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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第203話 青の回廊12

 成人男性ほどもある肉塊に、上部から生える無数の触手。これがローパーか。


 ローパー 魔獣Lv27


 触手の1本は指くらいの太さだが、伸縮性がありそれなりに丈夫でもあるので厄介だ。


 距離が近いほど魔術妨害の効果は大きくなる。離れた位置から火球を放っても、ローパーに着弾する直前で反らされてしまうだろう。


 そのためローパーを倒すには接近戦での近接攻撃が最も効果的となる。そうなると厄介なのが触手なのだが、時間を掛ければ掛けるほどに触手の拘束が厳しくなるので、倒すためには必要以上に時間を掛けないよう、瞬間的な攻撃力が必要となる。


「おらあぁぁぁぁッッ!!」


 闘気と奇襲を乗せたクレイモアの1撃を、ローパーの頭上から振り下ろした。直後に感じる違和感。この手応え、奇襲は効果は発揮されなかったか。ローパーには顔が付いていないので、どこが正面なのかわからないのだ。


 奇襲は死角からの攻撃を強化するスキル。ローパーの外見からすると、そもそも死角なんてものはないのかもしれない。


 体重を乗せた渾身の斬撃。だったはずだが、ぶよぶよとしたローパーの肉を切り裂くには至らず、いくらかの外皮を傷付けるだけに留まった。


 俺の体を拘束しようと伸びる触手を払いのけ、クレイモアを無差別に斬りつける。


 闘気を乗せた渾身の突きが、深く魔物の体を抉った。その手応えに攻撃は通用するのだと確信する。触手の拘束は激しくなるが、動きを封じられる前に畳みかける!


「うおおおおおぉぉぉぉぁぁぁぁぁッッ!!」


 自らを鼓舞するため雄叫びを上げる。俺はただ無心に力に任せ剣を振るった。


 時間は掛かったが、何とかローパーを沈黙させることに成功した。


「ジン様、大丈夫ですか?」


「ああ、思った以上に頑丈な奴だったが、何とかなったな」


 一息ついたのも束の間、廃船の方からグールの群れが剣を掲げてこちらへと向かってくる。


 グール 死霊Lv31

 弱点:光 耐性:氷闇

 スキル:氷付与 剣術 


 俺はリザを庇うように前に出て、グールに切っ先を向けた。


「オオオオオオォォォォ――」


 怨嗟の如き唸り声をあげる幾多の死霊。剣と剣とを接触させると、挑発に乗ったのかグールが前進しつつ切り込んでくる。


 誘いに乗ってくれたことに感謝しつつ、グールの剣を払いのけ体勢を崩し、肩口から滑るように魔物の体を両断した。


 崩れ落ちるグールを一瞥し、更にやってくる魔物へと火球を放った。


 しかし、火球はグールへと着弾することは無く明後日の方向へと反らされていく。この辺りのローパーは殲滅したと思っていたが、まだ潜んでいたのか。


「リザ下がってろ!」


 迫る2体のグール。1体を相手している間に、もう1体がリザへと向かえば危険だ。1体を素早く処理して対処しなければ。そう考えてる矢先にリザは鞄から魔法薬を取り出し、迫るグールの1体へと投擲した。


 爆裂ポーション 魔法薬 D級


 グールの元へ辿り着いた魔法薬はグールの剣によって打ち砕かれた。その瞬間、炎と衝撃が巻き起こる。黒い煙を上げながらグールはごうごうと激しい炎に飲み込まれた。


「燃える水を改良して作った攻撃用ポーションです。C級まで作成可能ですが、そうなると威力が強すぎて使い勝手が難しくなるので、慣れるまでD級で運用しようかと思いまして……」


「おお、そうか。凄いな……」


 燃え上がるグールはそのまま消し炭になり、やがて砕け崩れ落ちた。うーむ。気のせいがリザの戦闘力がどんどん上がっている気がする。確か戦闘職ではなかったはずなのだが……



 大きな衝撃音と共に巨岩の向こうから、こちらへと何かが放り込まれた。


 それは無残な姿に変えられたローパーだ。既に生命を感じない、動くことのない肉塊と化している。


「これでローパーは全部潰したと思うよ。後はセイレーンを潰せば魔物たちも大人しくなるだろうね」


 巨石の上に姿を見せたフィールはそう言って軽々と飛び降りた。


 フィールの武器は拳に備えた拳鍔ナックルダスターと呼ばれるものだ。拳を保護しつつ攻撃力を上げる装備で武闘家の装備としては珍しくはないものだが、流石にこれで魔物を相手にするのは人族では考えられない。そのあたりは勇猛な獣人族ならではと言ったところであろう。


「助かりました。これで自由に戦える」


 岩陰から姿を現したグールが、こちらを囲むようにと移動する。背後から接近するグールの1体を、彼女は裏拳の1撃で吹き飛ばした。


「おっと、まだいたのか」


 フィールであれば、この場にいる程度のグールでは物の数には入らない。


「魔術が自由に使えるなら、どうとでもなりますね」


 そういうとリザは杖を構える。赤霊木の戦杖に宿る魔力、火球が3発連続で放たれた。ただの火球ではない。ダリアの師事を受け魔術合成の要領を掴んだ彼女は、風球と火球を合成できるようになったのだ。


 合成の効果によって火球は、破壊力、速度、連射性能、射程距離とあらゆる性能を向上させた。燃え上がる爆炎が圧縮された火球は、最早ただの火球ではない。あえて言うのならば豪火球とでも言ったところか。


 放たれた豪火球は一瞬でグールを撃ち砕き、爆散した肉片を猛火に飲み込んだ。


「お嬢ちゃんも大したもんだ」


 野獣のような顔をほころばせ、フィールはにかりと笑った。


「流石だな、リザ」


 魔術の才を見せつける彼女に、思わず感嘆の声が漏れる。


「ありがとうございます。ジン様のお役に立てるよう、これからも頑張りますね」


 彼女の成長速度には驚かされるものがある。俺ものんびりとはしていられないな。

 

 俺の方へと迫るグールに、新たに修得した魔術を試してみるか。


 それは死霊を縛り付ける呪縛を焼き尽くすという浄化の炎。死者を灰へと変え、土に還し浄化する。穢れを清める聖者の炎だ。


 射程距離は短いが、死霊に対しての威力は絶大。死霊がこの炎を受けたならば、燃え尽きるまで消えることは無いという。


 それが対死霊に特化した火魔術“火葬”である。 


「ジン様も新しい魔術を修得されたのですね」


 リザは我がことのように喜んでくれた。


「ああ、時間は掛かったけどな」


 苦労した分の価値はあった。この辺りに潜んでいたグールは駆逐され、周囲は静けさを取り戻す。


「2人はどうやら心配いらないようだね。では私は残った魔物の処理に行ってこようかな。セイレーンの方は大丈夫そうかい?」


「はい。問題ありません」


「そうか、君がそういうのなら、そうなんだろう。君らを見ている限り、心配しなくても良さそうだ」


 フィールはそう言うと、オーグルと戦闘中にある調査隊の援護に向かった。彼女を見送り俺たちはセイレーンが潜む廃船へと足を向ける。


 廃船に潜んでいたグールは俺の火葬と、リザの豪火球で処理していく。船自体は大きなものだが、既に半壊しているので隠れる場所は多くはそうは無い。それ以前にあの巨躯では、隠れ潜むことさえ難しいだろう。


 魔物を排除しつつ廃船へと足を踏み入れる。動くたびに腐った甲板から軋む音が聞こえる。僅かに残った船の形が全て失われるのも、そう遠い未来ではないだろう。


 スキルを変更し、探知で魔物の居場所を炙りだす。


「ギィシャアァァァァァァァァッッッ!!」


 探知が無数の魔物の反応を察知した。


 奇声をあげて飛び出したのは、鱗で覆われた海の妖魔マーメイド。


 鋭い牙と爪を持ち、鋼の如く固く丈夫な鱗で覆われたマーメイドは、海上で戦えば恐るべき脅威となる魔物である。


 しかし、こうして丘に上がってきたのなら話は別だった。


 武器をメイスに持ち替え、迫りくるマーメイドの頭部を殴り飛ばす。固い鱗で覆われていても衝撃を内部に伝えることのできるメイスは、固い鱗で守られた魔物を相手にするには丁度良いようだ。


 接近戦ではメイスで応戦し、少し離れた相手には雷撃で対応する。リザは俺の背を守るように戦杖を振るい火球を放った。何処に隠れていたのかというほどに、廃船によじ登ってくるマーメイドの群れ。


 最早何体のマーメイドを葬ったかわからないほど、甲板には彼らの骸が山と積まれていた。


 ミシリと床下から異音が聞こえる。腐った甲板を突き破り巨大な腕がリザの体を捉えた。


「リザッ!!」


 思わず焦りの声を飛ばす。


「ジン様っ!」


 床から生えた腕に全力でメイスを叩き付けた。鱗で覆われた巨腕は異様な硬度を誇っており、メイスの一撃でも怯むことは無かった。


 ならばと根元に雷撃を放つ。S級ではリザをも巻き込んでしまうので威力はC級までに留めておく。

 

 雷撃の起こした麻痺効果に拘束が僅かに緩んだ。その瞬間を見逃さず、リザの手を引いて救出する。


「大丈夫か?」


「はいっ、ありがとうございます」


 リザを受け止め怪我の有無を確認するが問題ないようだ。 


 メキメキと崩壊の音を奏でながら、廃船が大きく傾いた。生き残ったマーメイドたちが、慌てて撤退していく。


「隠れているなら炙り出してやるか。リザも手伝ってくれ」


「わかりました!」


 S級に引き上げた俺の火球とリザの豪火球が、セイレーンが潜んでいるであろう床下へと殺到した。轟音と爆炎がそこにある物を吹き飛ばし、ごうごうと激しい炎を噴き上げる。あらゆるものが業火に飲み込まれ、無数の火の粉が宙を舞い溢れ出る黒煙が辺りを飲み込んだ。


「ギイイイイィィィィアアアァァァァァァァァッッッ!!!」


 全身を炎に包まれたセイレーンが瓦礫の中から飛び出した。火を消したいのか、のたうち回るようにして地面を転がる。


 何かを焦がしたような不快な匂いが辺りを包んだ。しばらくして炎の勢いがようやく収まると、体を起こしてリザの姿を確認する。にたりと薄気味悪い笑みを浮かべ、セイレーンは魔力の籠った呪歌を放った。


 セイレーンの呪歌。それはある程度の知性を持つ生物であれば、あやつることができるという魔術の一種。耐性がある者であれば抵抗することで支配から逃れることもできるが、呪歌による精神負担は少なくはない。


 まるで耳から直接、脳の中に何かが侵入してくるような不快感を覚える。背筋に寒気が走る思いがした。リザの用意した魅了耐性ポーションが無ければ、確実に抵抗できたかどうかはわからない。 


 ともあれリザの方へと注視している今がチャンスだ。スキルを変更し背後からの奇襲。軽業スキルを使って瓦礫を足場にセイレーンへと飛び上がる。闘気と奇襲の効果か、クレイモアの一撃がセイレーンの頭部を深々と斬り裂いた。


「ガァアアアアッ!?」


 思った以上に硬い。セイレーンとて生物には違いないので、当然頭部は急所の1つであろう。だが、刃から伝わる抵抗はまるで鉄兜かというほどの頑強さがあった。それでも確実にダメージは与えている。噴水のように溢れ出る鮮血が、セイレーンの命が残り少ないことを物語っていた。


「お任せください!」


 止めにとリザが残りの魔力を注ぎ込み、逆風でセイレーンの動きを封じる。格上の相手であれば長時間の拘束は難しい。弱点を突けばその限りではないが、セイレーンの魔術に対する抵抗力はそれなりに高いように思える。直撃ではないにせよS級の火球にも耐えているのだ。


 リザが合図を送り、俺は正面からクレイモアを構え突撃した。認識されていれば奇襲の効果は発揮できないので、動きを封じている今の状況なら背後からの攻撃にあまり意味はない。


 動かない的であれば一番攻撃力のある突きで仕留める。セイレーンの心臓を目掛けて、闘気を乗せた渾身の突きが深々と突き刺さった。


「ッッァ!!!」


 セイレーンの声にならない叫び。残った空気を吐き出すように、天へと顔を向けたまま制止している。手ごたえはあった。剣は中ほどまで突き刺さり、確実に心臓を貫いていた。


「ごめんなさい、もう魔力が」


 リザの逆風が解除される。魔力の限界が近いのだろう。セイレーンの他にもマーメイドがいる。ここで魔力を枯渇させるわけにはいかない。


「リザはそこで休んでいろ。後は俺が――」   


 突如セイレーンが飛び上がった。身を反転させ、這うように光が差し込む洞窟の出入り口へと移動を始める。ここへきて脱出するつもりか。どこにそんな体力が。頭はザクロのように割られ、心臓には大剣が突き刺さっているというのに、セイレーンは生き延びることを諦めていないのだ。


「まだ、そんな体力があるのかよ」


 海に入られると追いつけない。どうする、ここまで来て逃がすわけには行かない。スキル変更する時間さえ惜しい。リザの魔力は限界だ。逆風はもう使えない。どうすればいいい。


「アルドラッ!手伝いにこい!」


 俺の叫びに呼応するかのように、中空にアルドラが出現した。まるで待ち構えていたかのような、行動の早さであった。無論帰還を使った効果だろうが、彼は中空にて既に攻撃の体制に移っている。


「待ちくたびれたぞ!もっと早う呼べい」


 中空から落下中もこちらへ向かって叫ぶアルドラ。


「そっちも忙しいだろうと思ったんだよ!」


 彼の手に握られているのは、見たことのない硝子のような薄刃の大剣。どこで拾ってきたかは知らないが、おそらく魔剣に膨大な魔力を注ぎ込んだのだろう。落下しながらも下へと構え、溢れ出る冷気が霜を作り辺りに吹雪を巻き起こしている。

 

 アルドラは森人族の魔力総量に加え、魔晶石S級を元にした幻魔石を本体に持つ幻魔である。限界まで本体に魔力を貯めこめば、それは俺の魔力総量をも上回るものになる。戦闘で魔力を消耗していなければ、その体にはそれなりに魔力が貯蓄されているはずだ。


 セイレーンが岩場から湾に飛び込もうという刹那、アルドラは一瞬早くセイレーンの目の前に着水した。どうやら目測を誤ったらしい。


「……何してんだ」


 思わず声が漏れたが次の瞬間、バキバキと音を立てて海水が凍っていくのを目撃した。氷の魔剣か。


 まるで波紋が広がるように海水が見る間に凍り付いていく。海に飛び込もうとしたセイレーンも、それに飲み込まれる形になり動きを封じられる結果となった。


 この拘束を打ち破るだけの体力は、セイレーンにはすでになかった。執着の強いセイレーンが敢えて逃げたのも、体力の限界を悟ったからなのだ。


 動きを封じられたその姿は、まるで彫刻のようだ。天を仰ぐように腕を伸ばし、僅かな身動きさえも敵わない。最後の力か首だけをこちらへ向け、恨みがましい視線を送ってくる。


 俺はスキルを変更し魔力を練り上げた。俺が扱える最も威力のある魔術で最後にしてやろう。


 雷魔術“雷撃”(ライトニング)


 轟音と閃光。空気を引き裂く衝撃が洞窟を揺らした。光の束がセイレーンの胸元に突き刺さった大剣へと直撃する。込められた膨大な魔力が、セイレーンの体内へと伝わり瞬時に弾けた。


 洞窟へと伝わったその衝撃は戦いの収束を伝える奏でとなった。

    

お読みいただき、ありがとうございます!

ブクマ、評価よろしくお願いします(=゜ω゜)ノ


 エリザベス・ハントフィールド 薬師Lv32

 ハーフエルフ 16歳 女性

 スキルポイント 0/32

 特性:夜目 直感 促進


 スキル:調合C級 採取E級

     風魔術C級【脚力強化 風球 浮遊 微風 風壁 逆風 気流操作】

     水魔法E級【洗浄 浄水 濃霧】

     杖術D級



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