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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第237話 提案

 地上を走る2つの影。魔力の大きさ、直線的な動きを見る限りおそらく人だろう。


 それを追いかけているのは、獰猛な海の妖魔クラーケン。地形を無視した人ならざる動きで、必死に逃げる者たちを追い詰めていく。あの速度では追いつかれるのは時間の問題だ。


 クラーケンは群れる性質の妖魔でありながら、巨人のように単独行動を好む妖魔らしい。それが複数でいるということは、ダゴンはクラーケンの上位種のようなものか。


 巨人も群れないとされていたけど、自分よりも遥かに強力な個体には従うようだったしな。蛸と烏賊なので違う種族なのかもしれないが、俺から見ればそう見えると言うだけなので蛸でも烏賊でもどっちでもいいか。


「なぜアイツらが襲われているんだ? 俺たちは魔物に襲われないはずなのに……」


 石橋の上から様子を窺っていたギランが信じられないと呟いた。


「小僧、お前の仲間は何人おるんじゃ?」


「こ、小僧? ああ、2人だ。5人で遺跡に入ったが、途中で2人は返したからな」


「そうか。さて、どうしたものかのう。藪を突いて蛇が出たという訳じゃ。自業自得じゃが、見捨てるにしても助けるにしても、決断は急がねばならんな」


 そういってアルドラが俺を見た。ちょっとにやにやしてる。遺跡の深部とはいっても、ここまで危険な場面は無かったといっていいくらいに順調だった。正直ぬるかった。そんな状況で現れた強そうな魔物。あれなら思いっきり暴れられると、わくわくしてるのかもしれない。彼はそういう子だからな。


 それはともかく決断するのは俺じゃない。俺リーダーじゃないからね。リーダーはリディルさんだから。そう思って俺はリディルさんに視線を移すと、彼女も俺を見ていた。


 というか全員俺を見ている。見つめている。俺が何か言うのを待っているかのように静まり返っている。全員が早く何か言えと目で訴えかけてくる。


「あ、やばい、後ろ」


 咄嗟にダゴンの方へと指をさす。巨大な魔獣の触手の1本が、こちらへと先端を向けた。その先端に尋常ならざる魔力が集められている。全員がその意味に気が付いたようだ。周囲の空間が歪むほどの凄まじい魔力量。それは探知系スキルを持たない者でも、異常さが感じられるほどの圧力だった。


 次の瞬間、触手の先端に巨大な氷塊が成型される。軽自動車、いや、ミニバンかそれ以上の大きさの氷塊が一瞬で出現、その塊はまさにこちらへと向けて高速で放たれた。


 このまま直進すれば石橋に直撃するコース。古代遺跡の建築物だ。魔法で保護されている可能性もあるが、あまり頑丈そうには見えない。あれの直撃を受けて無事でいられるかどうか。


 俺が反応するよりも早く、2人が動いた。リザとダリアさんだった。2人が同時に繰り出したのは風魔術の気流操作。風の流れを操る魔術らしいが、それで防げるのか。


 魔力探知と魔眼で、2人が操る風の流れが見える。それで何をやろうとしているのか理解できた。正面から風をぶつけて氷塊を止めるのではなく、上から持ち上げるようにして風をあてて軌道を反らそうというのだ。


 逆風の射程には限界があるし、止められなかったら直撃は免れない。そのため気流操作を使い弾道を変えることで、直撃を防ごうということか。気流操作なら2人とも使えるし、協力し合えるということだろう。それを2人とも打ち合わせもなく、アドリブで咄嗟に合わせたのか。凄いな。


 軌道は僅かにそれた。直撃は避けられそうだが、氷塊の一部は掠めそうな危ういコース。気流操作は風魔術なかでもパワーの小さい魔術なので致し方ない。


 氷塊はすでに石橋の目の前まで飛来していた。そこへフィールが氷塊の前へと進み出る。散歩へ行くような気軽な動作。ゆっくりと右腕を伸ばし、軽く腕の調子を確認すると、氷塊の接触する絶妙なタイミングを見計らい拳を放った。


 流れるような動きには一切の淀みがない。結果を確信したような動きだった。できて当然といた感じだ。当たり前に氷塊の前へと進み、そして拳の一撃で砕いた。デューター・ミューラーみたいな奴だな。


「目的地まで近いというし、放置するわけにもいかないか。すでにこちらを認識しているようだし、片づけるしかないだろうな」


「……片づける?」


 ギランが驚いた表情でこちらを見た。いや、顔ボコボコで表情なんてよくわからんけど、そんな顔をしてるような気がした。

 

 リディルとキースが呆れた様に溜め息を吐く。アルドラとフィールは何故か嬉しそうだ。


「あれをやるのか……燃えるな」


 レドがやる気を見せる。


「だ、大丈夫。ミラさんは必ず守る……」


 ブルーノが決意を新たにした。


「老体をこれ以上働かせようだなんて酷い男だねぇ」


 フィールがおどけたように答えた。獣人族は寿命だけで言えば人族とあまり差は無い。たぶん健康に気を付ければ90歳くらいまでは生きられる。聞いた話によると彼女は60過ぎらしいので、一般的な感覚で言えば老体と言って差し支えないのだが、先ほどの動きを見せられてはその言葉に頷く者はいないだろう。


 全身を覆う筋肉。体の大きさだけならアルドラ以上。彼女の強さはアルドラも保証している。多くが狩猟採取民であるという獣人族の中で、唯一戦闘民族と呼ばれているのが彼女たち獣熊族だ。彼女たちは生まれながらにして戦士なのだ。その肉体に衰えなどというものは存在しなかった。


「申し訳ありません。巫女の安全と、彼女の同胞の命を救うためにご助力お願いできますか」


 俺が恭しく頭を下げると、フィールは大きな声で笑った。


「やめとくれ、背中がむず痒くなる。戦いはアタシらの本分さ。獣熊族は戦場を選ばないからね」


 冗談を冗談で返しただけなのだが、なぜか本気で嫌がられた。



 俺が即席で考えた作戦を提案すると、ことのほかすんなり受け入れられた。まぁ、意見を出し合っている時間もないし、それならそれで文句はない。


「アルドラとフィールは下に降りてギランの仲間2名を回収。同時にクラーケンを可能な限り撃破しつつ、ダゴンの陽動を頼む。できるだけこちらから注意を反らすように」


「うむ、わかった」


「はいよ」

 

 リザとダリアさんが付与術を施すと、2人は躊躇なく石橋から飛び降りた。不死のアルドラはともかくフィールも、俺が決めたこんなざっくりした指示で行動開始してよかったのだろうか。いや、もう行っちゃったんだけど。まぁ、リディルさんもダリアさんも気にしている様子はないから、別にいいのか。


 俺はフルールからトライデントを受け取った。儀礼用の槍しか携帯していなかった彼女に譲った得物だったが、今一度使わせてもらうことにしよう。


「これからダゴンを仕留めるために魔力を溜めます。その間、俺は無防備になると思うので、俺の傍に魔物を寄せ付けないように守ってください」


 単独行動に強いアルドラとフィールを陽動に使い、残りは俺の護衛に。空飛ぶ烏賊とクラーケンがこっちに来るかもしれないからな。クラーケンが来ると、ちょっとヤバいかもしれないけど、全員で掛かれば1体くらいなら対処できるだろう。


 全員が頷いて各所配置についた。リザとミラさん、フルールは俺を囲むようにして待機する。


 俺はトライデントを構え魔力を注ぎ込んだ。トライデントに付与されている蓄積は魔力を貯め込む効果がある。これに俺の魔力をありったけ込めてやろうという訳だ。


 まぁ、本音を言えばS級の雷撃を撃てるだけ撃ち込めば倒せそうな気もする。クラーケンの親戚なら雷撃有効だろうし。


 とはいえ、蓄積という魔術効果がどれほどの物か試してみたいという好奇心もあった。好奇心が八割、残り二割は連射の利かない雷撃を近距離で何度も撃ち込むのが難しそうという理由からだ。


お読みいただき、ありがとうございます!

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