第175話 フィッシャーマンズ・パーク6
中央の人物がフードを外すと、そこには若い女の顔があった。白い肌に整った顔立ち。切れ長の瞳に長いまつ毛。長く伸びた桃色の髪。
ドレスのような革製の鎧。胸元は大きく開かれていて、豊かな白い谷間が顔を覗かせている。
ロゼリア・ミッドナイト 女帝Lv63 精霊使いLv58
特性:吸血 魅了 変化 幻夢
人族 116歳 女性
スキル:闇魔術A級
氷魔術B級
土魔術B級
鞭術S級
隠密D級
軽業C級
体術D級
平衡C級
空間認知C級
状態:吸血鬼化
女が白い指を操る様に動かすとまるで赤紐自体が意思を持つかのように動き、吊るされたレイドが彼女の眼前まで引き釣り出された。
「あががががっ――、ぐおふっ。……おっ、お嬢?な、何で?」
「何で?じゃないわ。戯け者め。しばらく大人しくしとれ」
女が睨みつけると、レイドは意識を失ったようだ。それに合わせ絞められた紐から解放された。
神器、精霊使い、吸血鬼化。どうしよう、突っ込みどころが満載だ。
やり取りを見る限り、彼女は帝国側の人間だろう。友好的な人物かどうかわからないが、できればこんな化物と揉めるのは勘弁したいところだ。
「ん?」
一瞬で伸びた赤紐が、俺の足元に辿り着く。それが生き物のように足に絡みつくと、されるがままに引き倒された。
「おおッ!?」
抵抗できない強力な拘束力。素早く鞄からムーンソードを取り出して斬り付けるが、刃が弾かれる。神器。それが並みの柔軟性と耐久性を備えた物でないことは明らかだった。
倒された俺は、そのまま紐に無造作に引きずり込まれる。
「ジン様!」
「兄様!」
「ジンさん!」
武器を取り出し身構える彼女たちに危機感を覚える。
「ジン様に何をする!」
「ちょッ――」
ちょっと待て、まだことを構えるには早い。この攻撃には殺意がない。そう伝えるよりも先にリザの風球が、シアンのショックボルトが、ロゼリアに向かって放たれた。
だが、2人の攻撃が女に届くことは無かった。
ロゼリアに近づくとボルトは空中で制止し、風球は弾かれたのだ。
氷盾
一瞬のうちに空中に展開された薄氷の膜が、ボルトを止め風球を弾いたのだ。
「ッ!!」
いくら攻撃力の低い風球だとしても、牽制のために抑えた攻撃だったとしても、あのように薄い防御壁で弾かれたことにリザは驚きを隠せないでいた。
「チッ。……雑魚は黙ってろ。邪魔だ」
小さく舌打ちをしたのはロゼリアの隣にいる人物のようだ。認識阻害の装備が効いているので、男女の区別さえつかない。だが、そのただの言葉にさえ強力な冷気が宿っているかのように感じた。
冷たく重い強力な魔力を感じる。その圧力に流石のリザも押し黙った。
間違いなく強力な戦闘力を保有する強者の圧力がある。
「リザ落ち着け!」
呼びかけながらも、俺はされるがままに引きずられていく。
そうしてあっという間に、女の前まで引きずり出された。
「どうだ?見えたかな?」
床に転がる俺を覗き込むように、ロゼリアが呟いた。
「なにを――」
「惚けなくても良い。それほどの熱視線を向けられては、誰だって否応なしに気付くだろう」
そういうロゼリアの顔が近い。何か良い香りがするし。
それにしても近くで見ると相当な美人だ。全てのものが自分に跪いて当然という、絶対的な自信が表情に現れていた。
桜色の大きな瞳が、こちらを覗き込んでくる。その様子に思わず見惚れてしまう。
いやいや、見惚れてどうする。そうだ、アルドラはどうした。彼のことを思い出し視線を泳がせると、少し離れた場所で魔剣を肩に担いだまま、停止していた。
フリーズだ。完全に止まっている。なんだあれ、何があった?
「心配するな。ほんの少しの間、幻夢を見せているだけだ。すぐに解ける」
何処からともなく飛来した巨大な黒いフクロウが、アルドラの頭に止まった。
金色の大きな目玉をギョロリと動かし、此方へ威嚇するような視線を送ってくる。
それに反応するかのように雷精霊の腕輪から、精霊ジンが姿を現す。
幼女の姿で顕現した彼女は、無言のままフクロウと対峙している。
フクロウが巨大な翼を大きく広げると、精霊ジンはカンフーのようなスタイルで挑発に応じた。何してんのお前ら?
「ふくくく。そうか、なるほどな。面白い。気に入ったぞ」
笑いを堪えるが、堪えきれずに含み笑いする。そんな様子は普通の少女に見えた。
「自己紹介がまだだったな。わらわはロゼリア。凶鮫旅団の頭目である。覚えておくが良い」
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