第158話 上陸
海上都市ミューズ。
かつては海人族の1氏族であるミスラ達が暮らす小さな漁村であったという。
人族の造船技術の進歩。操船技術の発達。それらが人族の海洋進出を大きく躍進させた。
時代は進み帝国には未知の領域を目指して船を駆る、専門の海洋冒険者が多く誕生することになったという。
そんな冒険者たちが、この辺りの領海で狩りをする場合に拠点としているのが、この海上都市ミューズである。
帝国の大型船を大きく避けるように進み、シダは湾内にある小さな漁港に船を着けた。
この辺りは明かりも少なく、人の気配も感じられない。
雰囲気から言えば田舎の漁村といった感じか。桟橋は木造だが、岸壁は石造りのしっかりしたものだ。
港にある建物を見ると木造の建物より、石造りのものが多いように見える。ベイルの街の様子と違うのは、容易に手に入る材料に違いがあるからだろう。
「帝国の奴らにはあまり関わらないほうがいい。面倒ごとを起こしたくなければな」
湾内を進む際に見えた海岸線の強い明かりは、帝国冒険者が滞在している区域らしい。
そのあたりは夜でも昼間のように賑わいがあり、多くの人が行き交っているという話だ。
「問題があるんですか?」
理由を聞くとシダは苦い顔で答えた。
「奴らのことを好ましく思っている者は、この島にはいないだろう。まぁ、島にしばらく滞在するなら嫌でもわかる」
「……わかりました。覚えておきます」
僅か半日あまりの航海であったが、気の抜けない時間であったために陸地が恋しく感じていた所だ。
リザもシアンも自分の足で立っているものの疲労の色が強い。
ミラさんはまだ回復していないので、アルドラが抱えて船を下りた。
「俺が案内するのはここまでだ」
「そうかですか。お世話になりました。ありがとうございます」
「世話になったのは、こちらも同じだ。魔法薬には助かったし、浮遊術のお陰で予定よりも早く到着できたしな」
そういって俺たちは握手を交わす。
「ルタリアの連中が根城にしているのは、あの坂を上り切った先の白い建物だ。行けばすぐわかるだろう。夜中でも明かりが消えることは無いから、今から行っても人はいるはずだ」
既に夜の帳は下りているが、まだ深夜というほどの時間ではない。
それなら問題ないはずだ。
彼の住んでいる家はこの近くらしいので、島に滞在していればまた出会う機会もあるだろう。
シダと別れた俺たちは彼の情報に従い、ルタリア冒険者たちの滞在先を目指して歩き出した。
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