 破壊


 魔力を物質内部に送り込み、内側から粉砕する魔術。破壊魔術を受けた石はなんら抵抗することもできず、鈍く弾けるような音と共に小さな石がいくつかと、砂利が少しと砂粒に姿を変えた。


 魔力探知でよく調べると、瓦礫に人が埋まっているのがわかった。近くにいた子供の様子を窺うと、埋まっているのは肉親か何かだろうか。


 次々と瓦礫となった石を取り除いていく。破壊の対象を間違えると、雪崩のように一気に崩れる可能性もあるので、取り除くヶ所は慎重に同時に時間は無いので可能な限り高速でおこなう。


 時間は無い。どうしたって時間は無いが、耳で聞き、目の前で見てしまえば足を止めてしまう。見て見ぬふりなどできなかった。出来るはずがなかった。


 異様な鎧を身にまとう俺の姿に子供は驚き警戒するものの、助けようとする救助活動は理解したようで敵意を向けてくることは無かった。瓦礫の中から海人族の女を救出する。意識を失い多少の怪我もあるようだが命に関わるような状態ではなさそうだ。


 子供は母親が助け出されたことで少しだけ安堵の表情を見せた。同時に母親を助けてくれた異様な姿の人間に、礼を言うべきかどうか戸惑っている様子だった。今の俺は素顔も兜で隠れているので、何者なのかまったくわからないだろうからな。冒険者でも全身鎧はあまりいないし、冒険者にも見えないのかもしれない。とはいえ呑気に自己紹介している暇も無い。


「礼は良いから、それより少しだけ協力してくれ」


「う、うん?」


 おもむろに子供の手を取り魔力吸収を使いつつ、同時に母親には光魔術 治癒を行った。治癒は魔力の消耗が大きいので少しでも負担を減らすためだ。幸いにして女の怪我は深刻なものではない。これならさほど魔力を消耗せずに対処できそうだ。


 意識を取り戻した女と子供に、すぐにこの場から離れるように指示を出す。同時に魔力探知を行使すると、まだ瓦礫に埋まっている人々がいることに気がついた。


「不味いな。これ全員助けていたら、時間がいくらあっても足りないぞ……」


 思わず口にする思いに応えるように、人々が埋まっているであろうヶ所の瓦礫が次々と宙に浮かび上がった。

  


 

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