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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第193話 青の回廊2

 まだ地下にはそれほど深くは下りてきていない。とはいえ既に闇は深く魔導ランタンの明かりが無ければ、魔眼をもってしても見通すことは難しい。高さ3mほどの天井に、どこまでも続く広大な地下空間。


 地形探知がその広さを教えてくれる。胸元に忍ばせた盗賊の地図の確認も忘れない。おそらく水の流れか何かで生まれた自然の地形なのだろう。決して平坦とは言えないそれは複雑怪奇な構造をしており、闇の深さも相まって侵入者を飲み込む怪物の腹の中にも思えた。


「何か来ますね」


「んー?魔物かな?」


「はい。砂の中からです」


「んふー。ジンは私の探知よりも優れてるみたいだね!魔物の警戒はジン中心でお願いしようかな」


「わかりました。あと30秒くらいで姿を見せます」


 リディルが全員に要警戒の合図を送る。


 俺は探知に集中。正確な魔物の位置を特定する。砂の奥深くは流動的で、動きが読みづらいのだ。


 それでも魔物が地表近くまでくれば、その限りではない。リディルに出現地点を伝える。


「くるよー!」


 砂塵が舞い上がり、地中から魔物が勢いよく飛び出した。


 光沢とぬめりのあるピンク色の肌。筒状の体。先端に備えた円環状の口腔。


 飛び出した魔物は獲物を俺に定め、口腔を大きく広げた。口内にはびっしりと隙間なく生える牙の如き突起が確認できる。


「ほいっと」


 魔物を目視で確認すると、脇に身を潜めていたリディルは投げナイフを投擲した。


 特性の潜伏で身を潜めていたので、魔物には察知されなかったのだろう。風魔術で加速されたナイフは魔物の皮膚に深々と突き刺さる。


 見る間に魔物の動きが鈍る。研究員の1人に調合スキル持ちがおり、彼が用意した毒物をナイフに塗付してあるのだ。


「ふんッ」


 硬直した魔物の皮膚にフィールの剛拳が放たれる。


 ぬめりがあり弾力に富む皮膚は打撃耐性を備えるそうだが、それを凌駕する破壊力が打撃耐性を打ち破り魔物に致命傷を与えた。


 

 シーワーム 魔獣Lv23



 それはいつか見た魔物であった。違いがあるとすれば、人間の大人を余裕で飲み込めそうなくらいの巨体となっているところか。


「まだまだ来ます。10、いや、20はいるかもしれない」


「20!?そーれは、ちょっと多いなー。安全な場所まで移動しよう!みんな移動するよー、遅れないようにー!」


 足元が砂地であるため、移動速度が出にくいが魔物が現れるまで少し時間があるすぐに移動したほうが良さそうだ。


 アルドラはシアンとミラさんの補助に動いている。視線を合わせると“お主は自分の仕事に集中せい”と言われたような気がしたので、そっちは任せることにした。


 リザは脚力強化と浮遊を自身に付与しているのか、妙な足取りで俺から少し離れた位置を維持して付いてきている。浮遊で砂に足を沈ませることなく滑る様に移動しているのだ。器用な使い方をする。ダリアを師事することで更に磨きが掛かっているようにも思えた。


「レド!」


 俺は呼びかけると同時に彼に向って全力で蹴りを放った。不意を突かれたレドは反応が遅れ回避しきれずに蹴り飛ばされた。


「な、なにを!?」


 恨みを込めた視線が送られると同時に、彼の立っていた場所にシーワームが出現する。瞬間を見計らい俺は麻痺を撃ち込んだ。


「時間が無かった。悪い」



 移動してきた場所は足場に岩の混じるところだった。


 先ほどよりもマシだが、それでも砂地は多い。シーワームは魔力を探知しているのか、それ以外の何かなのか、確実にこちらを捕捉しているようで迷うことなく追跡してくる。


 さらには面倒なことにロッククラブもどこからか付いてきてしまったようだ。ランタンがあるとはいえ、視界も足場も悪いこの状況。逃げるか迎え撃つか。こういった場合の判断は、先導役のリディルが行う場合が多いようだ。


「シーワームもロッククラブも大した強さじゃないから、この場で処理しちゃおうー。目的の場所まで付いてこられると面倒だからねー」


 俺はシーワームの動きを捕捉し、可能な限り隊員に伝える。自分で処理するよりも補助を優先とした。アルドラたちは直感のお陰か、魔物が接近すれば察知することができるようだ。


 かなり近くまで来ると砂が盛り上がるように動くので、たしかに注意していれば気づけるのかもしれない。とはいえこの視界の悪さである。隊員たちそれぞれがランタンを手にしているとはいえ、人族やミゼットには厳しいだろう。


 だが隊員たちの動きは迷いがなく経験の深さが垣間見れた動きだった。遺跡での戦いに慣れている。魔物に対する動きを見ればそれが良く分かった。


 ちなみにこんな状況に置いても、ミスラ戦士団はわれ関せずといった様子であった。どうやら本当に手出しはしない主義らしい。

 


 シーワームが口を窄め、水を吐き出した。いや、吐き出すというよりも撃ち出すといったほうが正解だろう。圧縮された水が口腔より噴出、それはまるでレーザービームのように隊員を襲った。


 撃ち出された水は鎧を僅かに掠め、その背後にいたロッククラブに命中した。


 ロッククラブの岩を張り付けたような頑強な装甲に、圧縮された水の射出によって大きな穴が作られた。


「腹部が膨れたら注意しろ!水刃が来るぞ!」


 フィールの号令が響く。連発はできないようだが、あの威力は危険だ。生身に受ければただでは済まないだろう。


 砂中から魔物が出現したら瞬時に取り囲み、逃がすことなく短時間で仕留める。


 

「疲れているとは思うが、魔石を回収したら移動を急ごう。目的地に着いたら休憩だ。みんな頑張ってくれ」


 シーワームの魔石から水魔術“水刃”を修得した。圧縮した水をカッターのように撃ち出す魔術らしいが、なんとなく魔力の消費が多そうである。

 

 溶解もそうなのだが水魔術は魔力消費が多めなのだ。これは相性のせいもあるのだろう。強力ではあるが運用が難しいとも感じる。 


 調査隊は手早く魔石を回収し終えると、怪我人の治療もそこそこに移動を開始した。どうやら目的の場所まで、あと僅かの地点らしい。


 ブルーノ・ウォー 戦士Lv37

 人族 27歳 男性

 スキル:鎚術C級 盾術C級 鉄壁D級 忍耐D級 水魔術E級

 

 ブルーノの動きが鈍い。重装甲の甲冑、全身を覆うほどの大盾。敵を粉砕する戦鎚。そういった装備の結果、彼の重量は相当なものとなる。そのため砂地に足が囚われ、動きが鈍くなるのだろう。


「脚力強化と浮遊を付与しました。これでいくらか動きやすくなると思います」


 リザがブルーノの補助にとさりげなく付与術を行使した。


 付与術は効果時間が短く、基本は自身に掛け続けるのが一般的。補助に徹するなら他者に掛け続ける場合もあるが、距離があるほど術を掛ける難度があがるので優れた魔術師でなくては戦闘中にも付与術を維持するのは難しいのだ。


 リザといえど調査隊全員に付与術を行使するの不可能であるため、自分への行使へと留めていたようだがブルーノの苦労を察して手を差し伸べたのだろう。


「あ、ありがとう。エリザベスさん」


 スリットの入った鉄兜の奥から、低いどもり声が聞こえた。


「気になさらないで。急ぎましょう」


「あ、うん。そ、そうだね」


 


 しばらく進むと砂と石の下に見え隠れする石畳の存在が確認できた。自然そのままの地形ではなく、人の手が加わった領域。壁は岩盤を削ったそのままの壁であるが、所々に窪みが見える。おそらく燭台かなにかだろう。今は何もないが、かつては明かりとなるものが設置されていたのかもしれない。


 沈み込むような砂地ではなく、その下に固い確かな地面があるのを感じた。それだけで歩きやすさが段違いである。進む道もいつの間にか平坦に近いものになっていった。


「見えてきたぞ。転移門ゲートのある部屋だ」


 シフォンの声と共に視界に入ってきたのは、闇を照らす光だった。


 近づくほどにその強さは増すようで、先ほどまでの闇に慣れた目には眩しすぎる輝きである。


 ドーム状の高い天井は20m以上あるのではないだろうか。天井には遺跡の装置なのか、いくつかの照明が機能しているようで強い光を生み出していた。サッカーグランドほどもある広い空間。

 

 砕けた岩石が無造作に転がり、砂が堆積しているのが見える。良く見るとただの岩ではなく文字が彫られているようだ。遺跡の一部なのだろうか。なにが書いてあるのかは読めないが、似たようなものがあちこちに点在しているのが確認できた。


「周囲の安全を確認する。その後は野営準備、怪我人の治療に当たってくれ」


 広範囲探知で周囲を確認する。小さな魔力の動きを感じる。何かいるな。


 

 シーバグ 魔獣Lv16


 岩の隙間から人の腕くらいはあろうかという巨大な甲虫が這い出してきた。無数にある脚、長い触覚、大きな目。虫は危険を感じたのか、素早い動きで走り去っていった。


「んー、あれね、シーバグっていう磯に住む虫だね!積極的に襲ってくることはないけど、寝てると噛まれるかもしれないから気を付けてね!」


 噛みついてくる虫を放置するのは気が休まらないということで、手分けして虫の駆除を行うことになった。


 駆除には手の空いた隊員が行い、怪我人は治療師に任せ、他の者は野営の準備に移った。


 ミラさんは治療師としいて怪我人を見ている。軽症の者が数名いるだけなので、魔力消費には問題ないだろう。遺跡は魔素濃度も高いのでエルフならば促進効果で魔力回復の速度も高まるだろうしな。


 虫退治にはシアンとネロも活躍した。


 これくらいの相手ならば、レベル上げにも丁度いいかもしれない。



「兄様、魔石を見つけて来ました!」


 シアンがシーバグから回収してきた魔石から“雷耐性”を修得した。


「よくやったシアン、偉いぞ」


「えへへ」


 シーバグは比較的危険度の低い魔物なので、彼女に引き続き駆除を任せた。魔力探知では残り数匹程度だろう。殲滅は難しいかもしれないが、ある程は度減らしておいた方が良い気もする。


 

 虫駆除に一区切りをつけ、シフォンの元へやってきた。部屋の中心にあるのは石で作られた円形の舞台。その周りには石柱が等間隔で並んでいる。どこかで見たような作りだ。転移門というのはレヴィア諸島へやってきた先に利用した、魔術装置による長距離移動装置のこと。しかし、この場にあるのはベイル地下で見た黒球とは違った形式のものらしいが。


「そうなのだ。この転移門は機能を失っている。これを解析調査して機能を回復させるのが今回の目的だ」


 内蔵された魔力回路を複写、正常な機能を有している転移門と比較し欠損ヶ所を修復するらしい。


 機能が正常な転移門であれば魔物を退ける魔物避けの魔術が付与されている場合が多いようだが、この転移門は機能を失っているのでその効果は期待できない。


 研究者たちが転移門の解析を行っている間、冒険者たちは交代でこの場を守護するのが任務となるようだ。


 


今回で予約のストックが切れました。

できるだけ早い再開を目指したいと思いますので、申し訳ありませんがしばらくお待ちください<(_ _)>

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