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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第1章 漂流者
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第22話 冒険者の街を目指して3

 ふあぁぁぁ……

 

 眠い……


 体が重い……


 あれ?


 そういえば俺何してたんだっけ?


 たしかキャンプで……


 俺はまどろみの中、必至に思考を巡らせた。

 周囲を確認すると、疎らに生える木々が見える。

 どうやら俺は林の中で寝ていたらしい。

 ここどこだっけ?

 

 すると少し離れた場所から声が聞こえた。




「おいおいマジかよ!すげーぞ、コレ見てみろよ!」


 男の興奮を抑えきれない声が響く。


「え?何このすごい量の魔石!」


「これだけありゃ闇市で売り払えば、俺らで分けても5年は遊んで暮らせるぞ」


「なんでギルドで売らないの?そのほうが手っ取り早いのに」


「ばか、そんなことしたら出処が疑われるだろうが。E級の俺達が、それだけ稼ぐのにどんだけかかると思ってんだよ」


「闇市なら盗品だろうがなんだろうが売却できるからな」


「さすが、悪党!汚い!」

 

 女はゲラゲラと下品に笑う。


「ふん、どうせコレだって盗品だろうぜ。魔術師の2人組がこんなに稼げるわけねぇ。そんな凄腕の奴らなら、俺の耳に入らないワケ無いしな」


「まぁ私の感覚でも、男のレベルは私達より低いみたいだし、女のほうもそう高くないから、盗品で間違いないでしょうね」


 弓を持つ女は自信ありげに言った。


「でも魔力量は、相当ありそうよ。それこそ二人ともエルフ以上かも」


「関係ねえよ。俺の調合した魔力消失薬は完璧だ。眠り草の汁も混ぜてある俺の特別レシピだからな」


「さっさと行きましょうよ。起きてこられると面倒よ?」


「別に構いやしねえよ、万が一起きてきたら、ワイルドドックのエサになって貰うだけだ」


 男の顔に邪悪な笑みが浮かぶ。


「ああ、それよりまず味見しねぇとな?」


 そう言って男は足元に転がる人影を見つめる。


「まったくだ。奴隷じゃないハーフエルフなんて久々に見たぜ、しかもこんな上玉だ。味見してからでも闇市で売り払えば相当な値が着くぞ」


 男は舌なめずりしながら、下卑た笑みを浮かべる。


 ビリビリッ


「ヒュウ、いい体してやがる。あの兄ちゃんもうまいことやったな」


 男たちはゲラゲラと下品に笑いあった。 


「ねぇさっさと済ませてよ?早くその子売り払っちゃって、私のオーロラローブ買いに行きましょうよ」


 魔術師の女はつまらなさそうに吐き捨てる。


「オーロラローブは治療師の装備だろうが?魔術師のお前が着てどうする」


「馬鹿ね、デザインが可愛いのよ。それ以外無いでしょ」


 魔術師の女は呆れたように言った。


「私も新しい弓が欲しいな~」


 弓を持った女が男にしなだれかかる。


「……わかった、わかった。それより今夜は楽しませてくれよ?」


「ええ、装備を約束してくれるなら、素敵な夜になるでしょうね」


「まったく女ってやつは、現金なもんだな」


「あらザックあなたは混じらないの?」


 魔術師の女は意外そうに言った。


「俺の秘薬も必要になるだろう?もちろん参加するさ」


「アレを使うとすごいからね……本当にとんでもない薬師もいたものね」


「お前らが言うなよ」




 俺は、林の中で仰向け転がりながら彼らの話を聞いていた。

 

 状態:魔力消失


 俺は自分の状態を魔眼で確認する。

 なにか薬を盛られたようだ。


 くそっリザが危ない。


 俺の体内の魔力は半分くらい失われているようだ。

 俺はウエストバックに入っていたキュアポーションを飲み干した。

 

 状態:正常


 どうやら、キュアポーションがうまく効いたようだ。

 

 俺は立ち上がりリザの元へ急いだ。




 パンッ パンッ パンッ


 指先から紫電が放たれる。

 

「なに!?」


「きゃあっ?」


「うおっ?」


「うわっ!?」


 細い光の帯が、4人の周囲を掠め走った。

 下手にでかい攻撃でリザが巻き添え食うといけない。

 ダメージを与えないほどの威力で牽制にと弱威力の雷撃を放った。


「……起きてきやがったか。大人しく寝ていれば生きて帰れたものを」


 剣士の男が苛立つように、鋭い視線を送ってくる。


「魔力を失った魔術師なんて、はぐれゴブリン並だぜ」


 薬師の男が馬鹿にしたように、せせら笑う。


「あんた4人相手に生きて帰れると思ってるの?」


「……相手するのもめんどくさい。はやく死んで」


 各々に好き勝手口走る4人組。

 まさかこんな奴らだったとは。

 世の中いいやつばかりでは無いということか。


「……はぁ、冒険者と思ったら盗賊の類か」


 状態:魔力消失 睡眠


 リザは眠らされているようだった。

 着衣は乱れているが、大事には至っていないようだ。

 どうやら最悪な事態までには、間に合ったようだった。


「おっと動くんじゃないよ!この子の顔に傷を付けられたくなかったらね!」


「……まだコイツから魔力を感じる。油断できない」


 ズダンッッ!!


 俺の指先から紫電が迸り、リザの側に立つ弓を持った女を襲った。

 女はくの字に折れ曲がって後方に吹っ飛ばされた。

 

 あぶねぇ。リザが近くに居たのに思わずイラついて雷撃を放ってしまった。

 咄嗟に威力を抑えたが、死んでないよな?


「ミラル!?」

 

「ばかな!?俺の薬はエルフでさえ昏倒するレベルのものだぞ!?」


 薬師の男が狼狽する。


「安心しろ、峰打ちだ。俺は殺人鬼じゃないんだ、人殺しなんかするわけないだろ」


 剣士の男が6メートルほど吹っ飛ばされた女を見ると、ピクピク痙攣していた。

 体から白煙をあげ気絶しているようだが、四肢が欠損したわけでも、もちろん死んでいるようにも見えない。


 よかった……威力抑えれて……


「あの練成時間でこの威力。コイツありえない……ただの見習い魔術師じゃない」


 魔術師の女が油断なく俺を睨みつける。


「ハッ!関係ねぇ」


 抜身の剣を手に、剣士が俺ににじり寄る。


「封魔!」


 魔術師の女が杖を構え、何かの魔術を放った。


 光の帯が俺の体に絡みつく。


「なんだ?」


 ダメージは無いし、危険な感じもしない。


「アイツの魔術は封じた。さっさと殺して」


 俺は自身の状態を確認する。


 状態:魔力封印


 ほー。

 どうやら魔力を封じて魔術を使えなくする魔術のようだ。

 魔術にはこんなのもあるのか。

 なかなか優秀な魔術師のようだな。

 犯罪者だけど。


「俺がやる。ミラルの敵だ!」


 薬師の男が腰の短剣を抜いて、俺に向かってきた。

 魔眼で見ても短剣スキルは所持していない。

 俺でもわかる素人の動きだ。


 だが嫌な予感がするので、男の短剣を魔眼で見ると、


 毒付与


「なるほど、毒の短剣か。薬師っていうか毒使いだな」


 男の短剣が空を切る。


「馬鹿め、薬は使い方次第で毒にも薬にもなるんだ。これが薬師の戦い方なんだよ!」


「それもそうか」


 鋭い一撃が俺へと向かってきた。


「もらったぜッ!」


 体術 C級


 俺が隙を見せると、簡単に乗ってきてくれた。

 わかりやすい突きの一撃。

 スキル持ちなら危険かもしれないが、武器は危険でも素人の一撃である。


 俺は短剣の攻撃を容易く捌くと、男の顎に向かって拳を打ち抜いた。

 グラリと倒れる薬師の男。

 完全に白目を向いている。


「やりやがったな……」


 リーダーと思われる剣士の男が、走り寄る。

 手に握られたロングソードが鈍い輝きを放つ。


「ちッ、ただの魔術師じゃないみたいだな。こんなに動ける術者は初めて見たぜ」


「レウード!はやく殺して!じゃないと私が犯されちゃう!」


 魔術師の女が物騒な事を口走るが、俺は無視した。


 剣術 C級

 

 男の剣と俺の魔剣が交差する。


「なに?魔術師のガキのクセに俺の剣を受け止めただと!?」


 男の表情は驚きを隠せないでいた。


「馬鹿!手加減しないでさっさと殺しちゃってよ!」

 

「うるせえ、黙ってろ!」


 強く恫喝された女は、ぐっと押し黙る。


「このルタリアの剣聖レウード様の魔剣を受け止めるたぁ、魔術師のもやし野郎のくせにやるじゃねぇか」


 ロングソード 片手剣 E級


 剣聖?魔剣?


「この国ではアンタ程度の剣士の事を、剣聖って言うのか?」


「……なんだと?」


「魔剣っていうのは」


 俺は余ったスキルポイントを闘気に振り込む。


「こういうのだろ?」


 俺の体全体から湯気のように黄金のオーラが立ち上る。

 

 それは俺の手にある青銅剣をも包み込むようにして輝きを放っていた。


「ふん、珍しい剣を持っているようだが、魔術師が剣士の真似事とは馬鹿にしている。死んで詫びろ!」


 背の高い男から上段の斬撃が、俺に向かって打ち下ろされる。

 俺はそれを真っ向から剣で受け止めた。


 バギッッ


「なっ!?」


 打ち合ったそれぞれの剣は、互いに砕け折れた。

 まさか獲物を失うとは思ってもみなかった剣士は、思わず狼狽える。

 俺は素早く腰に差してあった、骨の剣を抜き取ると、ガラ空きの胴に一撃を叩き込んだ。


「うげぇッ!?」


 骨の剣は刃がないので、致命傷にはならないだろう。

 まぁ闘気で強化されているので、破壊力はそれなりにあるようだが。


 闘気は身体能力を向上させるようなスキルのようだ。


「安心しろ。峰打ちだ」


 剣士の男は吐瀉物をまき散らしながら、地面を転げまわる。

 どうやら良い所に入ったようだ。

 しつこいくらいに転げまわり、うえうえ鳴いている剣士に蔑んだ目を向ける魔術師の女。


 すでに戦意はないようなので、女に危害を加えるつもりはない。

 別に人を痛めつける趣味は俺にはないのだ。


 俺はリザを抱き起こすと、頬を軽く叩く。

 

「おい、リザ大丈夫か?起きろ。立てるか?」


 俺の呼びかけに、僅かに反応を見せる。

 着衣は乱れ、胸元とか、太腿とかがあらわになっているが、大事な部分までは見えていなかった。

 セーフ。

 間に合ってよかった。


 俺は近くの木々にリザの背を預け、キュアポーションを飲ませる。

 状態は回復したようだが、魔力は失われたままなので、動けるようになるまではしばらく時間がかかりそうだ。

 エルフは魔力回復が早いそうなので、しばらくすれば動けるようになるだろう。

 リザはハーフエルフなので、その力も弱いのかもしれないが、俺よりも回復力は高いはずだ。


 俺は魔力を全て失うという経験がないので、予想も含まれるが、たぶん魔力を全て失っても死ぬことはない。

 ただ脱力というか、力が入らずうまく体を動かせないような状態にはなる。

 アルドラさんの話では、魔力を大きく失うと、人によっては気絶したり強制的な睡眠状態になるというのも聞いた。


「さてと……」


 俺は体を向き直し女に迫った。


「ひいぃぃ、いあやあぁ犯さないで!お願い!変態!死んでぇ」


 こいつは慈悲を乞うているのか、馬鹿にしてるのかもうわからないな。

 なにか変な薬がキマってるのかもしれない。

 

 どうやら状態異常の魔力封印も回復したようだ。

 それほど長い時間、効果の続かない術らしい。


「お前らのせいで魔力をだいぶ消費した。すこし回収させてもらう」


「いやあぁぁ!犯されるぅーーー」


 まったく人聞きの悪いやつだな……

 俺の話も聞いてないし。


 

 闇魔術 C級


 俺は魔術師の女にアイアンクローを決める。


「痛い!?いたたたたたたた!?」


 おっと力が少し入ってしまった。


 魔力吸収


 夜間の森に出没するスティールバットから得た魔術である。

 奴らは他の生物に噛みつき、魔力を奪う能力を持っている。

 1匹1匹は弱く小さな魔物だが、数えきれないほどの大群で襲ってくるため、それなりに厄介な相手だった。


 この魔術はこうやって触れた相手の魔力を吸収する力がある。

 どうも戦士タイプのやつには、ほとんど効かないのだが、魔術師タイプのやつにはよく効く術のようだ。


 ズズズズズズズ……


「あがががががっがががががが!?」




 しばらく魔力を吸い取ると、女は痙攣して倒れてしまった。

 吸収できた魔力は僅かなものだった。

 人族だとこんなものか。

 女の呼吸や脈を見てみるも、たぶん問題無さそうなので放置することにした。


 俺は自分の荷物を集め、中身を確認する。

 コイツらはどうしたらいいだろうか?

 縛って連れて行くのも、めんどうだな。

 正直このまま放置して先を急ぎたいが、犯罪者を野放しにするのもマズイだろうか。

 犯罪者を野放しにすることで、俺も罪に問われるとかになったら、やるせない。


「リザ気分はどうだ?」


 とりあえずリザに意見を聞こう。

 

 リザの口がパクパクと動く。

 ん?なんだろう?


 俺は耳を彼女の口元に近づける。


「……」


 え?


 なに? 









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― 新着の感想 ―
出た絶対殺さないマン。善人系はもうウンザリなんやって
[気になる点] めっちゃ面白かったのに、ここまでしてきた敵すら殺せない主人公の話だったのか…。こういう系はストレス溜まりまくるからマジで残念。 現代日本人ですら大事な人と自分が犯され殺されかけたら殺る…
[一言] 舐めすぎでしょ。粋がりすぎ。
2019/11/23 09:21 退会済み
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