第188話 訪問者
柔らかなシーツの感触。毛布から這い出ると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでくるのが見えた。
宴会が終わって屋敷に戻ってきたのか。いつ戻ってきたのかは、まったく記憶にないが……
体に触れる感触に気付き毛布をめくって確かめると、腰のあたりに抱き着くシアンの姿があった。
すぐ傍にはリザの姿も見える。自分の姿を確かめると、服の類は一切身に着けていない。それは彼女たちも同様だった。
朧げな記憶を手繰り寄せる。うーむ。たしか、帰って来てから2人を部屋に招いて……うん。そうだった。朝方まで頑張ったんだっけ。
リザの髪を撫でる。指通り滑らかな艶のある髪。美しい髪が白い肌に映える。
ついでにと柔肌を撫でる。傷一つないすべすべの肌。撫でてるだけでも気持ちいい。
「んっ……」
調子に乗って全身を撫でまわすが、少し反応があっただけで起きる気配はない。よほど疲れているのか。いや、たぶん俺が疲れさせてしまったのだろう。
もう少し静かに寝かせてあげようと思ったが、あまりの柔らかさと気持ち良さに手を離すことができない。困った。
朝のゆったりした時間を楽しんでいると、自分の体にまとわりつく感触に気が付いた。
「兄様おはようございます」
いまだに腰のあたりに抱き着くシアンが、毛布の下から屈託のない笑顔を見せる。
「ああ、おはようシアン」
務めて冷静に答えるが、まったく冷静になってない部分がすぐ傍にある。顔が近い。すごく近い。吐息が掛かってくすぐったい。というかワザとやってるなシアン。
「兄様はすごいですね……」
何がすごいのかはよくわからないが、敢えて聞かないでおいたほうが良いのだろうな。
言葉なく上目づかいで見つめてくるシアン。まるでこちらの出方を伺っているようだ。
「あー、ちょっと頼んでもいいかシアン」
「はいっ」
その言葉を待っていたとばかりに、シアンは弾んだ声で答えた。
しばらくして耳元での物音に起こされたリザも加わり、朝から2人を相手に頑張ってしまうのだった。
部屋の外からドタドタと騒がしい足音が聞こえた。
どこかで聞いたような若い女の声。乱暴に開けられる扉の音が聞こえ、その足音はどんどんこちらへと近づいて来ている。
そして、その足音はこの部屋の前で止まった。
「いつまで寝ているつもりだジン・カシマ!起きろーッ!!」
大声と共に部屋の扉が開け放たれた。
そういえば部屋の鍵はいつも閉めていなかった。声の主は遠慮なく部屋へと侵入すると、寝台から毛布を剥ぎ取った。
「あっ、待って――」
「もうとっくに日は昇っ……うあああああああッッ!!?」
「……リディルさん、借りている間は一応俺たちの家なので、勝手に入ってこられては困るんですけど」
俺は彼女へと窘めるように言葉をかける。
「なんでっ、そんなっ、同じ寝台に!しかも裸で!????変態だよ!変態!」
リディルは両手で顔を隠し狼狽した。この世界にも変態なんて言葉があったのか。意味は同じなのかは不明だが、彼女の使い方を聞くと似たような物なのかもしれない。
リザとシアンは咄嗟に俺を盾にして身を隠した。俺は毛布をリディルから奪い取りリザに渡した。
「彼女たちは俺の妻なので、一緒に寝るのは普通ですよ」
俺は寝台から降りて手早く着替えを済ませる。
リディルは慌てて後ろを振り向きうずくまった。今更であった。
「えええ!?そうなの!?人族はそうなの!?」
リディルは混乱の極致といった具合だ。どうやら彼女は、こういったものに耐性がないらしい。リザの話では年齢的には大人であるという話だが、まぁ大人だとしてもそういったことに慣れていない、もしくは知識がないのかもしれない。
小人族の文化や価値観についてはリザも詳しくはないそうだ。まぁ、しばらくすれば落ち着くだろう。
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