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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第168話 無頼

「やめて下さい!返して!」


 市場の外れ。視線の先、人通りの少ない路地裏から女性の悲痛な声が聞こえてきた。


「おお、スゲェ。金貨かよ。姉ちゃん景気いいな。俺らにも恵んでくれよ」


 海人族の女性たちに数人の人族の男たちが絡んでいる。


「俺たち今日の昼飯代も無くてよぉ、困ってたのよ。ちょいとばかし恵んでくれると助かるんだけどなー」


「うひひ。金ないのは博打に全部つぎ込んだからだけどな」


 男たちから、どっと大きな笑い声が上がった。


 どうやら何かを女性から取り上げたらしい。財布か何か。


「それは私のお金じゃないのよ。無くすととっても困るの。お願いだから返して頂戴」


 女性は懇願するが、男たちは誂うようにして逸らかす。


 そしてしばらくすると、どうやら女性を無視して置き去りにし立ち去るようだ。


 男たちがこちらの方へと歩いてくる。



「やれやれ、困った小僧どもじゃのう」


 アルドラは溜め息を吐きながら、手のひらを天に向ける。


 時空魔術により異空間に収められた魔剣を取り出そうというのだ。


「ちょっと待て。揉め事は起こすなって言われただろ?」


 俺は慌ててアルドラの腕を掴み、その行動を静止させた。


「なんじゃ、放っておけと言うのか?」


 俺の言葉にアルドラ僅かに落胆した様子を見せる。


 リザやシアンの表情にも不安の色が浮かんだ。


「あれ、たぶん帝国冒険者って奴らだろ?騒ぎを起こすと面倒になる」


 とはいえ俺も困ってる女性を放置しようとは思っていない。


 要は騒ぎを起こさなければ良いのだ。


 隠蔽 隠密 窃盗


 幸い彼らのレベルは高くない。


 警戒している様子もないし、簡単な仕事だろう。




「ありがとうございます。助かりました」


「いえいえ。偶然通りかがっただけですから」


 男たちに奪われた財布は俺の窃盗スキルで奪い返した。


 窃盗は相手に気づかれずに物を掠め取るスキルである。通常であれば人に使用するのは間違いなく犯罪行為であるのだが、こういった状況ではやむなしであろう。


「ごめんなさい。何かお礼をしなければとは思うのですが、どうしましょう……このお金は預かっているものなので、お渡しするわけには……」


「大丈夫ですよ。お気になさらずに」

 

 スナ・ミスラ 侍女Lv23

 海人族 23歳 女性

 特性:流動 皮膚感知

 スキル:礼節E級

     清掃D級

     水魔術C級

     光魔術E級


 青い肌に白い髪。水晶をはめ込んだような特徴的な瞳。


 そしてスレンダーな体を包んでいるのは、俗に言うメイド服とも呼ばれる侍女服であった。


 コスプレのようなミニスカスタイルではなくロングスカートの本格的な奴だ。


 その侍女に隠れるように背後に立つ、もうひとりの人物。


 状態:認識阻害


 高級そうなレース生地のフェイスベール。


 上品な純白のローブ。


 身に付けている品から、その人物が特別な存在なのだと想像できる。


 フルール・ミスラ 巫女Lv36

 海人族 15歳 女性

 特性:流動 皮膚感知

 スキル:槍術C級

     歌唱E級

     舞踏D級

     氷魔術C級

     水魔術D級

     魔力操作F級


 装備の質が悪いのか、認識阻害を魔眼が突破したようだ。


 顔はベールで隠されているが、おそらく美人のような気がする。目が合うと軽く会釈で挨拶された。どうやらベールを取るきはないようなので、こちらも会釈で返した。


 侍女もそうだけど、巫女も初めて見る職業だな。


「姫様、ここは私に任せて下さい」


 メイドさんは此方に聞こえないよう小声で背後の女性に声を掛けた。彼女はその指示に小さく頷く。


 まぁ、聞こえてるんだけど。


「あ、この人は……私の友達です!」


 俺の訝しげな視線を感じたのかメイドさんが慌てて説明する。


 うん。メイドさん嘘が下手だな。彼女の装備は明らかに高級品。友達、というには違和感がありすぎる。

 

 本当に友達の可能性もあるけど何か訳ありのようだ。


「そうですか」


 俺は空気を読んで、その辺りは深く突っ込まないことにした。


 


「それにしても、何処の国にもああいった輩はいるもんじゃのう」


「そうですね。でも冒険者なんて、皆あんなものではないのでしょうか。特にこの辺りで彷徨いている輩には、碌なのが居ないというのは間違いありませんけど」


 メイドさんは冒険者に好意的な印象は無いらしい。まぁ、当然だろうけど。


 俺たちの微妙な表情に気がついたのかメイドさんは慌てて訂正した。


「あ、あの、もしかして皆さんも冒険者の方でしたか?すいません私ったら……冒険者の方にも、あなた方のような良い人もいるのですね」


「いえ、気にしてませんから大丈夫ですよ。あんなのばかりじゃ、そういう意見になるのも仕方ないですよね」


 慌てるメイドさんに苦笑して返す。


「ここに滞在している凶鮫旅団シャークブリゲイドというクランの悪名が特に高いので……申し訳ありません」


 帝国には冒険者が多数集まった組織、クランというものがある。


 1人では狩れない獲物も数人で、というのは王国でもパーティーという存在がある。


 だが帝国の規模はそれよりもずっと大きなもので、数十人、時に数百人という規模で活動する団体が存在するのだ。


「凶鮫旅団ですか。頭悪そうな名前ですね……」


「ふふふ。旅団の名前を聞いて、そういったご意見を聞けたのは初めてですわ。彼らの事をご存じないのですね。ということは帝国の方では無いということですか。あなた方なら大丈夫そうですが、お気をつけ下さい。あれは大半が犯罪者といったような集団なのです」


 凶鮫旅団は総員5000人以上とも言われる帝国最大規模のクランなのだという。


 彼らは戦闘員を増やすために、暴力行為の得意な者を積極的に雇用し、犯罪歴、借金の有無など経歴問わず幅広く受け入れている。


 そういったこともあってか、帝国各地のゴロツキが旅団の元へと集まってくるのだ。



「それにしても、そういった輩がいる場所に女性だけで買い物というのは危険じゃないですかね」


 今まで歩いてきてメイド服の女性を見かけたのはこの人だけだ。道行く多くの人は薄着の軽装である。その中にいれば、どうしたって目立つだろう。


「あ、いえ。護衛の方が一緒に来てくれたのですが、はぐれてしまって……」


「ああ、なるほど。でも、それって護衛の意味ないですね」


 うっかり本音をこぼすとメイドさんは大きく頷いた。


「ええ、まったく本当にその通りですわ。はぁ、一体どこで油を売っているのやら」


 彼女は疲れた表情を見せて、苛立ち混じりに盛大に溜め息を吐いた。なにか不満が溜まっているのかもしれない。


 そうこうしていると、市場のほうからメイドさんへと呼びかける声が聞こえてきた。


「スナどのー、何処にいったでござるかぁー?返事をしてくだされー、拙者はここでござるぅー」


 間延びした声を上げながら、やたら大柄な男がこちらへ歩いてくるのがわかった。

 

お読みいただき、ありがとうございます!

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