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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第1章 漂流者
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第18話 旅立ち2

 翌朝、夜明けとともに起床した俺達は、身支度を整え寝床を撤収した。

 扉は侵入者のことも考え、閉じたままになっている。

 リザに脚力強化と浮遊の魔術を付与してもらい、城壁を飛び越えて村を出た。


「このまま坂を下って行くと、川に出るので川沿いを下って行きます」 


「わかった」


 俺の荷物は地球から俺とともにトリップしてきたテントその他の荷物、まとめて全てリュックに収まっている。

 他にウエストバックと大きな麻袋を担いでいた。


 リザは壊れた鎧を村に放棄し、いまは旅用の軽装に身を包んでいる。

 頭をすっぽり覆うフード付きの外套に口元はストールの様なもので覆っている。

 手にはだいぶ痛みの目立つ長杖。

 背中にリュックを背負っている。


「荷物大丈夫ですか?私の方にもまだ少し入りそうですが」


「大丈夫、筋力強化もあるしね」


 俺達は風魔術の脚力強化を付与し、川の合流地点で森からの材木を集める集積地の村、ガロを目指した。

 いくらか坂道を進むと、川が見えてきた。

 川幅はそれほどもない。

 流れも非常に緩やかなものだ。

 深さは1メートルあるかどうかだろう。


 川沿いの道をひたすら進んでいく。

 川は蛇行を繰り返し、脚力強化を付与しても進みはそう早くない。

 道というのもいわゆる獣道のような、言われなければ道とは思わないレベルのものだ。


 ズシンッ


 しばらく進んでいくと、地面がふと揺れるのを感じた。


「リザいまの感じた?」


「はい。揺れましたね」


 ズシンッ


 ズシンッ


 これは地震では無さそうだ。


 俺達は慎重に歩みを進め、その振動の原因となるものを発見した。

  

 サイクロプス 妖魔Lv34


 巨人である。


 川で腰を屈め、巨人が水を飲んでいる。

 かなりでかそうだ。

 広い肩幅、異様に盛り上がった筋肉。

 小さな山がそのまま動いているようだ。


「レベル34だ。見つかるとマズイな」


「……引き返しますか?」


 リザの不安な表情が見える。


「うーん。少し離れて様子を見よう」


 サイクロプスはしばらく喉を潤したあと、その場へ座り込み、動かなくなった。

 

 むしゃむしゃむしゃ


 手に何かを握りしめ、黙々と齧りついている。


「食事中でしょうか。静かに通り過ぎれば、行けるかもしれません」


「そうだな、そういえば新たに習得した魔術がある」


 闇魔術 C級 隠蔽


 俺はポイントを変更し、隠蔽を付与した。

 体に黒いオーラが纏わり付く。


 魔術の効果は習得すると、なんとなくだがわかるようになっている。

 非常に便利である。

 そのため隠蔽についても最低限の知識はあった。

 隠蔽を付与することで、他者からの認識を阻害するという効果だ。

 これによって魔物に気づかれずに潜入することも可能だ。

 

「よし、気付かれないように慎重に行こう」


「はい」


 サイクロプスを迂回するため森へ分け入り、気配を殺して先へ進む。

 だが心配を他所に、気づかれる様子はまったくなかった。

 隠蔽が優秀なのか、サイクロプスが鈍いのかどうかはわからなかった。




 その後、特に何事もなく移動を続けた。

 昼ごろ、川沿いに丁度いい広場を見つけたので、休憩することにした。

 

「水魔術で水まで出せるなんてホント便利だな。それがあれば、旅なんかでも水の心配しなくていいんだもんな」


「そうですね。魔導具でも同じ効果のものはありますが、なかなか高額ですしね」


 火にかけたクッカーの水がグラグラと湯気を出し始める。


「できたよ。熱いから気をつけて」

 

 俺はカップに入った黒い液体をリザに手渡した。


「はい、いただきます」


「どう?」


「ん~、苦いです~」


「慣れないと飲みづらいかもね。砂糖や蜂蜜、ミルクを混ぜて飲むと飲みやすいんだけど」


 慣れない飲み物に、両手でカップを持ち、ちびちびと飲むリザ。

 疲れを取りリフレッシュする飲み物と聞いて、チャレンジしているのだが、どうやら苦手のようだ。


「今度蜂蜜入れて飲んでみたいです」


「実はもう残りが少なくてね、この世界にもコーヒーがあればいいんだけど」


「う~ん、私は見たことないですね」


 俺は知ってる限りのコーヒーの説明をした。

 もし似たようなものがあれば、手に入れてもらおうと思ったのだ。


「それだと獣人国にあるかも知れないですね」


 獣人国というのは、砂と荒野で出来た南の大陸にある国である。

 便宜上、人族の間では国と呼称しているが、幾つもの獣人部族がそれぞれの縄張りを主張し合い、小競り合いを続けているような場所らしい。


「そうか、いつか行ってみたいな」


「南の大陸の魔物は大変強いらしいですし、そこに住む獣人たちも友好的かどうかは、その部族によっても違うでしょうから、かなり危険かもしれません」


「そうだな。まずは自分を鍛えて……まぁだいぶ先の話だな」




 休憩を終えた俺達は、一路ガロを目指した。

 

 なんどか魔物を目にすることはあっても、戦闘になるようなことはなく、移動はスムーズに行った。

 慣れない山の中の移動ではあったが、脚力強化が効いているのだろう、それほど苦痛というほどの疲れはなかった。


「村が見えました」


「おぉ」


 何度か川を合流し、やっと辿り着いた。

 森の中に突如現れた広く開かれた空間。

 アルドラさんの村で見たような木の城壁が街をぐるりと囲んでいる。

 村というような規模ではない、予想よりもかなり大きな街だった。


 街の入口である門前の広場に近づくと、門の近くに小屋が見える。

 小屋の前には人が並んでおり、何か揉めているように見えた。


「だから嘘じゃないって言ってるだろ!」


「おいおい馬鹿なことを言うな。こんな森の外れにサイクロプスが出るわけ無いだろ?はぁ、まったく手間を掛けさせるなよ。俺達はお前の嘘に付き合ってられるほど暇じゃないんだ」


「そんなこと言って、後でどうなっても知らないからな!」


 大きな声で言い争っているため、こちらの方にまで声が丸聞こえである。

 

「サイクロプスってアレのことだよな?」


 俺はリザに同意を求めた。


「おそらく、そうでしょう」


 リザも同じ意見のようだ。


「あのー、すいません」




>>>>>




「さっきは助かったよ、ありがとな兄さん!」


 バシバシと俺の肩を叩いてくる彼は、先ほど門番と言い争っていた少年だ。

 どうもこのあたりで普段見ることはない、サイクロプスを目撃して、その報告をした所、信じてもらえず言い争いになってしまったらしい。

 第三者の俺の証言も加わり、やっと信じて貰えたのか、確認のため人を派遣する手筈となった。


 ロムルス 狩人Lv32

 獣狼族 15歳 男性

 特性 夜目 食い溜め

 スキルポイント 1/32

 探知 E級 

 追跡 F級

 体術 C級

 闘気 D級 

 投擲 C級

 隠密 F級


 獣狼族か。

 頭の上に三角耳とフサフサの尻尾を持つ、獣耳少年だ。

 やや切れ長の瞳をした生意気そうな顔付きに、小柄だが引き締まった体躯。

 レベルやスキルを見ても、相当な実力者だとわかる。

 15歳でこれだと、獣人ってどれだけ強いんだよって話である。


 ちなみに門番の通行検査はあっさりしたもので、金を払って終わった。

 一応身分証の提示を求められたものの、持ってないと言うと、通行料を多く払うだけで問題なく通してもらえたのだ。

 俺はこの世界の通貨を持っていなかったので、リザに立て替えて貰ったのは言うまでもない。


「獣狼族は珍しいかい?」

 

「あぁ、初めて見た」


 少年はにやりと不敵に笑い、


「兄さん達、今着いたばかりだろう?俺がおすすめの宿紹介してやるよ」


 先ほどの口添えの礼だという。

 俺はリザに目配せすると、いままでおとなしかったリザが口を開く。


「いえ、予定してある宿がありますので、せっかくですが」


「そっかー、じゃあ飯でも一緒にどうだい?もちろん俺のおごりだよ」


「俺はいいけど、リザはどう?」


「……わかりました、ご一緒します」


「そうだ。まだ名乗ってなかったね、俺は獣狼族のロムルスだ」


「俺はジン。彼女はエリザベスだ」




 俺達は少年と別れ、リザの勧める宿を目指す。

 

「……あの、よろしかったでしょうか?」


「ん?なにが?」


「いえ、私が勝手に宿を決めてしまって」


「もちろんいいに決まってるよ。俺にはここの土地鑑なんてないんだし、助かるよ」


「そうでしたか。わかりました」


「それに、そんなに畏まって話さなくていいからさ。歳も近いんだし、別に主従関係ってわけでもないんだしさ」


 まぁ俺の向こうでの年齢はずっと上なんだけど、こっちでもステータスは17歳って表記されてるし、17でいいだろう。

 もしかしたら精神年齢って意味なのかもしれないが。


「はい」


 リザはそういって優しく微笑んだ。


 

  

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