第232話 闘争本能
俺が動くまでもなく、彼の仲間がギランの元へ駆け付けた。
魔導石が投げ込まれると、群がる中で強力な閃光を発しオーグルの動きを封じた。初めて見る光属性の魔導石だろうか。
俺は竜骨兜のお陰なのか閃光を浴びても問題はなかったが、普段は暗闇に潜む者たち彼らには相当堪えたに違いない。
俺の探知を掻い潜った高性能の隠密系の装備。彼らの装備の出所も気になる所だが、今は目の前の魔物の対処を考えるとしよう。
オーグルの誘惑も解除されたようだ。新装備の検証には丁度いい相手かもしれないな。
「グオオオオオォォォァァァァァァーーーーーッッッ!!」
「悪いな。俺の検証に少しだけ付き合ってくれないか」
巨漢のオーグルが雄叫びを上げると、周囲のオーグルがそれに同調する。神殿の至る所、壁面、梁にと無数のオーグルの姿があった。
身にまとった装備に魔力を流し込む。全身の装備に魔力が行き渡り、それぞれの魔力が循環する。
何が合図となったのかはわからない。俺に向かって無数のオーグルが飛び掛かってきた。拡大された視界を埋め尽くす数だ。トライデントの魔力を地面に向けて暴発させる。
「――ッガッ!?」
そこからは乱戦だった。棍棒を腕で受け止め、拳をオーグルの顔面に叩き込む。
乱戦の中で棍棒、鉈、槍の刺突を受けるがダメージは思ったよりもない。耐性にもスキルは振っているが、それだけではない戦闘衣に付与された“盾鱗”の効果だろう。
無数の輝く六角形の鱗が、薄く体全体を覆っている。極小の鱗は1枚では脆く弱いのだが、攻撃をまとまって受けることで威力を緩和する。
「ウオオオォォォォォーーーーッ」
装備自体の防御力はかなり高い。動きを制限されることもなく、可動域に不自由は感じない。魔力の消耗は確かに多いが、それを余りある性能がある。
しかし乱戦に長柄武器は少し不利だな。
魚鱗竜の棘牙剣 魔剣 B級 魔術効果【鋭刃 貫通 猛毒】
刃渡り40センチ強の幅広の短剣。魔力を込めると、刀身に薄っすらと波模様の斑紋が浮かぶ。
移動しつつも身を翻し、襲い掛かる者たちへと猛毒の刃を振るった。浅く斬りつけるだけでも十分。猛毒は瞬時に肉体を蝕み、激痛と共に体の自由を奪う。
止めは後でもいい。群れを掻き見出し、いいだけ混乱させてやろう。
巨大な戦斧を握るオーグルが行く手を阻む。闇魔術“誘惑”で支配下に加え、群れに突っ込ませ暴れさせる。派手に暴れれば暴れるほど、陽動としての効果が高まる。
誘惑いいな。効果時間は短いが、性能は強力だ。隣にいた味方が、次の瞬間に敵に変わる。それも制限なし。射程距離は非常に短いが、視線が合えば誘惑は使える。
適当に数体支配して陽動に加えよう。あまり誘惑を使っては装備の性能検証にならないからな。
背後で両断されたオーグルの肉体が宙を舞うのが見えた。
神殿を埋め尽くすオーグル群れ。そんな中で広がるぽっかりと空いた空間。中心にいるのはアルドラだ。2本の大剣を嵐のように振るうその場所に、立っていられる者などいなかった。
片手で扱うような代物ではないはずの得物も、彼は重量を感じさせない動きで軽々と操っている。
「あまり無茶をするでない。嫁が心配しておるぞ」
アルドラはこちらへと声を掛けながら、振り向くことなく背後に迫るオーグルの顎を叩き割った。
悶絶して地面を転がる魔物の頭部を、足で踏み抜き砕き潰す。
「そうか。悪いことをしたかな。おそらく、この装備の性かもしれん。溢れ出る力が高揚感を生む様だ」
今までにない戦闘向きの高性能。自前のスキルを調整すれば、より自由に動ける。アルドラのように思うがままに力を振るえる。
「ほう。随分と良い品を手に入れた様じゃな。邪悪な気配はせんので、危険な代物ではないようじゃが」
「ああ、この高揚感に身を任せて魔力を使い過ぎると危険かもしれない。ほどほどに留めておこう」
梁の上から弓でこちらを狙っているオーグルを発見。懐に忍ばせておいたスローイングナイフを放つ。氷付与と闇付与を同時に添加したものだ。
通常は1種の属性しか付与できないそうだが、魔力を制御すればこういった無理も可能らしい。ミスリルは魔術との親和性が高く、手元から離しても長時間高い効果を維持できるそうだ。
ナイフが命中したオーグルが落下してくる。付与の効果としては、氷は冷気で運動性能を引き下げ、闇は恐怖で判断力を鈍らせるといったところかな。どれくらいの効力があるのかは不明だけど。
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