第195話 青の回廊4
「兄様、野営地から離れても大丈夫なのですか?」
「ああ、許可は貰っているから大丈夫だ。心配ならシアンは戻っているか?アルドラがいるから、安全は保障されていると思うし」
野営地にはS級にA級、B級3人、C級多数という十分な戦力が揃っている。巨人の大群でも襲って来ない限り、危険な場面になるような事は無いだろう。
「私は兄様の傍がいいです。お邪魔ですか?」
「いや、邪魔なんてことはないよ。むしろ丁度いいかな」
「丁度いいですか?」
「ああ、散策ついでにパワーレベリングでもしてみるか」
「え、はい。パワーレベリングですか??」
野営地としている転移門の広場からは、侵入してきた経路以外にも他の場所へと繋がる道があるようだ。奥の遺跡へと繋がる石壁の通路。何かの魔物が掘削したかのような横穴。侵入してきた海水によって削られたような裂け目。
場所によって先の様子はかなり違って見える。盗賊の地図で確認してみると、複雑な地形が更新されていた。このような複雑に入り組んでいると、どこかに魔物が隠れ潜んでいても不思議ではない。
地形探知、魔力探知があれば直接見えない先も詳しく把握できるし、地図があれば現在地も確認できるから奇襲にあう危険も少ないだろう。もちろん完全ではないが。
俺はシアンと彼女の護衛ネロと共に、転移門の広場から伸びる横穴の1つに侵入し探索を開始した。
探索とはいってもこの場には任務で訪れているわけだし、ミスラ族にとっては聖域ということで自由に行動するのも制限されている。そういったわけで警備ついでに近場を見て回る程度の行動に留めておくことにした。
洞窟は天井が高く横幅も十分にある。横穴を抜けると、すぐに広場のような場所に抜けた。複雑に入り組んだ地形。何層にも連なるひだのような岩壁が、まるで怪物のはらわたを連想させる。
「シアン止まれ。何かいるぞ」
追従する彼女に小声で呼びかける。シアンは小さく頷き足を止めた。
オーグル 妖魔Lv12
二足歩行の猿か。やや前傾姿勢で毛に覆われた身体。手には粗雑な棍棒が握られ、腰に動物の皮で作ったと思われる包を巻き付けている。
きょろきょろと落ち着きなく周囲を見渡し、魔物は洞窟の奥へと進んでいく。妖魔は通常群れを成す魔物だ。いくつかの例外はあるが、そう多くはない。
「オーグルは知能が高い妖魔だと聞いたことがあります。人が道具を作るように自分たちで武器や防具を作り、仲間と共有するのだそうです」
「なるほど。海に住む妖魔なのか?」
海に住むという妖魔は既にマーメイドとクラーケンを発見しているが、それ以外にもいるようだ。この辺りの魔物種類は大森林に負けず劣らず多いのかもしれない。
「いえ、森に棲む魔物のはずです。どうして海底遺跡にいるのかまでは私にもわかりません」
「そうか。まぁ、手先の器用な魔物なら有用なスキルを持っていそうだし、悪いが俺たちの獲物になってもらうとするか」
鉄蟻の盾とメイスを取り出し戦闘準備をすした。盾術、鎚術、耐性、鉄壁、探知、闘気、警戒あたりにポイント振り込んでみる。今回は盾役を意識したスキル構成だ。
スキルが増えてくると色々な立ち回りを考えられるから、なかな楽しいな。
探知で調べたところ近くにオーグルの仲間がいないことはわかっている。予期せぬ出来事を迎えて逸れたのか、群れを追い出された個体なのか、はたまた単独で周辺警備をしているのか。
理由は定かではないが、レベルも低いし狙うには丁度良いだろう。
落ちていた石を拾い魔物の目の前に投擲する。目の前にと思ったら、うまい具合に魔物の側頭部に命中した。
「グォッゥ!?」
驚きの声を上げ魔物がこちらへと振り向いた。状況を理解したのか、興奮した魔物がこちらへと襲い掛かってくる。予定通り魔物を引き付けるように成功したようだ。偶然だが結果オーライって奴だな。
「シアン、予定通り頼むぞ。ネロはシアンの護衛な」
「はい、頑張ります」
「にゃう」
オーグルが俺の数メートル手前で跳躍した。空中で棍棒を振りかぶり、到達すると同時に振り下ろす。
「ガァッ!!」
体重を乗せた一撃を、正面から盾で受け止めた。重い一撃だが、受け止められないほどのものじゃない。
一歩踏み込み、魔物の横腹にメイスを叩き付ける。踏み込みが甘かったのか、あまり効いていない。思った以上に手加減するのは難しいな。魔物の攻撃を盾でいなし、隙を見て反撃する。致命傷を与えないように、相手の体力を削っていくのだ。
腕や足を重点的に狙い、攻撃力と機動力を奪うようにした。魔物は分厚い毛皮に守られているようで、レベルから予想していた以上にタフのようだ。
オーグルの側頭部を一撃が掠めた。攻撃が効いたのか、体がぐらりと傾く。
もうそろそろ良いだろう。距離を取り、手を上げてシアンに合図をした。
「やれっ」
その直後、シアンからオーグル目掛け石弓のボルトが放たれる。短い間に数発の矢が、胸、脚、肩に食い込んだ。
最初の1発が致命傷だったようだ。魔物は声を上げることもなく、その場に伏した。
「どうでしたか?」
岩陰から射撃を終えたシアンが、静かになった様子を確認してこちらへと駆け寄ってくる。
「お見事。完璧なタイミングだったぞ」
俺が賞賛の声を送ると、彼女は照れくさそうにして笑った。
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