第165話 交渉
俺には猟兵の外套、女性たちはミスティコートに認識阻害の魔術効果が付与してある。
フードを被り口元を隠しておけば効力を発揮するので、そう荒事に巻き込まれることもないだろう。
アルドラはデカくて否応なしに目立つので子供形態で移動してもらう。
この島は北と南で住み分けられていて、北のエリアは海人ミスラ氏族の中でも統治者の女王と、その血縁者が住む領域となっている。
基本的にミスラ族であっても部外者は立入禁止で、特に海人族以外の者が許可なく侵入すると、かなり大事になるそうなので注意するよう釘を刺された。
南のエリアは一般のミスラ族、主に漁師たちが住むエリア。
南の湾内にあるミューズは、外国から来る商人が滞在する漁村だったのが、いつしか都市にまで発展した。
ミューズは帝国式の名称で、帝国の商人が勝手につけたらしい。何でも海の女神の名前なのだとか。
平坦な土地が少なく、一部の居住区(高床式)は満潮時に地面が海に浸かるので、海上都市と言われるようになったのだそうだ。
白い壁の四角い家。
島にある海人族の家は、似たような作りのものが多い。
海の底から採れる白い泥を壁に塗っているので、そういった色になるのだそうだ。
青い石畳の道を進む。
夜ではわからなかったが、濃い鮮やかな色合で白い家との対比が美しい。
海辺では海人族の漁師なのか、若い男たちが仕事に汗を流している。小さな子供も仕事を手伝っているのか、もしくはただ遊んでいるのか忙しなく動き回っていた。
海人族の者たちは誰もがシダと似たような青色の肌をしている。微妙に違いはあるものの、青い肌は海人族共通の特徴のようだ。
海岸線沿いの道を進むと、小舟が数多く停泊している。
帝国の巨大な船では、接岸することが出来ないようなので、少し離れた位置で停泊し小舟で上陸するもののようだ。
近くには見張りをしている帝国冒険者らしきものの姿も見えた。
身につけているのは、ふんどし一枚で抜き身の長剣を肩に乗せ座っている。
危なそうな奴なので視線を合わせないようにそっと通り過ぎた。
「こうして歩いていると、本当に別の国に来たんだって実感しますね」
リザが海を見ながら、ぽつりと呟く。
「そうだな。あの転移魔法陣が自由に使えるなら、また気軽に来れるんだけど」
「ふふふ。そうですね」
白い四角い家が並んでいた区域を離れ、やがて木造の巨大倉庫が立ち並ぶ区域に入った。
この辺りは貿易で取り扱う商品を一時的に保管しておくための管理倉庫らしい。
倉庫の他にも港の管理施設や、このあたりで働く人達向けの酒場や商店が確認できた。
人が多く出入りする大きな店があったので、興味本位で中の様子を伺ってみる。
倉庫を改装した店なのか、店舗にしてはかなり大きい。
何でも屋とでも言えるような多種多様な品揃えだ。ベイルでは見かけない珍しいものも多いので、見ているだけでも楽しめた。
「ちょっと聞きたいんだけど」
「いらっしゃい。何か気になる商品でもあったかい?」
「ああ、果実酒の売却をしたいんだが、この島で受け付けてくれるとこなんて無いかな?」
店主と思われる海人族の男に話を持ちかけた。
俺の背後にはリザとミラさんが待機している。
直接口を挟まないが相手の嘘を見抜けるので、もし交渉の際に意図して騙そうとすれば直ぐにわかる。
「うーん。果実酒か……。確かに良い品みたいだけど、正直、海人族にはあまり好まれないだろうな」
海人族は独自の酒造文化があり、歴史の古い海酒というものがある。
海人族の料理は海産物を塩で焼くか、塩で煮るのがほとんど。
海酒はそういった料理に良く合う、スッキリとした飲みくちが特徴の酒だ。
重たい飲みくちの果実酒は飲み慣れないだろうし、海人族の口には合わないかもしれない。
「うちで買い取れるのは1本、金貨15枚。最大でも3本までだな」
商売を考えると海人族に売るには高すぎるし、よっぽどのモノ好き以外には売れないだろう。
帝国冒険者なら果実酒も飲むだろうが、彼らとて酒1瓶に金貨15枚を出せるほど裕福ではないと思われる。
つまり果実酒の輸出は失敗だったということか……
「そうですか……わかりました。とりあえず買えるだけお願いできますか?」
「ああ、いいよ。……っと、そうだ。うちの取引相手に、帝国の商人さんがいるんだけど、もしかしたらその人なら買ってくれるかもな。ガレオン船を3隻も所有している大商人様で、けっこう手広く商売してるみたいだしよ」
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