第205話 海賊の財宝
本部へと帰還を果たした調査隊は、失った装備を補充し翌日には再び遺跡へと向かう手筈となった。
遺跡へ向かうチームは調査中であった転移門へ向かう一班、脱出口となった場所周辺を調査する二班とにわかれる。
手に入れた海賊の財宝は装備品として見ても有効なものが多く、場合によっては売却することになっても現時点で使える物は使って行こうというのがシフォンの判断だ。
誰がどの装備を使うのかで多少は揉めたが、基本的には自分の扱える得物で有効に扱える者が優先的に選ぶ権利を得るということで収まった。強い者が強い剣を扱うと言えば、冒険者も納得しやすい。
納得しなかった者は最終的にジャンケンで勝負を決めることになった。ちなみにジャンケンを教えたのは俺だ。血を流さずに勝者を決める方法として、意外と好意的に受け入れてもらった。
遺跡に侵入した海水は翌日には収まったようだが、未だ各所には潮溜まりとして大量に残っている。しかし、転移門の調査自体は可能だということで、シフォンを中心とした一班の活動には問題なさそうだ。
二班は俺たちを中心に数名の隊員が同行することになった。セイレーンが呼び寄せたオーグルは転移門を通って移動した形跡がなかったので、他にも遺跡との繋がりがあるはずなのだ。今回はそのあたりを調査する予定である。
アイスブランド 魔剣 C級 魔術効果:氷付与 氷結領域
アルドラが手にしているは先日の戦闘で手に入れた氷の魔剣。どのようにして作られたかは不明だが、硝子のような透明の刃を持つ芸術品のような一振りであった。
「ローパーはわしが排除しておこう」
「ああ、任せる」
岩場に潜むローパーはアルドラが単独で排除するため向かって行った。しぶとい魔物ではあるが、魔剣を使えば処理することはそう難しくはない。
魔力を与えると刃を覆うように霜が付いた。徐に魔剣を地面へと突き立てる。その刀身に宿った魔力、氷結領域が解き放たれた。魔力が地面を伝い、見る間に周囲が氷に覆われていく。
触手を伸ばす間もなくローパーは動きを封じられた。ローパーは周辺の力場を狂わせ、自らに誘導し魔素を取りこむ特性がある。彼らが反応するまえに動きを封じれば、あるいは魔獣の能力を上回る力でねじ伏せることができれば恐れることはない。
海岸沿いの安全確保はアルドラに任せておけばいいだろう。
盗賊の地図を取り出し、洞窟の形状を確認しつつ奥へと進む。
少し歩くと魔力探知が多数の存在を察知した。
ケイブモス 魔獣Lv23
人間の赤ん坊くらいの大きさを持つ巨大な蛾が、洞窟の天井や壁面にびっしりと張り付いている。
形状と体色から完全に周囲の岩と同化していて、探知が無ければ発見は難しいかもしれない。
「毒蛾の鱗粉は魔法薬の素材になります。できれば少しでも良いので回収していきたいのですが」
「そうか。どうせ放置しても調査の邪魔になるだろうし、排除しておいたほうがよいだろう」
丁度良いので新たに修得したスキルを試してみることにしよう。スキルポイントを変更した後、リザに目配せをして呼吸を合わせる。
両手に意識を集中させ、魔力を練り上げていく。次第に手の中に小さな雷球が生み出された。ビー玉程度の極小の雷球。それは1つではない。次第に数を増やす雷球は既に20を超えていた。
「リザ、援護を頼む」
「はい。お任せください」
魔力探知で獲物の位置を捕捉。魔力操作を駆使して、特定の魔力を放つ対象を追尾するように誘導する。
放たれた雷球は複雑な軌跡を作り、それぞれが定めた獲物へと命中した。衝撃音と共にバタバタと魔物が天井から落下してくる。
威力はともかく雷撃よりも静寂性があり、複数の対象を目標にできる点は優れているといえるだろう。そもそも弱い相手なら高威力は必要ないのだ。そう考えると雑魚を殲滅するのに十分に役に立ちそうだ。
「新しい魔術を修得されたのですね」
「リザの風球を参考にしてみたんだ。魔力効率も良さそうだし、悪くないな」
「流石はジン様です」
通常の雷球よりも小さな球体を大量に生み出す魔術。とりあえず“雷弾”《ブリッツボルト》とでも称しておこうか。
生き残った魔物が危険を察し空中に舞い上がった。魔物が飛び回るたび毒の鱗粉が舞い散り、バタバタと耳障りな大きな羽音が洞窟に木霊する。
「リザ、大丈夫か?」
「はい。頂いた指輪の効果は問題なく発揮されているようです」
防毒の指輪 魔装具 C級 魔術効果:毒耐性 耐久強化
海賊の財宝から借り受けたのは、アルドラの氷魔剣とリザの指輪の2つ。彼女の指輪は身に着けるだけでC級以下の毒物の効果を防ぎ、身体の頑強さを上昇させる耐久強化を施す。
毒蛾の鱗粉は皮膚に触れると炎症を起こすそうだが、今のところ症状は出ていないようなので防げていると見ていいだろう。
リザが杖を振るうと洞窟内に風の流れが生まれた。更に杖を指揮棒のように操ると、風の流れが渦を巻くように変化していく。
彼女が新たに修得した風魔術“気流操作”は風を自在に生み出し操る魔術だ。魔術師によっては帆船を動かすことも可能で、矢の軌道を曲げたり砂塵を起こしたりと応用の幅も広い。
洞窟を飛び回る毒蛾は舞い散る鱗粉も一まとめに、乱気流へと巻き込まれ一ヶ所へと集められていった。
リザが抑えている間に、用意した雷弾を再び魔物へと向けて放つ。そうして撃たれた魔物は命を失い落下していった。それは、そこにいる魔物全てを掃討するまで続けられるのだった。
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