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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第3章 氷壁の封印と生贄の姫巫女
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第160話 協力

 案内されたのは白い壁の大きな屋敷だった。


 本部から歩いて数分の距離にある建物で部屋数は十分にあるし、驚いたことに風呂も完備され広い庭まであるという高級別荘といった様相だ。


 これらはゼストを通じて島の代表者から貸し与えられているらしく、遠慮しなくても大丈夫とのことだった。


「そうだな、鍵は預けておこう。すぐに使えるようにしてくれているはずだが、何か必要な物があるなら遠慮無く言ってくれ。用意させよう」


「わかりました。ありがとうございます」


 シフォンと別れ用意された屋敷へと入る。


 広間に入るとテーブルや椅子が設置されていた。必要最低限の家具は用意されているらしく、そのまま生活できるように配慮されているようだ。


 それにしても広い家だ。ベイルの家と比べるのは申し訳ないが、部屋数から言っても倍はあるだろう。 


「見て回るのは、取り敢えず皆を休ませてからにしてはどうかのう?」


 ミラさんを抱きかかえたアルドラが、やれやれと言った様子で答えた。


「ああ、そうだった。悪い」


 部屋を確認したが、どの部屋にも寝台ベッドが用意されている。


 主寝室が2つに客室が4つか。


 ミラさんを適当な部屋に寝かせて、疲労の色が濃いリザやシアンにも今日は早く休むように促した。


「ジン様は休まれないのですか?」


「いや、俺も今日は休むよ。そのまえに屋敷と周辺を確認してからな」


 安全確認、と言うよりも単純に好奇心からだった。俺にとってはベイルもそうだが、見るもの全てが新鮮なのだ。


 まぁ、ここへ来てからは彼女たちも同様なのだろうが。



 俺は先に休むようにとリザに伝える。


 だが、そのやり取りへ割って入る様に服の袖を掴まれる感触。視線を落とした先にいたのはシアンだった。


「私は兄様と一緒がいいです」


 シアンは眠い目を擦りながら応えた。


 足元がおぼつかない様子で俺の体に身を寄せる。


「……そうだな。3人で寝ようか」


 シアンに甘えられては受け入れる以外に選択肢はないのだ。


「はい。そうしましょう」


 リザが笑顔で答える。


 主寝室の1つを俺たちが使う部屋にする事にした。寝台はキングサイズなのか、かなり大きい。客室のものより大きそうだ。


 3人で寝るのはちょっと狭いかもしれないが、シアンは小柄だし問題ないか。



「アルドラ、後は頼む」


 ベイル調査隊本部が直ぐそばにあり、街中ということもあって警戒度は低そうだが、事情のわからない初めての土地だ。用心に越したことはない。


「わかっておる。ゆっくり休むが良い」


 アルドラの魔力も十分に回復しているとはいえないが、今日のところは彼に不寝番を任せて休ませてもらう事にしよう。




>>>>>




「おはようございます、ジン様」

 

 朝起きると既に皆起きていて、それぞれに活動を開始していた。


 朝食はベイルから持ち込んだ物を、リザが調理してくれたものを頂いた。


 屋敷には調理場も備えてあるので、食料を買ってくれば自分たちで調理できそうだ。


「皆の姿が見えないようだけど……」


 ミラさんは時間的にたぶん寝ているのだろう。


 シアンは俺が起きた時にいなかったので、何処かに行ったのだろうか。


「シアンはネロを連れて朝の散歩に行きました。近くを偵察してくるそうです。アルドラ様も一緒です」


「そうか」


 シアンだけなら心配だが、アルドラが一緒なら問題ない。


 調査隊の連中と顔合わせをするのに、ここへ迎えが来る手筈になっている。


 まだ少し時間はあるだろうし、それまで待機だな。


「リザは何かすることあるのか?」


「あ、はい。昨日の人魚の件で必要な素材が手に入りましたので、魔法薬の下拵えをと考えてました」


「ほう、人魚も素材になるのか」


「ええ。新鮮な人魚の肝が薬の原料になります。簡単に手に入ったので幸運でした」


 人魚の肝。肝臓ですか。


 リザの作ってくれる魔法薬に間違いはない。で、あるならば余計な事は言うまい。と思っている。


 後々ソレを飲むことに為ると思うと、ちょっと考えてしまうがあまり深く考えない方が良いのだろう。


「……そうか。いつも助かる。これからもよろしく頼むな」


「はい。頑張ります!」


 


 空いた時間は居間で1人魔導書を読み込むことにした。


 しばらく前にゴブリン討伐の際に手に入れた、例の火魔術の術式を記した魔導書である。


 これは繰り返し読み込むことで、記憶内に魔術の術式が組み込まれ術の使用を可能にする便利な魔導具の一種だ。


 修得すると魔導書から魔術文字が失われるため、1冊の魔導書につき術を修得できるのは1人なのだが、それを差し引いても非常に有用な道具なのは間違いなく、無論その市場価値も非常に高いものとなっている。


 等級的にはリザの修得した逆風と同じなので、修得難度も同程度のはずだがこれがなかなか難しい。


 魔術文字はだいぶ読めるようになってきたものの、何度繰り返し読んでも修得には至らず、苦い思いをさせられているといった具合であった。


 リザに言わせると読むだけではダメで、理解することが重要らしい。

 

 彼女はこれを魔法薬を作成する傍らに修得してみせた。その熱意と努力には頭がさがる思いである。



 そうこうしていると、ぼんやりとした足取りでミラさんが起きてきた。


 寝起きなのだろう。その姿はまさに夢現といったような状態だった。


「おはようございます。ミラさん、具合は大丈夫ですか?」


 声を掛けると、彼女はハッとした様子で我に返る。


 気のせいか顔が少し赤い。


 エルフの魔力回復速度は人族のそれよりも数段高い。時間的な事を考えれば、魔力は十分に回復していると思う。


「おはようございますジンさん。だ、大丈夫ですよ。今朝はだいぶ調子が良いみたいです」


 そう言いながら、ミラさんは視線を外す。


 若干様子がおかしいが、彼女が大丈夫といっているのだから、大丈夫なのだろう。


 

 居間の長椅子に腰を掛け、ほぅ、と溜め息を吐いた。


 まだ疲れが抜けていないのだろうか。


 いつものミラさんよりは今日は起きるのが早い。昨日は寝るのが早かったからかな。


「どうぞ。体が温まりますよ」


 リザが湯を沸かしてくれていたので、それを使って蜂蜜茶を入れた。


 蜂蜜と乾燥させた木の実を砕いたものに湯を注いだものだ。


 リザに教えてもらったのだが、程よい甘さとスパイスのような特徴的な香りが疲れを癒やしてくれるのだと言う。


 俺はこれが気に入っていて、リザに入れてもらうこともあるが自分でも定期的に作って愛飲していた。まぁ、コーヒーの代わりみたいなものだ。


「わぁ、ありがとうございます。……んっ、おいし」 


 ミラさんの視線が俺の手元に注がれる。


「魔導書ですか?」


「ええ。リザはあっという間に覚えてしまったようですが、俺はというと彼女のように簡単には行かないようです。今、ちょっと挫けそうになってるところですよ」


 魔導書をテーブルに置き、一旦休憩することにした。


 魔導書は音読が基本らしいが、大きな声で読まなくても大丈夫だというのは最近になってリザから聞いた話だ。


 小声でも大丈夫のようだし、口内に篭もるように読むのでも問題ないらしい。


 魔術師の詠唱と言う奴も、似たようなものなのだという。


「そうですか……」


 何となく煮え切らないミラさんに、どうしたのだろうと視線を送る。


 彼女は俺の注視に気がついたのか、慌てたように顔を逸らした。


 あれ?ちょっと、避けられてる?


 何かミラさんの気に障ることでもしてしまっただろうかと悩んでいると、彼女の手がそっと俺の手を握った。


「……ミラさん?」


「本読み終わりでしたら、昨日の続きしましょうか……?」


 昨日の……続き?



 何のことかと思案を巡らせた。


 手を握り目配せするミラさんの表情から、それが同調シンクロのことだと悟った。


「あ、はい。ぜひお願いします」


 俺がそう答えると、ミラさんは握った手の指をゆっくりと絡ませる。


 しっとりとした表情と、その指使いが妙に艶っぽい。


 あまりそれに注目すると、妙な気分になってしまいそうなので俺は無心で同調を発動させた。



「ひぅっ……」


 ミラさんから押し殺したような小さな声が漏れる。


 僅かに身を竦ませ、同調の感触から抵抗しているようにも感じた。


「ミラさん肩の力を抜いてリラックスしてください。俺に身を任せて、受け入れる感じでお願いします」


 同調は互いに魔力の波長を合わせるのが重要なのだ。


 抵抗されると成功率はグッと下がる。


「はい……わかりました。ジンさんを受け入れれば良いんですよね……」


 ミラさんが潤んだ瞳で、ぼそりと呟く。


「はい。お願いします」


 俺はその言葉に彼女の瞳を見つめ答えた。


 仄かに頬を染めるミラさんの手を握り、同調を発動させる。  


 魔力操作系のスキル“制御”を手に入れるためには、今のところミラさんに協力してもらうしか方法は無い。


 修得できれば魔力操作に優れたエルフなみの操作技術を俺も手にすることが出来るはずだ。


 そうなれば戦闘力の向上は計り知れない。


 

「ミラさん大丈夫ですか!?」


 同調を長時間使用した弊害か、ミラさんが長椅子ソファーに崩れるように倒れ込んだ。


「ふふっ、大丈夫ですよ。ちょっと疲れただけです」


「すいません、夢中になってました」


「そうですか。でも大丈夫ですよ。ジンさんのしたいようにしてくれて。私もジンさんに協力したいんです」  


 ミラさんはそう言って優しく微笑むのだった。



 

お読みいただき、ありがとうございます!

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