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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第236話 深海の魔王

「リザさん大丈夫ですか?」


 フルールは跪くリザに駆け寄り体を支えた。


「はい、大丈夫です。少し驚きましたが、あの術は相手を拘束するのが目的のようで、あまり威力はないようですね」


「そうですか、無事なら良かったです。それにしても、ジンさんがあんなに苛烈に怒りを見せるなんて驚きました。やはり愛する人を傷付けられて、黙ってはいられなかったのでしょうか」


 フルールはうっとりした様子で溜め息を吐いた。


「愛する人……えっと、ジン様はお優しい方ですので……」


 リザは平静を装いつつも、少しだけ嬉しそうに答えた。


「そうですね。お二人を見ていると信頼と言うのでしょうか、こう、何といいますか、絆のようなものを感じます。……羨ましい限りです」


 フルールの言葉にリザが微笑む。笑顔が見えるので具合は悪くはないようだ。呑気におしゃべりしていい状況じゃないんだけど、まぁ、いいか。


 攻撃的な術ではないとわかっていたけど、多少のダメージはあったはず。とりあえず、見る限り影響は小さいようなので安心してもいいだろう。



 背後からフルールとリザの視線を感じつつ、掴んでいたギランの胸倉を乱暴に突き離す。すでに自分の体を支えるだけの力も失っていた男は、勢いのままに地面に倒れた。


 ガントレットを装着したまま闘気を込めた打撃は、相手を半死半生に追い込むのに十分な攻撃力があった。拳を覆うガントレットは金属製ではないけど、十分に拳を守る役割を果たしている。更に武器を扱うだけでなく格闘戦も想定しているので、打撃力を底上げするような工夫が施されているのだ。


 つまり竜魚鱗のガントレットは、嫌な奴をぶん殴るには丁度いい装備だった。


「殺しはしない。一応、あんたも巫女様の同族だしな」


 縛り上げて、その辺に放置しても仲間が助けに来るんだろうし。戦士団最強の男なら、こいつ以上に強いヤツはいないのだろう。


「コイツどうするつもりだ?」


 レドが退屈そうに聞いてきた。


「これ以上邪魔されるのも面倒だし、拘束して連れて行こうと思う」


 もし彼を取り返しに向かってくるなら反撃すればいい。まぁ、逃げるにしても、この戦力に対抗できる戦力が戦士団にあるとは思えないけどな。


「そうだねー、ここに放置するのも可哀そうかな」


 リディルが霧の中を見つめて答えた。近くには魔獣の息遣いが聞こえてくるようで、警戒を緩めることのできない状況だった。


「結局何がしたいのかよくわからん奴だったな」


 レドがつまらなそうに答えた。


 対峙した感触で言えばギランは弱くはない。その割にあっさりと制圧できたのは、シガさんから借り受けた装備の性能も大きいだろう。余力ある魔力を装備に回し、他のスキルにポイントを回せる。


 今まで装備は二の次にしてきたが、これからは少し考えた方が良いな。ミスリルも十分に手に入りそうだし。ベイルに帰ったら何かできないか、ヴィムに相談してみよう。ミスリルといえばドワーフだろうしな。


「ごめんなさい、私にもわかりません……」


 フルールが申し訳なさそうに答えた。巫女様が謝る必要はないんだけどな。


「ははは、認めねばなるまい……貴様は俺よりも強いッ……」


 ボコボコに腫れあがった顔で言っても、なんか締まらないけど……うん、なんかゴメン。


 死ぬような怪我ではないし、後で魔法薬を飲ませておけば問題ないだろう。いざとなれば俺の治癒もある。俺は光魔術の適性は高くはないから消費魔力が尋常じゃないけど、S級にすれば欠損部位も治せるからいざという時には役に立つはず。


「ジン、何かいる」


 リディルがじっと霧の中を見つめ呟いた。



 ふおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ――――――――


 

 広大な空間に反響するように何者かの声が響いた。


 魔物の鳴き声だろう。かなり遠くにいるようだ。未だ霧の中には多数の魔物がいて、声の主の正確な場所は掴めない。だが魔力の強大さから察するに、かなりの大物だと思う。


「くくく、俺が何の策もなく、この場にやってきたと思ったのか?」


 ギランが余裕の笑みを浮かべる。


「貴方と言う人はまさか――」


 フルールの表情に焦りの色が滲む。


 男は石橋に伏したままで答えた。


「あれは海人族の勇者が賢者と共に地底深くに封印した魔物。遺跡に張り巡らされた結界によって長き眠りについていたが、結界を失った今目覚めの時がきた――」


 ズシンッと石橋が揺れた。大きな揺れに石橋が崩れるかと思った。地の底から響く様な小さな揺れが連続して続く。


「なんて馬鹿なことをっ!」


 フルールが悲痛な叫びを上げる。


「そんなに危険な奴なの?」


 巫女とギランで盛り上がってるけど、こっちには情報ないからな。そんな危険な魔物がいるとはレイシも言ってなかった気がする。


「えっと、非常に危険な魔物です。私も話に聞いただけなので、詳しくはないのですが……」


「見よ、姿を現したようじゃぞ」


 霧の中から巨大な魔物が姿を現す。それは高所に掛かる石橋を楽に乗り越えるほどの巨体だった。巨体から伸びる触手が霧の中を探るように蠢く。


 ダゴン 魔獣Lv62


 巨大な蛸だった。赤褐色の肌に無数の突起。巨大な金色の眼球が目まぐるしく周囲を探っている。太く長く伸びた8本の触碗。


「ダゴンか、これは珍しい魔物が出てきたのう」


「知ってるのか?」


「うむ。相手をしたことはないがな」 


 長く生きれば生きた分だけ、際限なく大きくなる魔物だと言われている。俗に深海の魔王と呼ばれるこの魔物は、深海に住む数多の魔物を従えているのだという。


「他にもおるようじゃな」


 アルドラが示した場所へ視線を移すと、巨大な蛸の周囲に小さい魔物がいるのがわかる。いや、巨大さ故に距離感が掴めないが、周囲にいる奴も小さくはないな。それにあの魔力は感じたことがある。


「あれって、クラーケンじゃないか?」


 レドが石橋から身を乗り出して答えた。

お読みいただき、ありがとうございます!

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