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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第210話 バトルダンス

「こんな所に魔物が……まさか、そんなこと」


 女が空中で手を振るうと、湖の水が独りでに競りたち細長い柱を形作った。空中を漂う精霊が柱に触れると、水柱は瞬時に氷結し一本の氷の槍に変化した。


「神聖な泉にまで押しかけるなんて……非常識にも、ほどがあります」


 怒りを滲ませるは槍を手にして矛先を魔物へと向けた。


 武装したファントムスケルトンは、感情もなくただ無表情に女に迫っていく。それはまるで、命令された行動を実行するためだけの機械のように見えた。


 しかし、魔物が彼女の元に到達することはなかった。いつの間にか魔物が接していた湖の水が凍らされているのだ。隣接する仲間共々氷が魔物の体を捉え動きを封じている。


 囲まれてはいるが、心配する必要はないかもしれない。氷精霊の加護を受けている彼女は、強力な魔術師のようだ。ここからでは表情は見えないが、一瞬で魔物の動きを封じるその能力にはまだ余裕が感じられた。


「ガガガッ……ギギギギギィ――」


 動きを封じられ、沈静化するかと思われた魔物の行動が再び活発になる。更なる増援が、凍らされた仲間を足場に乗り越えてくるのだ。一人で対処するには少し数が多いかな。魔力探知で把握するにも、多すぎてすぐには把握できないくらいだ。


「やめて、来ないでっ――」


 自らの足元を凍らせることで足場を作り槍を振るう。まるで演武のような見事な舞。振るわれる氷刃が魔物の接近を許さない。舞い散る氷の結晶が月光を反射して、美しい彼女と相まって幻想的な世界を作りだしていた。


 しかし、物量を持って乗り越えてくる魔物の攻勢に、強力な魔術を持つ彼女も余裕がなくなってきたようだ。


 広範囲火弾ワイドレンジ・ブレイズボルト


 魔力探知で魔物を捕捉。火球を極小サイズに調整して、魔力操作の誘導で魔物だけを狙い撃ちにする範囲攻撃魔術。


 闇を切り裂く火球が、女へと迫る魔物のそれぞれに着弾した。爆炎を上げながら、着弾箇所が弾け飛ぶ。


「ええっ!?」


 女は驚きに身を竦ませる。


「ッギィ――」


 突然の攻撃に、魔物から漏れるのは骨の軋む様な音。


「うーん、思ったより威力が出ない……」


 イメージでは派手に魔物を吹き飛ばして、カッコよく彼女を救出するつもりだったのだが、あまり攻撃力が出せず魔物の勢いが止まらない。


 ああ、そうか。弾数は多いが1つ1つの威力が低すぎるのか。雷魔術と違って加護のない火魔術では威力に差がある。雑魚ならそれでも問題ないが、スケルトン系は魔術に対して抵抗力が高いんだっけか。

 

 クレイモアを取り出し魔物の群れに飛び込んだ。勢いのままに上段からの斬撃。無残なほどに刃は欠け、刀身はかなりくたびれてはいるが、骨を叩き折るくらいの仕事は問題ないだろう。 


 大剣を振るいスケルトンの包囲を強引に崩す。反撃しようとする者には火葬を見舞ってやった。


「ゴバァッハァッ!!」


 骨は謎の咆哮を発し、武器を取りこぼして崩れ去る。灰と姿を変えた魔物は、湖に溶けて消えたようだ。


 さすがの火葬だな。死霊特攻は伊達ではない。


「――っ!?」


 包囲を切り崩し、女に手を伸ばす。


「こっちにこい、逃げるぞ!」


 


 女の手を引き骨が蠢く湖から脱出するが、魔物はまるで何処からともなく湧き出るように闇の中から姿を現す。


 剣を振るい炎で焼き尽くしても、それは一向に尽きる気配はなかった。


「貴方は――」


「あれ、どこかで会ったことが?」


 傍でよく見ると女は若い海人族の娘だった。胸周りは寂しげだが、長い髪に括れた腰、大きな瞳に小さな顔。女性にしては背が高く、スラリとしたモデル体型の麗しい娘だ。海人族の知り合いは少ない。こんな美人であれば、一度会えば忘れるはずはないのだが。


「いえ、そういうわけではありません」


 掠れるほどの小さな声で答え、彼女は視線を反らすように目を伏せた。


「なんだかよくわからないけど、これも何かの縁だ。手助けが必要なら力になるよ」


「あ、ありがとうございます。でも、見ず知らずの私を、なぜ助けてくれるのですか?」


「女の子を助けるのに理由は必要ないだろ」


 死ぬまでに一度は言ってみたいセリフ第三位を精一杯の決め顔で言ってみる。


「私はフルールと申します。ミスラ族の巫女をしている者です」


 しかし、思いのほか彼女には響かず、完全にスルーされた。俺は羞恥で顔が赤くなりそうなのを気合で押し込めた。


「……俺はジン・カシマだ。ジンと呼んでくれればいい」


「わかりました。ジン、助けてくれて、ありがとう」


「どうってことないさ」


 フルール・ミスラ 巫女Lv36

 海人族 15歳 女性

 特性:流動 皮膚感知

 スキル:槍術C級 氷魔術C級 水魔術D級 舞踊D級 歌唱E級 魔力操作F級 


 巫女様けっこうレベル高いな。スキル構成からすると魔法戦士と言ったところか。若くしてこれほど高いのは、かなり優秀な部類だといえる。もしくは壮絶な訓練を積んでいるか。


 まるで先回りしているかのように魔物が姿を見せる。足を止めれば、僅かな時間のうちに囲まれてしまう。


 彼女の身に着けているのは、体に張り付いた薄い布1枚。完全に透けているので、目のやり場に困ってしまう。ああ、いや、そんな話ではなかった。張り付いた布が行動を阻害して思うように走れないのだ。まさか脱ぐわけにもいかないだろうし、どうしたものか。これではいくら逃げても追いつかれてしまう。


「あの魔物は影渡りを持っているのです。影から影へ、闇から闇へと移動する特性です。逃げ切るのは難しいでしょう」


「そうなのか、詳しいんだな。あまり強くないのは幸いだが、ちょっと数が多いな」


「戦わずとも、屋敷まで逃げることができれば良いのですが……」


「何か襲われる心当たりでも?」


「うーん、どうでしょうか。もしかしたら他の氏族の妨害ということも、ありえるかもしれません。ここまで露骨なものは初めて聞きましたが」


 海神祭というのは海人族たちの神聖な祭事であり、毎年進行役は氏族ごとに持ち回りとなっているのだが、これを成功させるか否かというのは大きな意味があるらしい。


 海人族の氏族といっても数は多く、そしてその関係は平等ではない。氏族の総数が多く大きな武力を有すればレヴィア諸島でも広い縄張りを主張することができ、支配する島の数などにも関わってくる。大きな力は海人族全体のなかでも発言力という形で発揮され、氏族同士の揉め事を治める際には大きな指針の1つになる。


 ミスラ族は16氏族ある海人族の中でも、もっとも人口が多く武力もあり発言力も強い。しかし、万が一でも海神祭に不備が生じれば、その責任はミスラ族が被ることになり彼らの影響力は地に落ちる。嫌な考えだが、彼らの失敗を望む存在も少なからず存在するようだ。


「巫女は海神祭には無くてはならない存在ですので、私をどうにかすれば海神祭を潰せると考えたのではないでしょうか」


 この魔物は意図的に放たれた存在なのか。


「ふーん。そうなのか。それはそうと、君も戦えるんだろ?」


 さっきは杖ではなく槍を振るっていたからな。魔術も近接戦闘も自信があるということなのだろう。


「はい。槍には少し自信があります」


「それはいいな。フルールの精霊も強そうだし、背中は任せるよ」


「私の精霊が見えるのですか?」


「ああ、見えるよ。俺も精霊使いだからな」


 俺がそういうと雷精霊が腕輪から飛び出し背中に飛び乗った。


「すごい! すごい! すごいです! 私、初めて見ました。ジンにも精霊がいるんですね! それも女の子だなんて、すごいです! 自分以外の精霊って初めて見ましたっ」


 どちらかと言えば俺の方が教えて欲しいくらいなのだが、フルールは興奮した様子を見せ濡れた体で抱き着いてきた。


「落ち着いて。とりあえずこの場を切り抜けてからゆっくり話そうか。時間はたっぷりあるだろ」


「はい。そうですね、ジンとはもっと静かな場所でお話ししたいです」


 迫る魔物を次々と葬っていくが、まったく尽きる気配がない。ファントムは黒い体に闇付与をまとっているらしく、接近戦で相手するのはあまり好ましくなかった。俺は闇耐性があるので問題ないが、彼女には厳しい相手だろう。


 氷で作られた長槍。それを振るう姿はまるで舞踊といった美しさがあった。魔物から距離の取れる得物であるため闇付与の影響は少なく済んでいるが、それがいつまで持つかはわからない。


「屋敷まで案内してくれるか? このまま戦っても長くなりそうだ」


「え、あっ、はい。お願いします」


 彼女を横抱きにして、疾走スキルを発動させる。無数に湧き続ける魔物の包囲を飛び越え、夜の闇を走り抜けた。

お読みいただき、ありがとうございます!

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