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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第176話 氷獄島 調査報告

※主人公視点じゃないです。

 西方大陸を南北で二分する山岳地帯。その険しい山脈から北の地を、人は北方地方と呼んでいる。


 かつては大小500以上の小国が存在し、エルフやドワーフ、人族からミゼットと様々な種族が暮らしていた北の大地。


 魔物に脅かされていない限られた土地を奪い合い、長き戦乱の時代が続いた血に濡れた土地。


 それが300年ほど前に現れた人族の青年、後のハイドラ帝国初代皇帝アルフォンス・ドラグニルによって複数の人族の氏族が併合され、北方地方を統べる大帝国への足掛かりを作ったとされている。



 ハイドラ帝国“首都ディフォン”


 帝国を支えるドワーフの技能者集団ドヴェルグによって設計された都市は、現在この世界で利用される最高水準の技術が惜しみなく使われた西方大陸最大の都市だ。

  

「ふぅ……」


 薄暗い部屋に、豪華な調度品が並ぶ応接室。高級感のある革張りの椅子に深く腰を掛け、ひどく疲れた様子の老人が溜め息を吐く姿があった。


 年の頃を言えば60はとうに過ぎているだろう。


 一般的に言えば老人といって差し支えない年代。


 くすんだような短い金髪に、碧眼と衰えた白い肌。帝国では一般的に広く見かける典型的な北方系人族の特徴である。


 静寂に包まれた部屋へ扉を打ち鳴らす音が響いた。


 その音に反応し老人の背筋は自然と伸びる思いがした。緊張からか喉の渇きが増し思わず唾を飲み込む。


 部屋に訪れたのは侍従の男だ。


 

 それから更にしばしの時を待つことになる。傍らに侍従も待機している手前、懐に忍ばせてある懐中時計で時間を確認するような無粋な真似はしない。しかし、時の感覚が失われるほどの長い時間待ったような気がする。


 主を待つのも配下の仕事の1つだという自覚はあった。


 自分もこの地位に就いて長いときを過ごした。こういった緊張感に晒されるのも、今に始まったことではないと再び肺の中の空気を重く吐き出すのだった。



 侍従が主の到来を知らせる。


 それに合わせて、老人は立ち上がり主を迎え入れるべく姿勢を正した。


「待たせたようだな」


 扉が開き、重厚な声が部屋に響いた。


 獅子のたてがみの如き豊かな赤髪。整えられた豊かな顎髭。炎を宿したような深紅の瞳。


 40を過ぎてなお、力強く雄々しく生命力に溢れた肉体。 

  

 ハイドラ帝国の統治者、皇帝アルヴィス・ドラグニルがそこにいた。



「いえ、滅相もありません。お忙しい中、時間を割いていただき恐縮致します」


 老人が畏まった様子で、深々と頭を下げる。

   

「良い。許す。それよりもお前自ら報告に来たのだ、実りある話だと期待して良いのだろうな」


 その獰猛な笑みに老人は思わず息を飲む思いがした。


 


「ほう。これが例の氷霊石か。なるほど、確かに冷気を感じるな」


 老人が革袋から取り出しテーブルに置いた青白い石を、アルヴィスは興味深く見つめ手をかざしてその感触を確かめた。


 青白い石からは僅かにオーラの如き魔力が立ち上っており、手をかざせば冷気を感じた。これそのものに、そういった力が宿っているのだ。


「魔石の1種ですが、これほどの物は世界を探してもそうはありません。今のところ確認されておりますのは氷獄島のみでございます。何より注目すべき点は、これが露天掘りで得られたものだということ。そして等級がC級だということです」


 瘴気が発生するような高濃度の魔素が滞留するような場所であれば、地表近くの地中にも魔石が生成される場合があるという。


 だが一般的にはF、E級がほとんどでD級ともなると数年に一度見つかるかどうかの割合となる。


 C級が発見された。といったような話になると酒場の噂話ていどでしか聞くことは無い。


「霊石は魔石の上位種だという話だったな?それのC級が露天掘りか」


「はい。これは異常なことでございます」


 魔石に精霊が宿ったものとも噂される霊石は極めて貴重な素材の1つである。


 高濃度の魔素が存在する領域で発見されることもあるが、その発見される数は魔石のそれよりも圧倒的に少ない。一般的には不純物の混じった魔力の結晶が魔石といわれ、より純粋な魔力の結晶。そして何らかの属性の力が宿ったものが霊石とされている。


「露天掘りであれば1つの場所で効率的に大量の霊石が手に入る可能性があります。それは魔物から得られる量とは比較にならないほどでございます。この氷の魔力を宿した氷霊石があれば、以前より問題となっておりました冷却装置の実用化の目途が立ちます。そうなれば魔導炉の改良が可能になりますし、火竜砲の実戦配備も時間の問題になるでしょう。魔導船の完成もあと僅かとなります」


「だが問題もあるのだろう?」


「はい。氷獄島の八割は年中溶けない氷で覆われた氷の島。島の周辺海域も島から崩れ落ちた氷塊が浮かび、並みの船では近づくこともできません。さらに言えば島の周辺にはリンドヴルムの繁殖地があります。島に上陸するだけでも難関でございます。ですが一番の問題は島の住人です。我が影を20名ほど調査に送り込みましたが、生還したのは1名でした」


「お前の精鋭20名でもか。だがそうなると、氷霊石を手に入れるのも簡単ではないか」


 そういうとアルヴィスは髭を撫でながら表情を曇らせた。

 



「なるほどな。その案が可能であるなら氷獄島までの侵入も可能ということか」


「猶予は海神祭までとしております。すでに女帝を送り込みました。帝国に存在するS級冒険者4名のうちの1人。北の海域を守護する彼女に敵うものはおりますまい。もしも女王が首を振ることがあれば実力行使に移る様に言っております」


「ヴァーミリオン紅国の遺児か。あのじゃじゃ馬が、そう簡単に言うことを聞くのか?」


「彼女にも目的があります。それを手に入れるまで、そうそう我が国との縁を切ろうとは思わぬかと。ですが1つ懸念もあります。竜泉郷の十二天将の一人がミスラ島に潜り込んでいるとの報告が」


 遥か東の果てに存在するという竜人族の里、竜泉郷。


 その中でも特別な使命を与えられ諸国を放浪する英雄クラスの実力者が十二天将と呼ばれる者たちである。


 使命というのが世界に存在するある特別な魔物の討伐だとされており、遥か古の時代より竜泉郷との盟約によって多くの国々は十二天将の入国に関して限りなく自由を与えている。


 もちろん見返りもあった。例外なく実力者である十二天将をいくらかの制限はあるものの、各国の代表者は自国の利益のために利用してよいという盟約である。


「放っておけ。盟約とはいってもあれは毒にも薬にもならん。所詮はうわべだけのものよ。あれが国同士のいざこざに首を突っ込むとは思えん」


 とはいえ最低限の監視は必要だろう。場合によっては余計な知恵を与えられて面倒が増える。

 

「ミューズの拠点化の話はお前に引き続き任せる。我が国民のため、ひいては人類全体のために頼むぞ」


「ははっ。必ず魔導船を完成させます。世界の制海権を帝国の物に。魔物に脅かされない平和な世界を約束する為に」


お読みいただき、ありがとうございます!

ブクマ、評価よろしくお願いします(=゜ω゜)ノ

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