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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第1章 漂流者
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第19話 森外れの街

 案内された宿は、お世辞にも綺麗な宿とは言えなかった。

 リザが勧めるのだから、女の子が喜びそうなオシャレな外観とかを想像していたのだが、その宿は今にも潰れそうな年季の入ったボロ屋であった。

 街の繁華街からも少し離れていて、場所的にも人気の無さそうな宿である。


「ジン様ここです」


「……趣きのある宿だね」


 リザはそんな宿にためらいもなく入っていく。


「いらっしゃい。……ってあれ?リザ?」


 リザは受付カウンターの前まで歩みを進めると、フードとストールを外した。

 

「アリアさん部屋空いてる?」


「いま1部屋だけ空いてるわよ。ってちょっと、そんなことより、どうだったの?」


「ごめん、その話は後で」


 そういうと、受付の女性は俺の存在に気がついた。


「え?リザ?」


「1泊、2人ね」


「あ、そうね。ごめんなさい。1部屋しか空いてないけどいいの?」


「ええ」


「そう、わかった。部屋は206号室よ、鍵はコレね」




 リザは鍵を受け取り、部屋へと向かう。

 荷物は自分で運ぶようだ。

 俺は、ただ黙ってそれに追従した。


 鍵を開けて中に入ると8帖くらいの部屋にダブルベッドが1つ。

 他にクローゼット、チェスト、テーブルにイスが2つ。 

 ボロいビジネスホテルみたいな感じだ。


「貴重品は受付に預けたほうがいいと思います。この宿はこの街でも安全なほうですが、預けたほうが間違いがないでしょう」


「わかった。えっとこの部屋ベッドは1つなんだな」


「はい?そうですね。この部屋しか、空いてなかったそうですので」


「そうか」


「すいません」


「いや、謝らなくていい。……むしろ、いい」


「え?何か言いました?」


「いや、なんでもない」


 この街では時刻を知らせるために、街の中央にある時計塔から時間になると、それに合わせた鐘がなる。

 待ち合わせは、夜6時を知らせる鐘が鳴る頃に、ということだったので、まだ少し時間がある。


「ジン様、少し時間を頂いてもよろしいでしょうか?時間までには、もどりますので」


「さっきの人?エルフ族みたいだったけど」


「はい。ずいぶん昔に村を出たそうですが、大叔父様の村の方です」


「そっか、わかった行っといで」


「はい」


 リザは頭を下げ、部屋を出て行った。




>>>>>

        



 しばらくして部屋に戻ってきたリザと一緒に部屋を出た。

 荷物は受付に預けてある。


「宿代まで立て替えてもらって悪いな」


「いいえ、あの宿は他の一般的な宿より安いのです。なので大した値段にはなりません」


「魔石や魔物の素材が売れるというのを聞いたんだが、この街でも売れるのか?」


「そうですね、売れるとは思いますが、ベイルの冒険者ギルドで売ったほうがいいかもしれません。需要の規模が違うでしょうから」


「魔石はリザのぶんも含まれてるけど、売却してから渡したほうがいいか?そのままのほうがいいか?」


「え?私のぶんですか?」


「あの夜、活躍しただろう。俺も命救われてるしな」


「私もジン様に助けていただきましたし、それはジン様の懐に収めて頂いてよろしいかと」


「うーん、それだと取り過ぎじゃないかな」


「では売却してから考えましょう」


「それって、後回しにして結局受け取らないパターン?」


 リザは愛らしい笑顔を見せる。

 なんか誤魔化された気分だ。




 街のある一角にくると屋台がズラリと並ぶ通りに入った。

 通りは人でごった返し、活気に満ちている。

 ざっと見ただけでも様々な人種がいるようだ。


 人族


 獣狼族

 

 獣猫族


 獣鼠族


 獣狐族


 獣熊族


 エルフ


 ハーフエルフ


 ドワーフ


 人族が一番多いようで、次いで獣人族が多いようだ。


 職業も様々で、戦士、狩人、冒険者、商人、農民、樵、衛兵など、ざっと見ただけでもかなりの種類があるようだ。


「獣人族ってのは、獣耳と尻尾を持つ種族の総称なんだよね?」


「そうですね。人族が着けた呼称のようです」


 屋台を覗きつつ、待ち合わせの場所を目指す。

 屋台では様々な物が売られていて、おもしろい。

 もっとゆっくり見て回りたいものだ。


 食事を提供する屋台が大半だが、様々な道具を扱っていたり、魔物の素材と思われるものを売っていたりと、その商品にはかなり幅があるようだ。


「おーい、こっちだ!」


 人混みの中、大きく手を振る獣狼族の少年を発見した。


「すごい人だな、いつもこんな感じか?」


「まぁだいたいそうだな。週末だから余計だろうけど」


 そういえばこっちの世界の暦って知らないな。


「とりあえず入ろうぜ。こっちだ」


 俺達はロムルスに促され、屋台を抜け、狭い路地に入ると一軒の酒場に入った。

 お世辞にも綺麗な店とは言えない、古めかしい店だ。

 何十年と続けている歴史を感じさせるボロさだった。


「おーい、おっちゃんきたぞー!今日は3人だ」


 店の中には、呑んだくれた爺さん達が数人いるだけで、寂れた様子だった。

 とても繁盛しているようには見えない。


「うるせえなクソガキ!怒鳴らなくても聞こえてんだよ!」


 店の奥はカウンター席になっていて、その奥は厨房になっているようだ。

 奥の厨房から、年配の男が濁声で怒鳴りつける。


 ロンジ 調理師Lv42

 ドワーフ 83歳 男性


 ドワーフか。

 肩幅のある厳つい体格。

 豊かな髭に禿頭。

 眼光鋭い視線。

 俺のドワーフのイメージによく似たおっさんだった。

 やはり人族よりも長寿なのだろう、83にしてはずいぶん若々しい。

 見た目での歳はわかりにくいが、人間に当てはめれば50過ぎぐらいに思える。

 

 カウンターの奥を覗きこむと、やはり身長は低いのだろう。

 床の高さを上げているようであった。


「お客さん、厨房に顔突っ込むと怪我するぜ」


 ロンジの手に持つ大きな包丁がギラリと光ったような気がした。


「……すいません」




 店では酒を注文し、あとは適当に店主が料理を出してくれるというスタイルらしい。

 おまかせってやつだ。

 俺もそうだが、文字の読めない者も多いため、そのほうが都合がいいらしい。

 文字が読めるという人は、商人や聖職者、貴族や一部の金持ちくらいだという。


 とりあえず酒を注文しろということなので、俺はエールを、ロムルスはワイン、リザはシードルを注文した。


「じゃあ、今日の出会いに乾杯ッ!」


 俺は久しぶりの酒だ。

 体に染み渡る気分で最高にうまい。

 エールというのは、初めて飲んだ。

 日本で慣れ親しんだビールや発泡酒とは、随分違うが、かなりうまい。

 まろやかな甘味に深いコク。

 なかなかクセになる、うまさだ。


 リザは酒に弱いのか、両手でマグを持ってコクコクと飲んでいる。


「それにしても、おごりだなんて、すこしやり過ぎじゃないか?何もしてないのに」


「いや、あいつら俺が若い獣人だから、舐めてたんだよ。俺1人じゃ金一封貰えなかったし、これくらいは当然さ」


 ロムルスは懐から封筒のようなものを取り出し、目の前でヒラヒラさせる。


「金一封?」


「あれ?知らない?たとえば普段街の近くに居ないような、ヤバイ魔物を発見したら、それをギルドや役所に報告するんだ。情報が真実だと確認されたら、情報料として金一封もらえるって寸法さ」


「なるほど、そういうことか」


 しっかりしてるなぁ。


「それに、この店はすごく安く飲み食いできるんだけど、味はピカイチでさ、この街にきたら俺は必ずくる所なんだよ。まぁ質のいい肉を仕入れてるからなんだろうけどね」


 そこへロンジが料理をもって現れた。


「へぇ迷子のロムルスが、一端の口利くようになったじゃねぇか」


「ちょ、ちょっとおっちゃん!」


 ロムルスは慌てふためいている。


「迷子のロムルス?」


「あぁ、獣狼族のくせに方向音痴で、よく集団狩りで迷子になって、森に置いて行かれて泣いてたんだよな~」


「いつの話だよ!俺がガキの頃の話じゃねぇか!」


「いまでもガキだろうが!」


 ロムルスは押し黙ってしまった。

 どうやらおっちゃんには勝てないようだ。

 レベルも高いし、普通に強そうだしな。

 まぁこの中で一番弱いの俺だけど……


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