第159話 人形操師
緩やかな坂を上っていく。
道は石畳で丁寧に舗装されていた。技術的なものを見る限り、特別ベイルよりも劣っているようには見えない。
並び立つ建物はどれも石造りのもので、白い漆喰のようなもので塗り固められた様相をしている。
庭木などを見るも背の高い植物などは殆ど見かけない。ベイルとは植生も大きく異なるのだろう。
夜に外出するものは少ないのか、家屋からこぼれる明かりは見えるものの島民と擦れ違うようなことは無かった。
そうしてしばらく夜道を歩いたのち、俺たちは目的の場所に辿り着いた。
「白い大きな建物。たぶん、ここだな」
他の家屋と比べると敷地も含め相当大きな建物だとわかる。この辺りから、一般住宅地とは分けられた区域になっているようだ。
確かに窓から明かりが漏れている。窓といっても硝子窓というものではなく、嵌め殺しの窓に木板が備えてあるだけという物のようだ。
「人はいるようじゃな。とりあえずは今夜の休める場所を教えてもらわねばのう」
そういってアルドラは視線を下す。
リザは気丈に振る舞っているが疲れは隠せていない。消耗した魔力もそれほど回復はしていないだろう。
「そうだな。俺が声を掛けてくる。ちょっと待っててくれ」
白い壁に木製の扉。備えられた金属のノッカーを打ち鳴らし、館の住人に来客を知らせた。
夜ということもあって周囲に気を使って鳴らしたのだが、それを打ち破るかのような足音が室内から響いてくる。
「戻ったか!!」
勢いよく開け放たれた扉から姿を見せたのは、黒いローブに袖を通した幼い少女だった。
シフォン・ベル 人形操師Lv47
ミゼット族 53歳 男性
特性:健脚 潜伏
スキル:風魔術C級
土魔術B級
使役C級
鑑定D級
隠密E級
魔力操作E級
いや、少女じゃない。おっさんだ。おっさんだった。
小人族か。初めて見た。
赤み掛かった髪を短く切り揃えた幼い顔立ち。見た目だけで言えば、小学生にしか見えない。
「あ、どうも、初めまして。ベイルから派遣されて来ました。ジン・カシマです。よろしくお願いします」
予想外の出迎えに驚きつつ、とりあえず挨拶を済ませる。だがシフォンは放心した表情のまま、一切の行動を停止しているようだ。
どうしたものか。様子を伺いつつ、相手の反応を待つ。
「……あの、すいません?」
思考が完全に停止している様子のシフォン。仕方がないので、ちょっと呼びかけてみる。
「あっ!そうか!ゼストの奴か!そうだった。今日だったのか。よし、わかった。すまない失念していたのだ。取りあえず中に入ってくれ、詳しい状況を話そう」
どうやら連絡が伝わっていなかった訳ではないらしい。一安心だ。シダが迎えに来てくれたことを考えても、連絡が行ってないはずがないのだしな。
「そのことなんですけど、実は連れが今回の移動で疲弊していまして。早く休ませてあげたいのですが、お願いできないでしょうか」
「ああ、そうだ。そうか。そうだな。よし、わかった!部屋を案内しよう。滞在中、君たちが自由に使える部屋だ。詳しい話は明日にしよう。そのほうが私も都合がいい。今、ちょっと事情があって、仮眠中の者を除けば館にいるのは私1人だからな」
そういってシフォンにすぐ傍あるという館の別棟を案内して貰えることになった。
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