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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第170話 フィッシャーマンズ・パーク1

 スナさん達と別れミューズ市場を抜けると、飲食店の並ぶ歓楽街のような場所に入った。


 何処かで食事をと考えた俺は、地元民である彼女にお勧めの店を訪ねた。


「兄様、ここじゃないですか?」


 人混みを抜けると目的の場所を発見した。


 木造の大きな建物で大きな魚の看板が非常に目立つ。なんでも海人族の漁師たちが経営している店なのだという。


 テラス席が多く用意され店の正面入口を挟んで右側は冒険者風の男たちが、左側は地元の海人族の男たちが座っていた。


 島では地元民も通う1番人気の店らしいが、話に聞く通り冒険者との間には溝があるようだ。


 外に用意された席は満席のようなので、接客していた店員らしき海人族の女性に声を掛けて店内へと案内してもらうことにした。


「店内もすごい賑わいですね」


 リザは視線を避けるため深く被っていたフードを僅かに持ち上げ店内の様子を探った。 


 店は木板が敷き詰められ、高い天井には何本もの梁が伸びている。吊るされたランプが店内を柔らかい光で照らしていた。


 中央には円形の舞台が設置され、ギターとも三味線ともつかないような独特の弦楽器が数人の海人族に演奏されている。


 雰囲気の良い心地よい曲だった。


 何百人も入れるような巨大なホールで今も多くの人で賑わっているが、彼らの音楽が聞こえてくるくらいには喧騒が抑えられているようだ。


「こちらへどうぞ」


「ありがとう」


 店内でも舞台を中心に、冒険者側と島民とで離されているようだな。


 もちろん案内されたのは冒険者側の席だ。

 


「港町だからな。きっと旨い魚が食えるだろう」


 クオンさんの話では、この世界にも米や味噌が存在しているらしい。


 しかし彼の故郷というのが遠い場所にあり、故郷を旅立ってから他の土地では米の存在を確認できなかったそうだ。


 もちろん日本人としては、米があるとわかれば恋しい気持ちになるのは当然のことだった。


 無いと思ってたものが、この世界でも存在する。嬉しい話ではあるが、彼の話を聞く限りあまり普及しているようなものでもないらしい。


 とはいえ、あるとわかっただけでも僥倖だった。彼が世界の全てを旅してきたわけでもないだろうし、どこかにあるとわかっただけでも希望が持てる。


 風呂もそうだが、米も日本人には無くてはならないものだからな。いずれ彼の故郷とやらにも訪れてみたいものだ。


 

「おお、凄い。久しぶりの海の幸だ」


 テーブルに運ばれてきた料理の数々に感嘆の声を上げる。


「うむ。酒も豊富なようだし、良い店じゃのう」


 店で出されているのは帝国人向けの蒸留酒や麦酒に、島の特産である海人族の海酒だ。これは日本酒にも似た風味が特徴で、氏族ごとに味や風味がことなるので比べてみるのも面白い。


「この海老というのは初めて食べましたが、身が甘くて美味しいですね」


 料理の多くは素材を活かしたようなものばかりだった。


 近海で取れたものを茹でるか焼くかしたものだ。だがそれが非常によく、どれもが美味だった。


 海酒にもよく合うのでアルドラにも好評だ。子供の姿で陶器の壺から酒坏に注ぐ姿は何とも如何しがたいものがあるのだが、状況を考えると致し方ないだろう。


「兄様、この蟹というのも凄い美味しいです」


「どれもお酒に合いますねぇ。ちょっと飲みすぎてしまいそうです」


 海産物は食べ慣れていないようだけど、女性たちにも好評なようで良かった。


 ベイルとは食文化もだいぶ違うだろうと予想してたが、どうやら懸念が1つ払拭されたようだ。


 来る途中に見かけた飛魚も、刺し身や塩焼き唐揚げの姿になってテーブルに並んでいる。


「ああ、旨い。焼き魚くらいは予想していたけど、刺し身が食えるとは思っていなかった。酒にもあうし最高だな」


 俺がしみじみと喜ぶ姿に、隣に並んで座っているリザの顔がほころぶ。


 思わず高揚したところを見られて少し恥ずかしい。


「ジン様が喜ぶ姿を見られるのは、私も嬉しいです」


「久しぶりの故郷の味だからかな。思わず懐かしんでしまったよ」


 酒が進む俺たちを他所に、シアンが微妙な表情をさせて小皿を覗き込んでいる。


「シアンどうかしたか?」


「うーん?何でしょうこれ。変な臭がします」


 彼女から皿を受け取ってみると、見た目と匂いから発酵食品だとわかった。


 材料は魚と何かを混ぜて作っているらしい。魔眼で確認しても異常は見られないし、不快な臭気は感じられない。


 たぶん塩辛のようなものなのだろう。魚を材料にしているところを見ると、北海道の切込みのようなものかもしれない。


 指先につけて舐めてみる。


「兄様、大丈夫ですか?」


 コクのある深い味わいに仄かな優しい甘み。魚の旨味が生きている。


 塩がキツイのは保存食だからだろう。冷蔵庫のない世界なので、長期保存を考えると保存食には塩分を強めに添加する必要があるのだ。


「すげー旨い。白い米が欲しくなるな。塩が強いから酒にも合いそうだ」


 シアンは予想していなかった俺の答えに好奇心を刺激されたのか、おそるおそる真似して口に運んだ。


「ん~。変わった味だけど、美味しいです。でもちょっと塩辛いですね」


「この旨さがわかるとはシアンも案外、酒飲みかもしれんな」

お読みいただき、ありがとうございます!

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