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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第1章 漂流者
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第1話 森の中で

 つん。


 つんつん。


 つんつんつん。


 指先に感じる感触。


 ……あれ?


 ……たしか、俺……死んだんじゃなかったけ?


 かぷっ。


「いってぇぇーー!?」


 うつ伏せに倒れこんでいた俺は、指先に感じる痛みに咄嗟に飛び起きた。


 見渡せば周囲には多数の鳥によって囲まれていた。


 茶色いヒヨコの様な姿だが、チワワくらいにでかい。


「ピィギョォーーーッ!」


 俺の叫びに驚いたのか、鳥達は蜘蛛の子散らすように藪へと消えていった。


 啄まれた指先がジンジンと痛い。

 

「……あれ?ここは……どこだ?」


 落ち着いて周囲を見渡すと、見覚えのない景色が広がっていた。


 キャンプ場でテントを張っていたはずが、周囲は俺の居る僅かなスペースを除いて背の高い木々で囲まれ、まるで深い森の中といった様子だ。


 俺の知るキャンプ場も山の麓にあり、自然豊かなところだがこんな森の中にテントを張った記憶はない。


 指先の痛みから、これが夢の類では無いことだけは理解できた。




 ふと見るとすぐ脇に俺のテントがあった。


 荷物も軽くチェックしたところ、不審な点はなく揃っているような気がする。


「……あっ!そういや、バイクどうなった」


 あたりを見渡してみるも、それらしき影は見当たらない。


 地面は膝くらいまでの草で覆われているが、そんな中にバイクが転がっていればすぐに気がつくだろう。


 俺は理解が追いつかず混乱するのを、必死に抑え努めて冷静になるように心がけた。


 得体のしれない事態に陥っている今、パニックになっては危険ではないかと咄嗟に感じたからである。


 俺はふと妙な違和感を感じ、草を掻き分けとある木々の間から身を乗り出す。


 そしてそこから望む景色に、思わず息を呑んだ。


「なんじゃコレ」


 身を乗り出した、すぐその先は崖だった。


 そしてその先の光景は見渡す限り続く大森林、差詰め樹海といった様相だった。


 ギョェー。


 はるか先の空には巨大な鳥、いや子供の頃に好きだった恐竜図鑑、そこに記されたプテラノドンによく似た生き物が空を飛んでいるのが見えた。


 しかし、俺の目が捉えたそいつは2つの頭を持っていたのだ。


「うーん、ここから見える感じだと大きさがよくわからんが、少なくとも10メートルくらいありそうだな」


 周辺の木々の大きさから大雑把に推測したもの故、正確性は皆無だろうが。


 ともかく、とてつもなく巨大な存在なのは間違いなさそうだ。


 動物について特別詳しいわけではないが、俺の知っている地球にはそんなにでかい鳥は居なかったはずだ。


 もちろん2つの頭を持つ生物なんて、いるはずがない。


 この身に何が起きたのか?と考えてみれば、異世界トリップというワードが一番しっくりくる。


 いや、というのも直前に読んでいた投稿小説の序盤の話の流れに、よく似ていたからなのだが。


 この状況から見ても、勇者として召喚されたようには思えない。

 神様にもあった記憶もないので、偶発的な事故で転移したという事なんだろう。


 まぁ、ともかくありえない事態に直面しているのは事実のようで、実際のところ情報もなくアレコレ考えても仕方ないので、異世界に来ちゃった(仮)ということにしておこう。


 ウオオオォォォゥゥーーーーー。


 遠くから聞こえる地鳴りのような、遠吠え。


 狼か、虎か、声の主が何かはわからないが、獰猛な肉食獣といったような声だ。


 物凄い嫌な感じがする。


 このままここにいては危険と判断して、俺はこの場から離れることにした。

 



>>>>>




「まさか、この年で異世界トリップを体験するとは、人生なにがあるかわからんなぁ」


 俺は荷物を撤収し、リュックにまとめるとアテもなく歩き出した。


 悲観しても、事態の解決には至らない。


 ならば、現状を踏まえ、最善の行動を模索するのみと考え、俺はまずは水の在処と夜安全に過ごせそうな場所を探して彷徨っている。


 とは言うものの、森を行くにしても、特別な知識や技能を持っている訳ではない。

 そういう意味でも、俺にはまったくアテは無かった。


「そういや俺眼鏡してねぇな……」


 小3くらいから眼鏡を掛けていた俺は、眼鏡が無ければ隣に座る人の顔も満足に判別出来ないくらいには視力が悪い。


 しかし今は眼鏡が無くても視界ははっきりしている。


 それどころか眼鏡を掛けていた頃よりも、より良く見えるような気さえする。


 異世界に来た影響で、視力が回復したのだろうか。


 とんでもない状況だが、とりあえず1ついいことがあったようだ。


 俺はポケットを探り、スマホを取り出した。


「やっぱ電源は入んねぇか……」


 先程から知人と連絡を取ろうと思い、電源を入れようとするも反応はない。


 バッテリーは十分残っていたと記憶しているので、このタイミングで無反応ということはあの雷で故障してしまったのかもしれない。


 まぁ、あれが普通の雷だったかどうかは、わからないが。


 この状況のきっかけと思えるものは、あれくらいしか思いつかないが俺の理解の範疇を超えるものなので、なぜだろうと考えるのも無駄だろう。


 とりあえず事実としてはスマホが使えず、救援も呼べないということだ。


 ……あぁ、そういやここ異世界だったか。


 となると救援は期待できそうにないかもな。


 


>>>>>




 既に2時間以上は歩いている気がする。


 俺は腕時計の類は身につけていない。


 いままではスマホがあれば問題なかったからだ。


 このあたりの気候は、初夏といったところだろうか。

 陽の光を遮る枝葉の下を歩いていても、それほど寒くもなく暑いというほどの熱もない。


 比較的快適な気候で助かった。


 しばらく進んでいくと、無秩序に木々の繁茂するジャングルといったよりは誰かに植樹されているのでは?と思えるような空間に入った。


 どれも似たような大きさの巨木が間隔を開けて立ち並び、得てして人工林のような雰囲気だった。


 となると人の存在があるということだろう。


 少なくとも苗木を植樹したり、森を管理しようとする知性のある存在がいるはずだ。


 森は静かであった。


 ときおり唐突に聞こえる小鳥の鳴き声に、ビビる事はあるものの今のところ危険そうな生物には遭遇していない。


 それでも熊や蛇くらいはいるかもしれないので、警戒は怠らないように務めよう。


「おっ、なにかあるぞ」


 それは石で作られた、あきらかな人工物だった。


 石で作られた円形の舞台。


 大きさは直径10メートル近くはありそうだ。かなりデカイ。


 舞台は地面から20センチほどせり上がっている。


 周囲にはいくつかの石柱が疎らにそびえ立っている。


 石の舞台は1つの大きな石ではなく、カットされた石を組み合わせて作られているようでなかなか凝った作りをしている。


 まるで何か意味のあるデザインのように見えるが、それが何を意味しているかまではわからなかった。


 俺はここで休憩を取ることにした。


 リュックから飲みかけのペットボトルのお茶と菓子を取り出し、口に放り込む。


「水がないと、カップ麺も食えないな……」


 飲み物はこのお茶がなくなれば終わりだ。


 菓子も僅かしか無い。


 あと食料と言えるのは、カップ麺2個とスルメくらいだ。


 いままで水も食料も、すぐ手に入る環境にいたのだ。


 重い食料を持ち歩くはずもなく、俺の手持ちの食料と言えるものはほとんどなかった。


 石舞台に足を投げ出しどうしたもんかと考えていると、見覚えのある物体が木の影から飛び出すのが見えた。


 なんだろうと、凝視すると。


 ウズラ 魔獣Lv1


 頭の中に情報が直接流れ込んでくるような感覚を得る。


 なんだこれは?


 ウズラ 魔獣Lv1


 おぉ。


 こいつは俺の指を餌にしようとした、あの時の鳥か。


 どうも調べたいと凝視すると、なにか情報を得られるようである。


 異世界にきて何かの能力に目覚めたのだろうか?


 ウズラと表記された鳥は言われてみれば地球のウズラに似てなくもない。


 ちょっと大きめだが。


 丸っこい見た目に薄褐色の羽。


 その体は小型犬か、もう少し大きいかもしれない。


 少し離れた位置で、ウズラは必死に地面を啄んでいる。


 そういやウズラって食えるよな……


 Lv1ということは、つまり弱いってことだろう。たぶん。


 普通の野生動物ならいざしらず、魔物なら逃げずに襲ってくるんじゃないだろうか?


 ともすれば肉ゲットのチャンスでは?


 俺はリュックからナイフを取り出し、1匹だけ逸れているウズラに狙いを定めゆっくりと背後から近づいた。


 鳥には悪いが晩飯になってもらおう。


 まさかこの歳になってサバイバルを経験するとは、夢にも思わなかったぜ。


 鳥の背後に迫る。


 そしてあと僅かの距離まで来た時、足元から聞こえる乾いた高い音。


 枯れ枝踏み抜いた音に反応した鳥達は、あっという間に俺の視界から消えていった……




>>>>>




 休憩を切り上げ、俺は水場を探した。


 太陽の高さからいって、今の時刻は昼くらいだろう。


 どうやら異世界だろうとも、太陽は地球とさほどの違いはないようだ。


「そういや、あの力って俺にも効くんだろうか」


 あの力とは、ウズラを判別した能力のことだ。

 

 俺は自分の腕を見つる。


 能力の使い方など知る由もないが、使おうと思って見れば簡単に成功した。


 鹿島仁 漂流者Lv1

 人族 17歳 男性

 スキルポイント 1/1

 特性 魔眼

 スキル 雷魔術


 でた。

 

 でちゃった。 


 さっきのウズラと違い、情報量も多い。

 

 自分に掛けると沢山見えるのだろうか?

  

 おそらくこの能力は特性の魔眼ってやつが関係しているんだろう。


 このステータスを見れば、それしか考えられない。


 この事態の影響で何かに開花したとか、そういったところだろうか?

 

 視力の回復もこれのせいかもしれない。


 それにしても、17歳か。


 ずいぶん若返ったものである。


 どうも体がよく動くし、腹肉あたりがスッキリしたような気がしていたのだ。

 

 雷による若返り効果だろうか。


 歳のせいか最近痩せにくくなったなと感じていたので、ちょっとラッキーかもしれない。

 

 漂流者ってのは、もうそのまま、そういう意味なんだろう。


 俺漂流しちゃったんだ。


 スキルポイントってのは、よくわからんな。


 スキルを覚えるのに必要なポイントか?


 ますますゲームみたいなノリだな。


 そして雷魔術。

 

 正直コレが一番気になるところだった。


 魔術。


 なんという胸熱の響き。


 水も食料も満足にない危機的状況のはずなのに、ちょっと楽しくなってきた。


 これで俺の提唱する「ここって異世界なのでは?説」が現実味を帯びてきたな。


 これでこの世界に魔術、魔獣、レベルが存在することが証明された。


 最近でこそ少なくなったが、俺もラノベやゲームは昔から好きだしRPGなんて特に好きでよくやっていた。


 ゲームのような異世界に漂流。


 ちょっと考えただけで、テンションが上ってしまうのは仕方ないことだろう。


 俺は指先を目の前の巨木に定め叫んだ。


「サンダーボルトォッ!!」


 特になにも起こらなかった。 

  


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