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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第255話 心臓

 空間を満たしていた液体は潮が引くように姿を消した。


 同時に無数にいた有象無象の化け物も姿を消し、残ったのは巨人のごとく異様に膨れ上がった悪魔の姿。


 周囲に視線を送るが、アルドラの姿は見えなかった。どうやら氾濫が生み出した激流に飲まれ流されてしまったらしい。


「うおぁぁぁぁぁぁぁ――――」


 嗚咽のような声を響かせ、悪魔の体が微かに震える。


 それを合図とするように、ブーツを濡らす程度に残った血のような液体が悪魔を中心に氷結していった。


「ん、悪魔の額に何か刺さっているね……」


 メルキオールが凝視する先に何かが見える。刺さっているというより、突き出していると言った方が正しいだろうか。


 あれはアルドラの所有していた氷の魔剣だ。彼が突き立てたものなら、柄を上にして刃が食い込んでいるはず。しかし、ここから見ると刃が内部から突き出しているように見える。


「取り込まれたかな」


 アルドラの気配は近くにいるようだが、正確な居場所までは判断できなかった。


 悪魔が巨腕を振るうと、針を刺すような冷気が嵐を引き起こし、空間を見る間に氷結していった。全ての物が凍り付く氷の世界。


 悪魔の膨大な魔力が、氷の魔剣の威力を高めているのだろう。耐性を持つ俺には無意味だが。


 メルキオールは火球と破壊を合成したスプレッドを悪魔を目掛け放出した。


 無数の小火球が悪魔の皮膚を蹂躙する。爆音、そして炎が瞬く間に全体を包み込む。キラキラと光る悪魔の硬質化した皮膚が弾け空中に飛散した。

 

「破壊魔術は魔力波動を流し込み、内部から崩すことを目的とした攻撃魔術なんだ。耐久力が自慢の、こういったタフな相手ほど、格好の獲物というわけさ」 


 スプレッドの数は多く、悪魔はなすすべ無く棒立ちの的となっっているだけだが、巨大化した体を滅するには破壊力が足りない。


 悪魔の体を破壊すると同時に再生が行われ、どうやら互いに拮抗した状態になっているようだ。

 

「弱体化しているとはいえ、再生力は未だ健在か……もう少し、深くまで抉る必要があるかな」


 魔物とは異質の存在であるという混沌なのだが、それでも魔物で言うところの魔石のような核とも呼べる重要な部位が存在するらしい。


 通常の生物に例えるなら脳、或いは心臓と言ったところか。


「今の状態では魔力探知が邪魔されて、僕でも正確な波動を感知できない。いくらか分割して探しやすくしてから、混沌の心臓を見つけることにしよう」


 火球 創造 破壊


 周囲に生み出された無数の火球。高熱を放つ魔力の塊が、球体から見る間に形を変化させ刀剣の様相を形取った。


 創造魔術はかなり自由度の高い魔術らしく、攻撃魔術の基本設定などある程度は自由に操作できるようだ。

 

「こっちの方が刺さりやすいかな」

 

 火球を変化させ作り出した火剣は、メルキオールの合図を受けて放たれた。


 それぞれが生き物のように変幻自在に飛翔する火剣が相手となると、巨大化して鈍重となった悪魔では躱すことも迎撃することも不可能だった。 


 首、腕、脇腹と次々と火剣が突き刺さる。深々と食い込む刃。火剣と悪魔、二つを対比させると差がありすぎて効果の程が心配されたが、それが無駄な心配なのだとすぐに理解できた。


 激しい爆音と同時に悪魔の巨腕が崩れ落ちる。断面から激しく吹き上がる炎。落下した腕はすでに原型を失っている。


 あまりにも一方的な攻撃力。反撃の暇さえ与えないといった状態。本職の魔術師ではないと本人は語っていたが、それでもこれだけの能力が――


 あれ、俺の体と能力をメルキオールが操作しているんだよな。それって、つまり?


「そうだよ。これは君が本来持っている能力を僕が引き出していると言ったところなのさ。力の使い方を理解していないだけで、君にもすぐに同じようなことができるはずだよ」


 メルキオールの言葉が終わると同時に、火剣の攻撃が再度放たれる。


 崩れ落ちる悪魔の体。その風体は既に満身創痍といった様子だった。思いのほか呆気ない結末に肩の力が抜ける。


 これがアルメリアやメルキオールの警戒していた怪物なのか。これなら色々な代償を支払ってまで、長いこと封印しなくても何とかなったのでは無いかと思わなくも無い。


 火剣によって炎上する肉体を氷結で食い止め、その端から再生を始めようとする悪魔であったが、火剣の威力が高く再生が追いつかない。


 内部から爆発、炎上を繰り返し、悪魔の体は徐々に崩れていく。一撃の威力は、それほどでも無いが圧倒的に数が多い。この様子では、誰が見ても結末は明らかだと言わざるを得ないだろう。


 崩れる悪魔の内部から、見慣れない漆黒の塊が露出した。全ての光を吸い込み塗り潰してしまうような、深淵を思わせる黒色。その露出した部分から、不穏な気配を持った魔力の波動が放出されている。


「間違いない。あれが混沌の核だよ。あれを破壊するか、取り除けば混沌の活動は停止する」


 渦巻くような膨大な魔力。それは凄まじい速度で即時変換され、超攻撃的な魔術を形成していく。


 周囲の空間には今までに無い数の火剣が生み出された。これで瀕死状態の悪魔に止めを刺すつもりなのだ。


 メルキオールの合図を受け、無数の火剣が混沌の核へ目掛け殺到した。


 不可解な怪物の呆気ない幕切れに少しだけ引っかかる物があるような気もするが、悪魔の反撃の兆候も見えないことだし杞憂に終わることになりそうだ。


 時間差による火剣の攻撃。おそらく同時に攻撃すると、数が多すぎて相殺される場面も出てくる可能性を考慮してのことなんだろう。


 狙い定める猛禽類かのように、対象に矛先を向け空中に静止する火剣の姿は恐ろしい物があった。まぁ、混沌に恐怖を感じるような、人間らしい感覚があるのかどうかは不明だが。


 漆黒の塊が大きく露出し、魔眼を通して情報が流れ込んでくる。


 悪魔の心臓


 それと同時に――


 プロメテウスの火


 その瞬間、レイシから預かった魔導石のことを思い出した。


 手に持っていたはずだが、いつの間にか無くなってる……あれ、どこで無くしたんだっけ……?


 魔眼による情報から、混沌の核と思われる部分と預かった魔導石(超威力の爆弾)が融合しているらしいと言うことがわかった。このまま攻撃すると、なんだか不味い気がする…… 


 メルキオール様、すいませんが攻撃いったん中止してください。あの浮かんでいる奴だけでも引き戻して!


「一度解き放った魔術を戻すことなんて不可能に決まっている」


 当たり前のことを聞くなと言った感じで、メルキオールがため息交じりに答えた。


 え、そうなの? あれ、これっヤバいんじゃね――


 俺の進言も虚しく、空中で静止していた最後の火剣が投下された。残された物量を全て投じた、文字通りの最後の攻撃。大量の火剣が悪魔へと目掛けて降り注ぎ、尾を引く火の粉がハリネズミを連想させた。


 そして次の瞬間、突如生じた目の前を埋め尽くす閃光に、抵抗する時も術も無く、俺の意識は吹き飛ばれた。

お読みいただき、ありがとうございます!

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