第157話 海上都市ミューズ
セイレーンの追撃は無かった。
仕留めた感触はないので、もしかしたら再び姿を現す可能性もある。警戒は怠らないよう探知を広げておく。
「休憩にしよう。港まであとわずかだ。ここまで来れば、魔物の危険も少ない」
長時間魔術を維持し、1人で操船を行っていたシダにも疲れの色が見える。
魔物の襲撃があったため無理したようだが、通常であれば休みながら魔術を使って航行するものだそうだ。
それに長時間の浮遊はリザの魔力も大きく消耗させている。
超重量の船体を、1人で持ち上げようというのだから無理もないだろう。
やらせたのは俺だが、それでもやってのけた彼女には頭が下がる思いだ。
疲労が限界に達したのか、今は少しでも回復させるため横になって身を休めている。
浮遊による高速移動は船体の負荷も増大させることになったが、念のためにと付与した耐久強化にどれほどの効果があったか……
「母様は大丈夫でしょうか……」
心配そうにシアンが顔を覗き込む。
ミラさんは魔力枯渇により、強制的な睡眠状態に陥っていた。
今は俺の膝の上で熟睡中だ。
「心配ない大丈夫だ。少し休めば目を覚ますだろう」
俺の言葉に安堵したのか、顔を和ませ彼女はそのまま隣に座った。
探知に感じる微かな反応。
水面に視線を送ると波間から飛び出した何かが、水上を滑る様に飛行する物体を確認した。
「あれは飛魚じゃな」
フライングフィッシュ 魔獣Lv2
「文字通り空飛ぶ魚だな」
青魚にヒレが変化した羽を備える魚の魔物。魔物っていうか、普通の魚にしか見えないけど。
1体かと思ったが、次々に波間から出現する。どうやら群れのようだ。
「このあたりじゃ良く捕れる魚だよ。焼いて食うと美味いぞ」
海上に太陽が沈んでいく。
夕焼けに染まった空に明かりが失われ、藍色に変化する。
だがそれとは別に、遠くの空に明かりが灯っているのが見えた。
黄昏とは違う人工的な明かり。
「到着だよ。あれが海人族の貿易拠点であり、お前たちの目的地でもある海上都市ミューズだ」
「海上都市か」
船が目的の場所へと近づいていくと、どうやらそこは湾のような場所になっているのだとわかった。
まるで門のように切り立った崖が左右から突き出している。先端には灯台らしきものも確認できた。船を誘導するための施設だろう。
その間を通り抜ける。とはいっても幅は広い。遠くから見れば門のように感じたが、近づけばそれなりに距離はある。たぶん500メートルくらいはあるだろう。
これまでの航海も波は小さく穏やかなものだったが、湾に入ってからはいっそう緩やかになった。
先の海上には、大型の船舶が何隻も浮かんでいるのが見える。
言っては悪いがシダの船とは、比べるまでもない巨大な帆船だった。
「あれは確か、ガレオン船ってやつじゃないか?」
どこかで見たような記憶がある。大航海時代だったか。
「ん?さぁな。船の名前なんてのは知らないが、あそこに浮かんでいるのは全部帝国の船だぞ」
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