第17話 旅立ち1
「ほんと魔術って超便利だな」
「ありがとうございます。確かに便利ですが、修得は時間もかかりますし、使える人も限られますから」
リザの水魔術で装備を洗浄し、風魔術で乾燥して貰った。
広場に散乱してあったインプの骸は、既に村の外にある谷底へ落とし処分している。
リザの風魔術、浮遊を使いつつ、廃屋に放置してあった荷車で往復して運んだ。
後は森に住む魔物が勝手に処分してくれるので、放置しておいて大丈夫らしい。
「あの鎧はどうする?かなり破損してるようだけど」
「あれは、ここに放置して行きます。着ていくのは無理でしょうし、手で運ぶのも大変ですから」
例の金属鎧はやはり魔装具だったようだ。
特別な合金製で知り合いに製作してもらったらしい。
装備者の体型や声色を変化させる能力があるのだとか。
もちろん金属鎧だけあって防御力も高い。
現在は装着不可能なほど、損傷が激しいため教会内に放置されている。
「そういえば魔晶石って何かわかる?魔石とは違うようだけど」
スキルが内包されていた事を考えると、似たような物かもしれないが、魔石は石炭のような黒い石で、魔晶石はまるで水晶のようである。
「えぇ?これは何処で?」
魔晶石を見たリザは、驚きを隠せないでいた。
俺はこれがアルドラさんが残した形見だと伝えた。
「なるほど。大叔父様なら持っていても、おかしくありませんね。これは迷宮の最下層や魔境の果て、冒険者であっても簡単には到達できないような場所で得られる貴重な素材だと聞いたことがあります。私も見るのは初めてですが」
魔石は消耗品で使えば無くなる。
魔晶石は使っても無くならず、魔力を貯めこむ事が出来るという。
例えば魔晶石に魔力を100貯められるとすると、その魔力を用いて魔術を使用したりすることができる。
消費10の魔術なら10回使えるということだ。
使いきれば貯めてあった魔力は0になるが、自然に回復もするし、魔石を使ってチャージすることも、魔術師が自前の魔力でチャージすることも可能だという。
もしもの時のために、余裕のあるときに魔晶石に魔力をチャージしておいて、いざとなったら使うという事も可能らしい。
もちろん魔導具の材料としても使われ、希少性も高いことから、オークションでも非常に高額になるアイテムの1つだという。
「形見みたいなものだし、リザが持っておくか?」
「いいえ、それは大叔父様がジン様のために残したものでしょう。ジン様が持つべきものだと思います」
そう言ってくれると、ありがたい。
説明を聞いただけでも、かなりレアなアイテムなのは間違い無さそうだ。
「そっか、わかった。あとこれなんだけど……」
俺が取り出したのは血のように紅い石。
ウルバスを倒した際に砕けた体から血の様に紅い石を発見した。
鮮血ともいうべき鮮やかな血の赤色。
血石 素材 E級
「すいません、私にはわかりません。ベイルに魔石に詳しい人がいるので、そちらで聞いたほうがいいかもしれません」
「わかった、そうしよう」
俺はその不気味な紅い石を懐にしまいこんだ。
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ウルバスを倒した夜から2日経った。
俺の魔力はおよそ8割ほど回復していると思う。
ちなみに自分の魔力の量を探る技はリザに教えてもらったものだ。
普通は何ヶ月も掛かって体得する技術らしいが。
俺達は教会内にテントを張って寝ている。
特に不寝番は立てていない。
あの夜が嘘のように村は静かになった。
破壊された裏口は村内にあった丸太を使って封じてある。
リザの浮遊を使って移動させ、積み上げただけだが、何もしないよりはマシだろう。
ジン・カシマ 漂流者Lv13
人族 17歳 男性
スキルポイント 0/13
特性 魔眼
雷魔術 C級(雷撃 雷付与 雷連撃 雷刃旋風 雷双撃)
火魔術 F級(灯火 筋力強化)
土魔術(耐久強化)
闇魔術(魔力吸収 隠蔽)
体術
剣術
鞭術
闘気 F級
探知 F級(嗅覚 魔力)
これが現在の俺のステータスだ。
名前がいつの間にか、カナ表記に変化していた。何故だろう。
レベルがかなり上がっている。
あの夜の戦闘が効いてるようだ。。
ちなみにウルバスが残した魔石からは隠蔽が得られた。
魔人は人の魔物らしいが、魔石ではなく血石を残したというのは、普通の魔物ではない特別な存在なのだろうか?
「明日この寝床を片付けたら出発だな」
「はい、朝早くに出れば明るいうちに着くかと」
「その木材の集積所となってる村から、ベイルまでどのくらいで着くんだ?」
「3日もあれば、着くと思います。街道も整備されているので、うまくすれば荷運びの馬車に乗れるかもしれません」
バスやタクシーのような、交通機関はないのだろうか。
文化レベルがどの程度かはわからないが、中世くらいだとしても乗合馬車くらいあっても不思議ではないだろう。
「そうか、じゃあ今日は早めに寝るとするか。明日も早いしな」
「はい」
ともかく、やっと人のいるまともな街に行くことができる。
いまから楽しみでしかたないな。
まるで遠足前の子供の心境だ。
「……ところで、リザは平気なのか?」
「なにがですか?」
「俺も一応男なんで……」
テントは俺が1人用にと買ったものだが、荷物を中に入れなければ2人は普通に寝られる。
寝られるとは言っても、すぐ隣である。
ゼロ距離である。
意識しないはずがないのである。
「私は大叔父様にジン様の支えになるようにと、仰せつかりました。ジン様が望むなら、私はそれにお応えします」
それってアルドラさんに言われたから、やってるってことだよな。
まぁそれもそうか。
俺に対しては好きも嫌いもないのだ。
それにしても、よくよく見れば目の覚めるような美少女である。
160センチくらいの身長に翡翠のような輝く髪と瞳を持ち、雪のように白い肌をしている。
幼さの残る整った顔立ちに、俺よりも少し長い尖った耳。
そして寝ていても立派にその存在を主張する、2つの霊峰。
まさに人類の神秘、人類の宝といえよう。
「ジン様、ジロジロ見すぎですよ……」
「あ、ごめん」
「べつにいいですけど」
いいのかよ。
「よし寝よう。寝てしまおう」
「……はい」
俺は邪念を払うため、自分に必至に言い聞かせた。