第161話 調査隊
「なんすか!なんなんすか!ギルドからの応援がD級の冒険者で、女連れ!しかも、こんな美人だなんて!」
若い男が悲痛な叫び声を上げる。
「あー、わかった。わかった。そうだな。そうか。だが、ギルドが派遣してきた人材ということは、ゼストが認めた者だということだろう?君はその決定に不服があるということなのだな?」
少女のように小柄な男性は、革張りの椅子に深く腰掛け溜め息を吐きながらそれに答えた。
「うぐっ……いや、そういう意味では……」
自身の所属する組織の上役に反発する。その意味を考え、若い男は思わず口ごもる。
「やめとけレド。男の嫉妬はすげー見苦しいぞ?」
神経質そうな眼鏡の男が、若い男を窘めた。
「だってよキース、ハーフエルフだぞ?エルフ族は美人ばかりっつーのは有名な話だけどよ、こんないい女そうそういないぞ!しかも3人もだ!3人だぞ?こいつ1人で搾取してるんだ、男の敵なんだぞ!」
天を仰ぎながら男は答えた。まさに魂の叫びというやつだった。
「おっ、おっ、俺はミラさんがいい。お持ち帰りしたい……」
図体のでかい男が、どもりながら答えた。
その視線を離れた場所に座る彼女に送ると、瞬時に視線を反らされる。
おそらく危険を感じたのだろう。
「やめとけブルーノ。あの隣に立ってるデカいのタダものじゃないぞ。すげーこっち睨んでくるし」
ミラさんの傍にはアルドラが控えている。彼の素性を知らない者でも、その威圧感を肌に受ければ並みの者ではないことはわかるだろう。
「きっ、きっ、キースくんは、どの子がいいの……?」
視線を泳がせながら大男が問う。
「ふっ……俺はあの、ちいぱいだな。ちいぱいは正義だぜ?」
神経質そうな男が眼鏡の位置を整えながら応えた。そうしてシアンに目配せると、嫌悪感を感じたのか彼女は身震いしてリザの後ろに隠れるのだった。
レヴィア諸島。この付近の海底にはベイルに存在するような古代の遺跡が眠っている。
遺跡を調査研究するために、ベイルの魔術師ギルドから派遣された研究者8名。
そして護衛のために派遣された冒険者C級12名とB級3名。
それが、この遺跡調査隊の本部に在籍している人材の全てだ。
現在、仕事にあたっている者を除き、研究者6名。C級冒険者10名がこの場に会している。
研究者の1人でもあり、調査隊の代表を務めるのが前日に対応してくれたシフォンさんであった。
十分に休息をとった俺たちは、やってきた本部からの迎えに追従し、この本部のリビングルームで滞在者たちとの合流を果たしたというわけである。
どうも護衛部隊の若い隊員は派遣された俺のことが気に入らない様子だ。
特に露骨な態度を取っているのは冒険者C級の男。自分たちは船旅で長い時間かけてここまでやってきたのに、D級の俺が転移門を使ってやってきたことも納得していないらしい。
まぁ、途中から俺が連れている女性たちに気が移ったようだが、ともあれ弁明はしておこうか。
「彼女たちは冒険者ではありませんが、俺のパーティーメンバーです。ここにいるのは、仕事を補助してもらう仲間として連れてきました」
あまり納得していない様子だが、事実なので仕方がない。
隊員の若い男たちが色目を使っている様子もあるが、見るだけならまだしも仮に手を出そうものなら相応の覚悟をして貰わないとな。
アルドラが彼女たちの傍に立って、目を光らせているので下手なことをする様子はないし、女性たちも離れた位置にいるので別に問題はないのだが。
「遺跡は強力な魔物、即死級の罠、複雑な地形と簡単に足を踏み入れていい場所じゃねぇ。俺たちでさえ、長い時間をかけて少しづつ調査を進めてきたんだ。D級のやろうが1人来たところで、なんの役に立つって言うんだ。自分の身も守れるか怪しいもんだぜ。足手まといになるのが、せいぜいだろうよ」
リザは大人しくしているが、明からに怒気を孕んだオーラを発している。
悪態をつくレドを敵と認識しているようだ。
彼らからすれば階級的には格下なのだ。その対応も致し方がないといえば、そうなのだろう。
相手の実力を推し量るというのは難しいものなのだ。
その点、アルドラは存在感が凄くて、タダ者ではないというのが早くも伝わっているようなのだが。
「俺にできることがあれば、可能な限り協力しますよ。マスターからは、そういう手筈で依頼されてますので」
そういうものの、納得しない隊員たちにシフォンはある提案を持ち掛けた。
「そうだな。そうだ。そうしよう。ゼストが認める彼の実力に疑惑を感じているのなら、それを払拭すればよいだけの事」
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