第217話 微笑
黒き魔眼のストレンジャー 精霊の導きと覚醒するブラッドオーブ 7月24日 発売です。よろしくお願いしますm(_ _)m
魔力制御の検証は概ね問題なかったが、新しい雷魔術の開発は順調とはいかなかった。
ミラさんに魔力を分けて貰い、度重なる実験を繰り返したが成果は上がらずじまい。ダリアさんにも指示を仰いだが、彼女としても魔術開発となると専門外であるという。
参考になればと彼女が所有する魔術開発に関係のある資料を借り受けたが、文字が何となく読めるといったレベルの俺では読み込むだけでも難作業である。
魔力の消耗と回復を繰り返し精神的にも肉体的にも疲弊した俺は、何時倒れたかもわからぬほど気付いた時には深い眠りについていたようだ。
「ジン様、何をされてるのですか?」
翌朝、長時間の睡眠から魔力と体力を取り戻した俺は、再び検証作業を行っていた。
「新たに光魔術 治癒を手に入れたからな。その検証をやっておこうと思ってな」
目の前には今朝、アルドラが岸辺で釣ってきたばかりの魚が横たわっている。体長60cmほどの鯛か何かに似た魚だ。
地元の子供たちと遊んでいたら友好の品として頂いたらしい。どうやら釣りが気に入ったらしく、先ほど戻ったと思ったらまた岸へと出かけて行った。まぁ、それはいいか。
魚は新鮮そのもので、ときおり逃げようと身を跳ねさせるなど存分に生きが良い。これなら検証にも使えるだろう。
「治癒は死んだ魚には効果がなかった。死んでいる者、もとより生き物でない者には効果がない。治癒魔術はB級以下だと、対象物が持つ自然治癒力を高めるといった効果になるらしいからな」
魚に包丁で切れ込みを入れ、治癒を使用する。魚の傷が見る間に塞がっていく。今度は死なないように気を付けてヒレを切り落とすか。S級で失った部位も再生できるのか実験だ。
「凄い、凄すぎます。流石はジン様です。このような高位の魔術、扱える者がいるなど聞いたことがありません」
彼女の称賛はいつものことだが、もとはと言えば治癒もその他のスキルも魔物の一部であり状況としては借り受けたようなものなので、そう手放しで褒めたたえられても困るところなのだが。
「いいえ、扱えるだけなら他の者でもいるでしょうが、ジン様は手に入れた力を短時間で自分のものにし、使いこなすことができる。たくさんの術を修得できる能力よりも、ジン様に備わったその力はずっと優れたものだと思いますよ」
我がことのように誇らしげに語るリザ。とはいえこれも彼女の平常運転であるので、気恥ずかしくもあるが有り難く受け取っておく。
なんにせよ魚は失ったヒレを問題なく再生させた。効果を見るに現時点ではS級のライフポーションと同質の効果だと考えて良いのかもしれない。ダリアさんの説明では、ヒレが再生するのは本体にヒレがあった時の記憶があるからとか何とか言ってたな。
高出力の魔力と、周囲に存在する微精霊が記憶を元に、本来あるべき姿を予測して再生するとかなんとか。よくわからんけど、治癒S級は欠損部位の再生も可能としれただけでも十分だ。
「光魔術のS級は多くは無いのか?」
S級スキルを持ってる者もそう多くは無いだろうしな。光魔術と限定すれば数は少ないか。
「公表している者は多くは無いと思います。私が記憶にあるのは女神教の教皇くらいでしょうか」
治癒魔術の価値を考えると、おいそれと公表することもできないのか。単純な破壊力を生む火魔術のS級よりも、光魔術のS級のほうが利用価値は高いように思える。まぁ、どちらも使い方しだいなのは違いないだろうが。
「治癒魔術もそうだが、杖の検証もしておくか」
魔力を注ぐだけで死霊を召喚できるというのはわかったが、それがどの程度使えるのか確認しておかないとな。遺跡探索でも役に立ちそうだし、適当に弱い奴を召喚してシアンの訓練に使ってもいいかもしれないな。
「それはそうとジン様、お母様と何かありました?」
「え、何が?」
唐突なリザの言葉に、条件反射的に目を反らす。
「いえ、お母様の機嫌がとても良かったので……何故か肌艶も良くなっていたような気がしたのですが」
直感を持つ彼女には誤魔化しは通用しない。全てを見抜いているかのようなリザの視線に、いたたまれなくなった俺は昨日の出来事を吐露した。
「えっと、ほら、なんというか、レヴィア諸島に来てから新しいスキルを大量に手に入れただろ? 時間もあまりないし、そのへんの検証作業が追い付いていない状況なんだよ。いや、時間も必要だが、それ以上に検証には膨大な魔力が必要ってことだな。マナポーションで回復する量にも限界はあるし、短時間で回復する手段っていうことで……あの、えっと、すまない」
今更ではあるが、正直に言えばやってしまった感は否めない。とはいえ言い訳するのも違う気がするので、彼女には正直に話しておこう。どんな言い訳しても無駄だしな。まぁ、魔力を貰っただけで、やましいことは全然してないんだけどな。
「どうして謝るのですか? 確かに怪我人がいなければ、お母様も治癒術などで魔力を消費することもないでしょう。屋敷で待機している状況なら、余らせている魔力をジン様へと利用するのは理にかなっていますね」
リザは納得したように頷いた。良かった。どうやらわかってくれたようだ。
「お母様がジン様を少なからず思っていたのは知っておりました。ジン様も大事に考えてくださっているようなので、私にとっては喜ばしいことなんです。ジン様、お母様をよろしくお願いしますね」
「え? ああ、もちろんだ」
リザの全てを悟ったかのような微笑に驚愕を覚えつつ、今はただただ平静を装うだけで精一杯だった。
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