第169話 食客の竜剣士
「ここに居られましたか!ずいぶんと探しましたぞ」
「探しましたぞ。じゃないですよ、もう!あっちフラフラこっちフラフラって、クオンさんはすぐ居なくなるんですから」
小柄なメイドさんが大男を見上げて声を張り上げた。
「おや、そうでしたかな?面目ない。何やら街全体が賑わっているようで、少々浮かれておったようです。ほれ、この通り」
男は両手に持っていた品物の1つを、メイドさんに差し出した。
「なんですかコレ?」
「シーワームの塩炒めです。なかなかの美味ですぞ。いかがですか?」
「結構です!」
行き交う誰とも類似していない特徴的な服装。どこかで見覚えがあると思ったら竜衣に似ているのだ。厚手の羽織を着込んでいるが、中に着ているのは似た様なものだろう。
身長は2メートルをゆうに超え、褐色の肌に灰色の長い髪を紐で乱暴に結っている。
少し尖った耳の上部。その髪の間から伸びるのは黒角。
そして特徴的な縦に伸びた瞳孔。
海人族や小人族に続いて、俺が初めて目にする種族。竜人族の男が目の前にいた。
クオン 竜剣士Lv59
竜人族 43歳 男性
特性:竜眼 竜鱗
スキル:体術B級
剣術S級
闘気B級
火魔術F級
レベルはかなり高いな。
スキル構成もバリバリの戦闘系のようだ。
温和な態度と、のほほんとした語り口から鑑定を持っていない者なら騙されそうだが、内包された実力は隠しきれない。
俺は魔眼で、アルドラは直感で彼の実力を察知している。
アルドラに耳打ちして彼の戦闘力はどの程度なのかと聞いてみた。
もちろん自分と比べてどうかということだ。
レベルやスキルで言えばアルドラが劣っているとは思えない。だが彼の見解は「今の状態では奴のが上じゃろうなぁ」ということだった。
特に男が腰に差している得物。見たところ大振りな刀のように見えるが、どうやらS級の品のようだ。
魔眼で見せて貰いたい所だが、初対面の剣士に刀貸してなんてことは流石に言えないよな……
メイドさんはクオンさんに、俺たちに世話になったことを話すと彼は低姿勢に頭を下げた。
「護衛なら側に居てあげたほうが良いと思いますよ」
「やや、御もっともです。かたじけない」
お詫びの品にとシーワームの塩炒め(食いかけ)を差し出されたが、丁重にお断りしておいた。
俺の後ろで控えているリザの反応を見るかぎり、多少残念な雰囲気はあるがどうやら悪い人ではなさそうだ。
彼はメイドさんが仕える主の所で、縁があり世話になっている食客という存在らしい。
屋敷の客人としてもてなされ、滞在の許可を与えられているのだとか。
その見返りとして実力を買われ、用心棒のようなことをしているようだ。
「数週間ほど前に、この島の浜辺に流れ着きまして。それから世話になっておるのです」
「流れ着いて?」
「ええ。船でこの島に向かってはおったのですが、船酔いで海に向かって吐いていましたら、波に揺られてそのまま海へ。いやぁ、死ぬかと思いました」
「よく無事にたどり着けましたね」
「まったくです。幸運でありました」
クオンさんの話を聞いていると、どうも彼が住んでいた竜人族の故郷には日本文化と思えるものが伝わっているらしく、米を主食に醤油や味噌などもあるらしい。
この島を目指してきたのも、遠い故郷を懐かしみ、醤油に似た調味料の魚醤があるという噂を聞きつけてのことだった。
「これで米があれば最高なのですが。そう都合良くは行きませんな」
俺の故郷にも竜人族と似た文化があるという話を伝えると、彼とはすぐに意気投合できた。
ゆっくり酒でも飲みながら竜人族の話を聞いてみたい所だが、彼らはそろそろ戻らなければ為らない時間のようだ。
「カシマ様。ありがとうございました。滞在中にもし困ったことがあったら、屋敷へお尋ね下さい。私では大した力には慣れませんが、私の主はお優しい方ですので助力出来ることがあるかもしれません」
メイドさんは自分が仕える主人に今回の事を報告するので、そうなれば俺の方に謝礼が送られるかもという話になった。
しかし正直そこまで大したことはしていない。命を救ったとかなら謝礼も吝かではないが、礼を期待してのことではないので丁重にお断りしておいた。
「不躾な質問ですが、スナさんが使えている方っていうのは偉い方なんですか?」
「そうですね……先代女王様の旦那様なので偉い方だと思いますよ」
海人族というのは女が政治を仕切り、男が軍部を仕切るように分かれているらしい。
しかしあくまで女王が統治者であり、権力は実質女王に集約されている。軍部というのも兵力2、300人程度の町の自警団レベルといった程度のものなのだ。
軍部のトップとはいっても、発言力はそれほど強くはないという。
引退している方だというし、女王に許可を申請している状態で滞在許可をその人にお願いしても難しいか。
「カシマ殿、近いうちにまた」
「ええ。楽しみにしておきます」
クオンさんが酒を飲む仕草を見せ、そうして再開の約束を交わした。
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