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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第189話 ミスラの首飾り

 現在レヴィア諸島海底遺跡、通称“青の回廊”への調査は一時中断状態となっていた。


 もちろんこれは“俺の許可申請待ち”などという理由ではなく、遺跡内で不穏な案件が発生したということだった。


 ベイル調査隊の調査自体は2年ほど前から細々と行われていたようだが、ここ最近になって遺跡内部の特定の場所で意図的に破壊された箇所が確認されたのだという。


 調査隊が遺跡に入る際にはミスラ族による島内の治安維持部隊“ミスラ戦士団”から選ばれた随伴員が付くことになっているので、間違っても疑われるような事にはならないとは思われる。


 しかしながら“現状確認中ゆえに報を待て”という待機の指示がミスラ族の女王から発せられているため、無視することも出来ず現状待機状態となっているといった具合だった。


「さぁ!とりあえずは軽く体を動かしてから、罠解体の講義を始めようかな!」


「よろしくお願いします」


 着替えを済ませ、リディルさんと表へ出てきた。


 朝の痴態を目撃し、羞恥にうずくまっていた彼女も気を取り直したらしい。なんだか申し訳ないことをした気分だが、大丈夫そうなら敢えて掘り返すこともないだろう。


 小人族というのは活発な種族で、彼女も朝の散歩を日課としている。よく言えば元気、悪く言えば落ち着きのない人たちのようだ。


 彼女の持つ特性“健脚”は強靭な足腰と、脚力を実現させる小人族特有の能力である。


 古くは遊牧生活をしながら放浪していた者たちを祖先に持つという彼らの、千差万別の地形を走破するために身に着けた生きるために備わった能力なのだ。


 それに加えて彼女は風魔術を使い移動能力を大きく加速させている。魔力の事情もあるので常時使える訳ではないが、その加速力は疾走スキルにも迫る勢いを見せるという。


  

 とりあえずは軽めにと走り出したリディルを、俺は疾走と軽業のスキルで追いかける。


 散歩という割には最初から全力のような速度だ。これは油断したらあっという間に置いて行かれるぞ。


 しかも彼女は街路を走らず道なき道を突き進んでいく。


 ある時は余所様の家の塀を、ある時は余所様の家の屋根を。壁を三角飛びで蹴り上げ、屋根まで駆け上がるとそのまま屋根伝いを軽い足取りで走っていく。すでに散歩では無くなっていた。


 これは、あれだ。昔、映画か何かで見た、パルクールって奴のようだ。道なき道を縦横無尽に駆け抜ける、忍者の如き移動術。


 小柄なリディルさんは、そもそもが身軽でまさしく忍者のように軽々と障害物を越えていく。


 しかも息一つ乱すことなく楽しそうだ。


 すでに俺のことは忘れて、どんどん先へ進んでいってしまう。俺はなんとか置いて行かれないよう必死に付いていった。


 途中から体術スキルにもポイントを振った。


 少しでも体を自在に動かせるようにと考えてのことだ。どうやら狙いはあっていたようで、複雑な動きも多少は可能になった気がする。闘気スキルも入れた方がいいかもしれない。すでに体中を打ち付けて、かなりダメージを負っているのだ。




「ちょっと朝ご飯を食べていこう!」


「……あ、はい」


 なんとか彼女に追いつくと、リディルさんはいいことを思いついたと言わんばかりの笑顔でそう提案してきた。


 俺は肩で息をしているのに比べて、彼女はまったく呼吸が乱れていない。……今までの行程も彼女にとっては、散歩程度のものだったのか。


 ミューズ市場に寄り道をして、軽めの朝食を取った。


 海人族の食事は網や槍で捕った魚介類が中心だが、人族との交流が増えて食生活もかなり変化してきているという。


 昔は食べられていなかったパンなども、いまでは普通に食べられているというし、そういった時代の変化から新しい文化も生まれつつあるそうだ。


 市場でもそういったことから、並ぶ商品は意外と豊富であったりする。


 人族や獣人族もミューズには多く滞在しているので、そういった客もいるからなのだろう。


 市場では昨晩キースが手に入れていた飴玉も売られていた。金持ち向けの高級砂糖菓子だ。鮮魚市場で扱う商品でないと思うが、ともあれ我が家の女性たちは甘い物が好きなようだしお土産に買っていこうか。


 市場を歩いていると、帝国冒険者と思われる数人の男たちを見かけた。


 思わず緊張が走る。


 見たところ武器は携帯していないようだし、身に着けている装備も戦闘用の鎧等ではなく普段着のようではある。


 しかし昨日の今日だからな。何かしらの報復といったものがあってもおかしくはない。今のところ音沙汰はないが、今ないだけで次の瞬間にはどうなるかはわからない。


 シフォンさんは向こうの出方を見るといった話をしていたが……念のためにとスキルを変更する。まだ朝の早い時間帯だが、人通りは多い。派手な術は使えないだろう。


 そう考えていると、連中の1人と目が合った。


 その男はまっすぐこちらへ向かってくる。


 何故かすごい笑顔だ。怖い。


「ジン様殿、おはヨウござマスッ!!」


 男は俺の目の前で立ち止まると、深々と頭を下げた。


「……お、おう」


 その光景に気が付いた男の仲間もこちらへ向かって近づき、同じように頭を下げて挨拶をした。


 全員すごい笑顔である。怖い。


 まったく瞬きをせず、瞳孔全開。とって張り付けたような笑顔。なんだろうこれ。すごい違和感。


 話を聞くと彼らは、市場の清掃活動を行っていたらしい。なんだ清掃活動って。


「私たちミナ、自分の愚かさにニ気ガ付キましタ。島の人たちと仲良くないタイ。おお役に立チいタイ。だから清掃活動だからね」


 なんか口調もおかしいし。へんな薬でもキメてきたみたいな感じになってる。大丈夫かこいつら。すげーやばい感じがするんだけど。


 男たちは俺に挨拶をして清掃活動に戻って行った。見ていると市場で働く人たちには好意的に受け入れてもらっているようだ。


 なんだか良くわからないけど、まぁいいか。別に知り合いじゃないし。めんどくさいから見なかったことにしよう。


 


 ハードな散歩を終え屋敷へ戻ろうと海岸沿いを進んでいくと、岸辺の岩場で海人族の子供たちが集まっているのを目撃した。

 

 大きな泣き声が聞こえる。揉め事だろうか。思わず気になり足を止める。別にわざわざ首を突っ込む必要もないのだが「気になるなら見て来れば」リディルにそう言われれば断る理由もなかった。


「首飾りを落としちゃったの」


 泣き顔の少女が教えてくれた。彼女は海人族の少女。両親はこの島で漁師をしているらしい。


 一緒にいる少年少女もみな同じように漁師の子供たちのようだ。少女は6~8歳くらいか。白い髪に青い肌。あの水着みたいな服を着ている。


 女の子は将来は美人になりそうな整った顔立ちだ。


 ナラ・ミスラ 漁師Lv6

 海人族 6歳 女性

 特性:流動 皮膚感知

 スキル:水魔術F級

     風魔術F級

     光魔術F級


 首飾りというのは、自身がミスラ族であるということを証明する大切なものらしい。ギルドカードみたいなもんか。


 子供たちを見ると確かにみんな首飾りを付けている。


 ミスラの首飾り 装飾具 F級


 中心に青い石。それを挟むように白い貝殻を紐で通した首飾り。


 手作り感のある土産物屋とかでありそうな感じの首飾りである。特別魔力が備わっているということもないようだ。


 常に身に着けておくものらしく、泳いでいる最中も付けていたようだが驚いた拍子に外れてしまったのだとか。


「ロッククラブだよ。あれがいるから落とした首飾りを取ってこれないんだ」


 少年の1人が海岸の岩場を指し示す。


 しかし見た所、岩しかない。


 魔力探知


 あ、いる。たくさんいるぞ。


 ロッククラブ 魔獣Lv21


 状態:擬態


 岩に擬態しているのか。魔眼で確認すればわかるが、普通に見たのでは岩にしか見えない。


 この辺りの海岸はそう魔物の出るような場所ではないそうだが、まったく出ないという訳でもなくこうして姿を見せる場合もあるのだという。


 魔物を発見した場合はすぐに陸にあがれば襲われる問題はないそうだ。


 海人族の特性“皮膚感知”は周囲に存在する魔素や魔力の変化を、肌で感じ取ることができると言われている。


 魔物が近くにいれば、魔力の発する物体が近くに存在しているということを感じ取れるのですぐに気が付くのだろう。


「俺が首飾りを取って来てやろう」


「え?」


「お兄ちゃん、あぶないよ!」


「ロッククラブって強いんだよ!」


 子供たちが慌てだす。怪我するから止めた方がいいとか言ってくれる子もいて、みんな優しいいい子だな。


「確か強力な雷耐性があったはず。あと滅茶苦茶固い。馬鹿みたいに、すんごいタフ。魔術がないと面倒になるかもだけど」


「雷以外は効果ありますかね?」


「たぶん」


 火魔術が有効なら大丈夫だろう。


 おろおろする子供たちの口に、1つずつ飴玉を押し込んだ。


「甘い!?」


 驚く子供たちの表情が可愛い。子供は種族関係なく可愛いものだ。


「それでも舐めて、大人しく待ってな」


 周辺にいる魔物を一掃すれば、海底に落ちている首飾りも拾って来れるだろう。


 スキルを変更して魔物に近づく。威力が強すぎると周囲の地形も変えてしまう可能性があるから加減しておこう。


 火魔術 火球 C級


 バスケットボール程度の大きさの火球が、まっすぐ目の前の大岩に飛んで行った。


 岩はまったく動く気配はない。そのまま着弾。爆発。2tトラックくらいなら余裕で吹き飛ばしそうな破壊力だ。着弾点に炎が舞い上がる。


「うわああぁぁ」


 子供たちから感嘆の声があがった。


 同時に岩がゆっくりと動き出した。丸いおにぎりの下に四本の脚がついて、二本の腕が生えている蟹の魔物だ。俺の知っている蟹とは相当かけ離れた姿ではあるが。


 腕の一本は異様に大きい。それを高く持ち上げ、まるでこちらを威嚇していいるようでもある。ただフラフラなので、瀕死なのかもしれない。


 状態:炎上 瀕死


 やはり死にかけていた。


 蟹は大きな腕を乱暴に地面へと振り下ろす。ドスンと大きな音がした。蟹はそのまま息絶えたようだ。


 火球は問題なく効果があるようなので、片っ端から処理していった。


 


 魔石 素材 D級 ×12


 素材に魔石と内包されていたスキル“鉄壁”を修得した。


 防御に集中することで、肉体の耐久力を底上げするスキルらしい。ロッククラブの爪(大きい方の腕)は食用になるそうだが、重いので1つだけ貰って後は子供たちにあげた。


「いいの貰っても!?」


「やったーー!!」


「ありがとー兄ちゃん!」


 岩のように固い殻を外せば中の身を取り出せるそうだが、この数では結構な重労働になりそうだ。子供たちは大人を連れてきて作業すると言っていた。


 

「首飾りありがとうお兄ちゃん」


 首飾りを渡すと少女が頬にキスをしてくれた。人族のお礼の挨拶だと教わったらしい。おれも知らない風習だ。帝国の文化なのだろうか。


 少し離れたところでリディルが無表情でこちらを見ている。俺は気づかない振りをした。


 ミスラ鉱石 素材 F級


 中心の青い石を見ると、素材の情報を得た。このミスラ島で捕れる素材なのだろうか。首飾りに使われるくらいだから、貴重なものでもないのだろうけど。


 子供たちと別れ街路を進む。


「浮気かな?」


「冗談はやめてください」


 真顔でおかしなことをいうリディルさんに注意しつつ屋敷へと辿り着いた。


 庭から声が聞こえるので覗いてみると、アルドラとフィールが組み手をやっていた。


 獣熊族の女性武闘家フィールは道着のようなものを着込み、対してアルドラは上半身裸とズボンといったような出で立ち。


 けっこうガチな殴り合いが続いている。フィールの身長もアルドラと同程度か少し高いくらい。しかし筋肉量では圧倒的な差がある。彼女はでかいのだ。見た目では女性とわからない毛むくじゃらの体に、盛り上がった筋肉。鍛え上げられたアルドラでさえ細く見える。


 まるで大砲のような拳打。迫力が凄い。それを相手にしているアルドラも凄いのだが、やはりエルフと獣人というのは根本的な差があるのだと感じてしまう。


 まぁ、アルドラ楽しそうだけど。


「む、帰ったのかジン。どうじゃ、お主も混ざらんか?」


「いや、遠慮します」


 俺は2人を残して、そそくさと屋敷の中へ逃げ込んだ。


お読みいただき、ありがとうございます!

ブクマ、評価よろしくお願いします(=゜ω゜)ノ



 ジン・カシマ 冒険者Lv32精霊使いLv30

 人族 17歳 男性

 スキルポイント 0/75

 特性:魔眼


 雷魔術【雷撃 雷扇 雷付与 麻痺 雷蛇】

 火魔術C級【灯火 筋力強化 火球】

 水魔術【潜水 遊泳 溶解 洗浄】

 土魔術【耐久強化 掘削 創造】

 闇魔術B級【魔力吸収 隠蔽 恐怖 黒煙】

 魔力操作【粘糸 伸縮】

 探知A級【嗅覚 魔力 地形】

 耐性S級【打 毒 闇 氷】

 体術 盾術 剣術 槍術 鞭術 鎚術 投擲 短剣術

 闘気 鉄壁 隠密 奇襲 警戒 疾走 軽業F級 解体 窃盗

 繁栄 同調 成長促進

 木工


 雷精霊の加護



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