第194話 青の回廊3
野営準備に予定地となる場所から瓦礫を取り除く作業が進められた。
溶解で処理することも考えたが、どれに希少な情報が備わっているかわからないので止めておいた。古代文字の残っている瓦礫も多く、調査するにも時間が掛かるのだ。
よく見ると野営予定地には剣のように固い葉を持つ毒草が生い茂っている。
ライトニングウィード 植物 D級 状態:雷付与
全体が仄かに薄紫へと発光する大型植物。魔物ではないようだが、魔法の力が宿っているらしく魔眼を通して魔術効果を見ることが出来た。
話によると怪我するほどではないが痛みを受けるし、筋肉を弛緩させ麻痺させる場合もあるので状況によっては危険な植物である。
「レド、野営地周辺の毒草は焼き払ってくれ。そうだな、遺跡周辺も頼む」
「はいはい。わかりましたよ」
邪魔になりそうな毒草はレドが片っ端から焼いて処理していった。
火魔術 火炎放射
手のひらから放たれる炎が毒草を焼き払う。
焼いた際に微量ではあるが毒を放出するので、舞い上がった毒素を吸い込まないように注意しなければならない。
研究者たちが解析の準備を進める中、冒険者たちはそれぞれに休憩を取ることになった。
魔力探知を使ってみるが近くには魔物存在は確認できない。しばらくはゆっくりできそうだ。
「ジンも休憩してくれ。今のところ魔物が少ないようだが、遺跡には多種多様な魔物が生息している。いつ大きな動きがあるかわからないからな」
「わかりました」
魔物への警戒は隊員たちで交代に行う。今のところ警戒すべき状況ではないようなので、警戒レベルは最低限で良さそうだ。休めるときに休んで置けということだろう。
ともあれ、それほど疲労があるわけでもないので、手持ち無沙汰に転移門のある部屋を散策することにした。
ミスラ鉱石 素材 F級
ふと足元に落ちている石に魔眼を使うと、見覚えのある名称が見えた。濃い青色の石。首飾りに使われている石とは色味が違うようだが、おそらく同じものなのだろう。
落ちているミスラ鉱石は1つではない。探せばいくらでも見つかった。ただ落ちているのはF級ばかりのようだ。
素材は等級が上がるほど希少性も上がり、高値で売れる場合が多い。
また高い等級であれば、何かしら有益な性質を持つものも多いのだ。思い返せば魔石などの類を見ても、等級の高い物は高額で取引されている。
このミスラ鉱石もC級あたりが見つかれば、それなりの額になりそうなものだが、そうそう簡単にはいかないか。
隊員たちはそれぞれ役割に分かれて天幕を設置している。この辺りの作業は慣れたもので、動きに迷いがなく効率的に働いていた。
天幕は同じ規格で作られたものらしく、同じ大きさものが並んでいるようだ。洞窟内なので雨風あるわけではない。となると天幕など必要なさそうに思えるが、個人的な空間を作り閉塞感を与えることで安心して眠れる場所を作りだす効果があるらしい。
短時間で疲労を回復させるには十分に効果があるようだ。
ブルーノであれば、ぎりぎり収まるかどうかという広さである。あまり快適とは言えないだろう。
大人の姿のアルドラでは足がはみ出してしまうかもしれない。彼の場合は子供の姿にもなれるので問題ないか。いや、そもそもアルドラは眠る必要もないので、問題にすらならなかったな。
体の大きな獣熊族のフィールはというと、どうにも収まらないので天幕は張らずに外で寝るそうだ。見ると岩の上にどかりと座るフィールの姿があった。
「私は奴隷時代から、野外で眠るのは慣れているからね」
フィールは元奴隷で、現在は奴隷身分から解放されているいわゆる解放奴隷という奴らしい。
「それでB級冒険者なのですね」
「ああ、そうだ。君は相手の力量を見抜ける能力があるのだね」
「すいません、詮索するつもりはなかったのですが」
「いや、いいよ。そういったスキルを持っている者は珍しくないからね。別に隠していないから」
彼女はレベル的にいえばA級クラスだが、解放奴隷はどんなにレベルを上げギルドに貢献しても階級はB級までにしか上がらないそうだ。
奴隷に必要以上の権利を与えないだとか、理由はいろいろあるらしい。聞いてみるとくだらない理由だが、フィール自身は気にしていない様子だった。
「B級でも十分なんだよ。食っていくには問題なく仕事を回してもらえるしね」
「そうですか」
「フィール殿は50年前の侵略戦争の経験者かの」
「ああ、あれは酷い戦いだった。あんたも参加してたのかい?」
「いや、わしは興味なかったからのう。冒険者の中には報酬目当ての志願者もいたようじゃが」
アルドラは人間同士の争いには興味がないと、戦争には関わらなかったようだ。
「そうか。まぁ、あれは戦争というより、一方的な虐殺といったほうが正しいかもしれない」
ルタリア王国から海を隔てた南の大陸ファラカル。王国から出立したのは、各領主から送り出された騎士を含めた正規兵+志願兵2万。迎え撃つのはファラカル沿岸に僅かに広がる森林地帯に縄張りを持つ獣猫族を中心とした狩人3000。
装備を整え、対人戦の訓練を重ねた職業軍人と、日々の糧を得るために森を走る狩人。その数は元より、あらゆる面で勝ち目など端からない戦いであったという。
いや、獣人側からすれば宣戦布告もない突然の襲撃。良く知らないが戦争にも作法というものがあるらしく、人間の国同士が争う戦争というのは、本来であれば宣戦布告を行い戦闘を行う期日などを代表者が話し合って決めるものらしい。
これは長い人間の歴史の中で、互いに無用な被害を出さずに勝利者を決めるという取り決めから生まれたものなのだ。
「多くの者が惨たらしく殺された一方的な虐殺だ。数日の間に沿岸地域は制圧され、多くの捕虜が王国に送られた。ほとんどはそのままタダ同然の値段で奴隷として売られていったそうだ」
「王国の各地を繋ぐ街道も獣人の奴隷が作ったらしいのう」
「そういう話も聞いてるね。鉱山に送られた者。農園に送られた者。戦闘奴隷となった者。生末は様々だったようだ。私は捕虜となった後、すぐに戦闘奴隷として使われるようになった。奴隷となり自由を奪われ、南の大陸に送られ多くの仲間を殺した」
「…………」
フィールはすでに昔の話と割り切っているのだろう。気軽に話しているが、あまりの重い話に正直反応に困る次第であった。
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