第162話 決闘
「どうしてこうなった……」
思わぬ事態に一人ごちる。
本部となっている館を出て中庭へとやってきた。
周囲には観客となった調査隊の面々が並ぶ。
「ごちゃごちゃ言ってるんじゃねぇ!男なら実力で俺を黙らせてみろ!男と男の勝負だッ!」
レドと呼ばれた若い男が興奮した様子で吠えた。
「うむ。そうだな。そうだ。仕方あるまい。皆を納得させるためにも、君の実力を示すのが手っ取り早いという結論だ」
シフォンは頷き、そう断言した。
「いや、これから一緒に仕事する仲間なのに、こんな事で争っていては支障を来すのでは……」
「問題ない。隊員には治療術の使い手もいるので、存分にその実力を示してほしい。もし怪我をしても、完璧に治して見せよう」
シフォンは自信ありげに話すが、命に関わる大怪我はS級クラスの光魔術でなければ難しい。
魔眼で確認したところ光魔術を修得している者はいるが最高でB級。欠損部位の回復は望めない。
好ましくない男ではあるが、一応仲間である彼を大怪我させる訳にはいかない。さて、どうしたものか。
火球で焼き尽くす訳にも、雷撃で黒焦げにする訳にもいかないだろう。恐怖はトラウマになる可能性が高いので論外だ。
「拳で黙らせればよかろう」
アルドラが何でもない事だと答えた。
体術S級 軽業S級 闘気D級 奇襲F級
相手も俺の実力を測るための模擬戦。そういう考えでいるはずだ。アルドラは存分にやれと意気込んでいるが、あまり派手に暴れるのもどうかと思うので、様子を伺いつつ相手しよう。
ついでにまだ使ってない軽業の使用感でも試してみるか。
「どうした!かかってこないなら、こちらか行くぞ!」
レドが声高に叫ぶと、腰の剣を抜き天へと高く突き上げた。
「火付与!!」
剣に炎の魔力が宿る。
細身の剣に轟々と炎が巻きつき、風を受けて火の粉が舞い散った。
それと同時にレドの体からも炎が燃え上がる。剣と肉体へ同時に術を付与し、更に長時間維持するのは中々大変なのだ。
もしかしたら意外とやる奴なのかもしれない。
レド・バーニア 魔法剣士Lv38
人族 24歳 男性
スキル:火魔術C級
剣術C級
回避D級
警戒D級
耐性D級
レベルから見てもB級一歩手前か。攻撃と回避に偏ったアタッカータイプのようだな。
「ちッ、やる気がねぇなら、やる気が出るようにしてやろうかぁ!!」
火属性が得意だから、暑苦しいやつなのかな。
そんなことを考えてると、炎を纏ったレドが突進してくる。
魔術で作られた炎だが、近寄られると確かに熱い。
火付与って結構使えそうだな。ぜひ欲しいが人間の体内では魔石が生成されないので、彼から魔石を得ることは不可能だ。残念である。
「おっと、あぶない」
「くっそ!ちょこまかと!」
回避というのはどういうスキルなのだろう。
攻撃を回避しやすくなるらしいが、どういったものかイマイチわからない。自分で使ってみないと理解するのは難しいかもしれない。
軽業との違いも気になるところである。
まぁ、その軽業というのは、名称もそのままに魔力を注ぐことで身が軽くなるスキルのようだ。
等級を上げれば効力も上がるのだろう。今の俺は体が羽根のように軽い。軽く動いただげで、移動しすぎてしまうので慣れが必用なスキルだ。
通常であれば時間を掛けて修得するはずなので、このような問題になるのは俺くらいなものなのだろうが。
レドは警戒と回避を駆使しているのか、俺が放つ死角からの攻撃を危なげなく避けていく。
何気に凄い。とは言え、スキルの等級では俺が大きくリードしているのに、この結果というのは俺が力を使いこなしていない証拠でもあった。
それでも、しばらくレドの攻撃を近くで見ていれば攻撃の定型は見えてくる。
「うぐぁッ!?」
レドの斬撃を躱し鳩尾を狙って拳を放つ。一撃は人体の急所を深く抉り、俺は確かな手応えを感じた。
「嘘だろ!?D級野郎が……何でこんなにッ――」
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