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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第202話 青の回廊11

「ははは、どうした。わしはここにいるぞ!死にたい奴から掛かってこいッ」


 数体のオーグルがアルドラに殺到する。1体は手に石斧を握り。1体は巨人が扱うような大剣を持つ。更には槍、大楯、戦鎚まで多種多様だ。


 石斧が振り下ろされ、アルドラは一歩身を引いてそれを躱す。地面に叩き付けれらた石斧が地面を抉った。原始的な武器だが、魔物の腕力で振り下ろされれば油断ならない威力がある。


 攻撃を躱しつつアルドラの魔剣が、オーグルの肉を切り裂く。


「グォゥッ!!?」


 しかし致命傷ではない。攻撃を受けてもオーグルの戦意は消えていない。


「良い。しばらく体が訛っていたようでな、少し付き合ってもらうとするか」


 アルドラは戦闘意欲の高いオーグルの戦士に好感を覚えた。殺し合いと言えばそれまでだが、紛れもなく今まで自分の通ってきた道。いや、それしかなかった道であった。


 戦いの中、血を流し命を削り合う。己の限界を乗り越え、高まっていくのを感じる。アルドラはその瞬間に生を感じていた。


 やはり自分は戦いの中にあってこそ自分でいられるのだと。このような肉体になって生を感じるというのもおかしな話ではあるが、この性分はどうやら止められないものらしい。


 魔物がアルドラを取り囲むように包囲する。刃を向け、その距離を徐々に詰める。


「グオゥッ!!」


 石斧を突く様にして迫るオーグルを、軸をずらして回避。石斧を中ほどを素手で掴むと、魔剣で石斧を握る手を砕き得物を奪った。


「ッ!?」


「返して欲しいか?ほれ、受ける取るがいい」


 奪った石斧を脳天に叩き付ける。オーグルの戦士はそのまま昏倒し地に伏せた。


 背後から襲い掛かるオーグルの魔剣がアルドラの背中を浅く切り裂く。傷口から冷気がほとばしり体表に霜が付いた。


「ほう、良い魔剣じゃな。妖魔に使わせるのは勿体ない」


 刃は青く透き通った硝子のようで、見る者を惹き付ける鋭く美しい芸術品のようだ。


 アルドラは刃を合わせ、強引に力で押し込む。間合いを越えて接近した場合、適切な間合いに戻るためには相手を押し退け体勢を崩すのだ。


 円の運動で巧みに剣を捌き、オーグルの魔剣を地に向けた。如何に優れた魔剣を持っていても、使い手がこれでは無用の長物である。


 瞬時に妖魔の首を刎ねると、その魔剣を奪い我が物とした。


「氷の魔力を宿した魔剣か。些か軽いが切れ味は悪くはないようじゃな」


 常人が扱えば大剣の部類に入るものだが、アルドラの腕力であれば片手でも問題なく扱えるようだ。


 視線を動かすと岩陰に潜む蠢く肉の塊、ローパーを発見したので氷の魔剣を徐に突き刺した。


 魔物はぶるり身を震わせ、触手を伸ばしアルドラに襲いかかる。しかしその攻撃を無視したまま、アルドラは魔剣に魔力を注ぎこんだ。


 弾力のある肉塊は次第にその柔軟性を失っていく。そうしている間に触手の動きも鈍くなっていった。


 アルドラは徐に魔剣を引き抜くと、纏わりつく触手を強引に引きちぎり、愛用の黒い大剣を叩き付ける。ぐしゃりと肉塊が押し潰され、ローパーは無残に姿に両断された。




「グールだ。皆下がれッ!」


 レドの剣に炎が宿る。廃船から飛び出すように出現したグールの群れが、調査隊の方へと流れ込んできたのだ。


 咄嗟に対応したのはレドと数名の隊員だった。


「1体につき2名で当たれ!普通のグールじゃない、気を付けろ!」


 身に着けた装備を見れば、あの廃船の元乗組員かもしれない。結界が破壊され魔物化したのだろうか。


「オオオオオオ――」


 革製の鎧盾で身を守り、白銀のショートソードには刃に魔術文字が浮かんでいる。


 青白い光がグールの体を包み込んだ。冷気の魔力だ。近づくだけで凍え身が縮む思いがする。隊員の剣と刃が重なると、白い結晶が空中に弾けた。


 生前の剣術が生きているのだろう。グールの剣捌きが隊員のそれを圧倒する。そこへレドの炎が横から浴びせられた。


「グォァッ!!?」


 氷の魔力を打ち消し、その体を炎が飲み込んだ。グールの全身を炎が包み、悶えるように身を震わせる。


 そこへ炎を宿したレドの刃が深々と突き刺さった。


「のんびりしてるんじゃねぇッ!たたみ込め!」


 レドの勢いに圧倒されていた隊員たちも、我に返り魔物へと殺到する。グールの体から魔力が失われ、体中に刃が突き立てられた。


 腕が、脚が、頭が、勢いのままに燃え尽くされ、やがて炭となり朽ち果てる。


「落ち着いてる場合じゃねーぞ!次だッ」


 レドが鼓舞するように声を荒げると、十数体のグールが剣を振り上げこちらへ向かってくるのが見えた。


「くそっ、数が多いな」


 魔物の進行を止めるため、シフォンのゴーレムが前に飛び出す。それは黄銅の輝きを放つ人型のゴーレムだった。騎士の甲冑を模した装甲で身を固めた人並みの背丈を持つナイトゴーレムだ。これはシフォンが自らの護衛として運用するために設計した戦闘用ゴーレムである。


「囲まれたらゴーレムでも持たないぞ。くそったれ」


 ナイトゴーレムはその運用から非常に耐久力に優れてはいるが、それでも魔物の攻撃が効かないわけではない。特に背後の装甲は薄いので、囲まれてしまうと意外に脆いという弱点もある。前回の探索ではその弱点を突かれ、2体あったうちの1体を失ってしまった。運用法さえ間違えなければ優秀な魔導兵には違いないので、今後の探索を考えてもここで失う訳にはいかないのだ。 


 魔物の勢いに怯むレドだったが、そこへダリアの魔術が飛来した。


「この辺りのローパーを片づけてくれたからね、やっと私も手伝えるよ」


 ダリアは水魔術、土魔術、風魔術を複合した魔術、泥球マッドショットでグールの動きを止めたのだ。水球と土球を混ぜて作った泥球は、対象物に接触すると纏まりつくように表面を広がり、瞬時に乾燥して石像のようにして動きを封じる。


 風魔術を加えることで乾燥を促進させ射程距離を伸ばし、敵の動きに合わせて軌道を変えるという繊細な操作を可能にさせた。


 そういった泥球をダリアは一度に2、30生成し制御することができる。破壊力という点では他にも優秀な魔術師は大勢いるだろうが、魔術合成における熟練度、制御技術といった点に置いて彼女は高い水準にあるといって良いだろう。 


 泥球は味方を避け、魔物のみを狙って着弾した。石化したグールはその動きを完全に封じられる。そうして、もの言わぬ標的と化したグールをまとめて粉砕する者が現れた。


「この辺りはダリアに任せておけば問題なさそうだね。私はジンたちの後を追うことにしよう」


 フィールの大砲のような鉄拳を受け、グールは見る影もなく爆散する。攻撃力が違い過ぎる。これが獣人族の中でも戦闘力随一とされる獣熊族かとレドは思わずため息をついた。

 



「ミ、ミラさん下がって!」


「はいっ」


 全身を金属の甲冑で包んだブルーノが、オーグルの戦士と激突する。


「オオオゥゥゥッッッ!!!」


 両手で操る巨大な戦斧が遠心力を持って放たれた。ブルーノは大楯の下端を地面に突き刺し、全体重を乗せて構えた。ガツンと鈍く大きな音と衝撃がブルーノの大楯と打ち合い響く。


 どのオーグルよりも大きな体躯を持ち、手には漆黒の大戦斧。魔獣の牙を連ねた首飾りを下げ、体には獲物から剥ぎ取った皮を身に着ける。


 その見た目からオーグルを束ねるような戦士だと予想された。この廃船が彼らの棲家だとは思えない。その形跡が周囲にはないからだ。何かの力で無理やり連れてこられたのだろう。それがセイレーンの魔力というものか。


「あぶねぇッ、ブルーノ行けるのか?」


 背後から彼を見守るキースが叫んだ。


「う、うん。何とか」


「無理すんなよ!ヤバかったら逃げろ!」


「大丈夫……皆は守るよ」


 ブルーノは性格的にあまり冒険者に向いていない。戦いが苦手なのだ。キースは長い付き合いから、それをよくわかっていた。


 それでも持って生まれた肉体と、努力家の性格からC級までは上がってこれた。しかし、これ以上は難しいだろう。B級以上ともなると今以上に厳しい任務が続くと予想される。彼の性格から自分を犠牲にする未来しか見えない。


「おいっ、来てるぞ!」


「わかってる!」


 ブルーノが放った戦鎚がオーグルの戦斧と空中で激突し弾かれる。相対する魔物は技術的はないが、それを補う怪力を備えているようだ。


 キースは彼の背後で歯がゆい思いをしていた。戦闘技術はレドに遠く及ばず、ブルーノのような恵まれた体躯もない。治療術が使えるので冒険者としては、キースはそれなりにやってこれたが突出した技術は持っていなかった。


 ブルーノが矢面に立ち攻撃を受け止め、レドが魔物を仕留める。2人が怪我をした場合は、キースが治療する。そうやって昔から3人で行動することが多かった。


 明確にパーティーを組んでいるわけではないが、3人で組んで仕事をすることが多いのも事実なので事実上パーティーといってもいいのかもしれない。


 怪我をしなければキースはやることがない。そんなことが多かった。下手に手を出せば邪魔になる。その程度の技能しか持ち合わせていないのだ。それがキース自身もわかっていた。


 唯一の強みである治療術も、人の魔力量では限界がある。森人族のような膨大な魔力量はなく、増強しようと思えば高価な魔装具を買うか、魔石を使って補填するしかない。どちらも途方もない金がいる。並みの冒険者では不可能な話であった。


「ぐううううッ――」


 オーグルの攻撃がブルーノの甲冑を大きく削った。金属と金属が激しく衝突し、火花が散った。致命傷ではない。しかし、その衝撃は内部に伝わり、確実にダメージを与えていた。


「このままじゃ、俺の魔力が持たない――」


 ブルーノの耐久力の高さは良く知っているが、オーグルはそれを上回る攻撃力を秘めている。このまま打ち合えば、キースの魔力は底を突きジリ貧だ。


 オーグルの戦斧が高々と振り上げられ、ブルーノの頭上へと振り下ろされた。


「おいっ、休んでんじゃねぇ!死ぬぞ!」


 キースが叫ぶ。ブルーノは先ほどの衝撃が残っているのか体勢を崩したままだった。  


 激しい衝突音。キースは思わず目を背けた。


「どうなってる……」


 振り下ろされた斧はブルーノの頭部を叩き割ることもなく、少し手前で制止していた。まるで何か見えない壁に阻まれているようだ。


「私の魔力はまだ余裕がありますから。頑張ってくださいブルーノさん」


 ブルーノを守ったのはミラの防壁だった。あらゆる攻撃から対象者を守る光魔術。本来であれば自身の周囲に展開するのが一般的だが、魔力制御の難度は跳ね上がるものの特定の座標に展開することも不可能ではない。


 体勢を整えたブルーノはオーグルの体を弾き返した。


「も、もう、大丈夫。ありがとうミラさん」


「はい。後ろには私がいますから安心して戦ってくださいね」


「う、うん」


 珍しく弾むような声を響かせるブルーノに、キースは何故か少し疎外感のようなものを感じるのだった。 

 

 


お読みいただき、ありがとうございます!

ブクマ、評価よろしくお願いします(=゜ω゜)ノ



 ミラ・ハントフィールド 治療師Lv31

 エルフ 90歳 女性

 スキルポイント 5/31

 特性:夜目 直感 促進


 スキル:光魔術C級【治癒 防壁 解呪】

     魔力操作C級【制御】

     調理D級



 アルドラ 幻魔Lv32

 スキルポイント 0/94

 特性:夜目 直感 促進 眷属


 スキル:時空魔術S級【還元 換装 収納 帰還】

     剣術S級 体術C級 闘気C級 回避C級 疾走F級 剛力E級

     二刀流F級 軽業F級

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