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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第1章 漂流者
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第16話 未練

 エリザベス・ハントフィールドは、薬師を生業に冒険者の街ベイルで母と妹と3人で暮らす娘である。

 幼いころに一時期アルドラの村に預けられ、生活していた経緯がある。

 

「そのとき大叔父様には大変お世話になりました。エルフ族としての矜持、森での生き方、魔物との戦い方、その他にも多くをここで学ばせて頂きました」


「なるほど。それで村のことが心配でここへ?」


「はい。あの大叔父様が簡単に死ぬはずがないと、自分の目で確かめるためにここに来ました。冒険者ギルドの調査では、大叔父様の遺体は発見されなかったそうですので、きっと生きてるんだと思いまして。ここに来れば何かわかるんじゃないかと」 


『ふむう、心配かけたようじゃの……』


 アルドラさんがちょっとしんみりしている。

 

「あ、芋煮えたみたいだ。どうぞ」


「は、はい。いただきます」


 もぐもぐもぐ


「干し肉からけっこう出汁出てるね」


「あっ、あつつ、熱いけど美味しいです」


 腹が減ってれば、大概のものがうまい。

 慌てなくても、おかわりあるよ?

 

「あの、ジン様どういったことでここへ?」


 うん、エルフ族には見えないだろうし、なんで1人でここにいるんだってことだよな。

 

 俺は自身がここに至る経緯を説明した。

 誰かれ構わず話すつもりも無いが、この娘には話してもいいかと思う。

 まぁ説明するに至って、俺の素性を隠しつつ、説明するのが面倒だということもあるのだが。


「はぁ……異世界ですか」


「まぁ、信じられないのは理解できる。突拍子もない話だしね」


 俺が一番信じられない気持ちだし。


「いえ、信じます。エルフ族は、その感覚というか直感というか、そういうものに敏感なんです。私はハーフなのでその能力は弱いですが、目の前の相手が嘘を言ってるかどうか、なんとなくわかるんです。ジン様は嘘は言っておられません」


「そっか、信じてくれてありがとう」


「いえ、それで大叔父様もいまここにいらっしゃるのですか?」


「うん、いるね」


『見えんというのは、不便じゃのう』


 リザはじろじろと明後日の方向を見つめているが、全く見えていないようだ。

 やはり魔眼所持者でなければ、見えないのだろう。


『ふーむ、ちょっとジン体貸してくれ』


「は?」


 アルドラさんはそういうと、俺に体を重ねるように滑り込ませた。

 嫌な予感がしたが、一瞬の隙を突いた動き、俺は反応できずに、アルドラさんの侵入を許してしまった。


『なにこの技?これもスキル?』


「いや、気合じゃ」


『なんでも気合だな?体返してくれ!』


 俺は悲痛な叫びをあげる。


「わかったわかった、すぐ返すから、落ち着け」


「え?え?」


 混乱するリザ。

 一瞬の内に俺とアルドラが入れ替わったなんて、思いも寄らないだろう。

 そりゃ目の前のやつが急に意味不明な言葉を口走りだしたら、そんなリアクションになるよな。


「いや、こっちの話じゃ。それにしても大きくなったなリザ。5年ぶりくらいかの?」


「え?どういう?」


「うむ、混乱するのも無理は無い。わしもどうして亡霊なんぞになって、この世に醜くしがみついているのか、いままでわからんかった。おそらく無意識にウルバスのことが気に病んでおるんだと思っておったんじゃが、違ったようじゃ」


「大叔父様なのですか?」


「うむ、本当に美しい娘に育った。母によく似とる。その1人で飛び出してくる無鉄砲さは冒険者の父譲りかの?」


 俺にとり憑いたアルドラさんは、にやりと笑った。


「大叔父様!」


 リザは思わず駆け出して、俺を抱きしめる。

 いや俺にとり憑いたアルドラさんをか。

 ややこしいな……


「時間がないから簡潔に話す。良いな?」


「はい」


「わしは魔人落ちした我が弟ウルバスに殺された。闇魔術での不意打ちじゃった。不可視の術で初見もあって裁けなかったのが敗因じゃ、わしの弱さが招いたことゆえ未練はない。じゃが、わしの唯一の未練はお前じゃリザ。わしは冒険者の経験もあるゆえハーフがどうだ、人がどうだと差別せんが、世の中はそうではない。特にハーフエルフには厳しい世界じゃ」


「はい、わかります」


「ウルバスを倒すことで、わしの無念を晴らし、ウルバスの迷える魂も救ってくれたジン・カシマにハントフィールドは大恩ができた。族長としてそれを返さねば、わしもゆっくり寝ていられん。じゃがわし個人では、人族が求める金貨も財宝も、持ちあわせてはおらん。そこでリザ、お前をジン・カシマに与えようと思う」


「……私をですか?」


「うむ。お前はエルフ族だが、半分は人族だ。ジンも人族ゆえ丁度いいだろう。妻として彼を助け、支えになるが良い。異論は無いな?」


「わかりました。謹んでお受けいたします」


 リザは深々と頭を下げた。


「うむ。……わしはもう行くが、達者でくらせ。母にもよろしくな。後は任せる」


 リザは再び俺にとり憑いたアルドラを抱きしめる。

 アルドラはリザの頭を優しく撫でた。


「娘の嫁ぎ先を決めるのは、父親の役目じゃ。わしは代役じゃがの。これでもう心配ごとはない……」


「大叔父様あああああああ!!」

 

 リザは俺の胸の中でいつまでも泣き続けた。




>>>>>




 俺はもうとっくにアルドラさんから体を返してもらっている。

 泣いてる女の子を、無理に引き剥がすわけにもいかず、ただただ泣き止むのを待つばかりであった。


 それにしてもリザはいい匂いがするな。

 まるで花のような香りだ。

 香水だろうか。


 女の子を抱きしめるなんて、相当久しぶりである。

 女の子ってこんなに柔らかかったっけ……


 アルドラさんは、どうやら成仏して行ってしまったようだ。

 最後に俺に『可愛がってやってくれ』と意味深な言葉を残して消えた。

 

 どういうつもりなんだ、あの人は?

 まぁ最後には笑って逝ったので、俺もあまり辛い感情にはならなかったのが、救いだ。

 アルドラさんも安心できたのだと思いたい。


 そして置き土産のつもりか、俺のポケットにはいつの間にか見慣れぬ石が入っているのに気がついた。


 魔晶石 素材 S級


 S級である。


 F~Dまでは見たことがあるがSは初めてだ。

 おそらく高ランクなのは間違いないだろうと思う。

 ゲームや漫画でも、最高位のランクにSっていうのはよくあるからな。


 それにこの魔晶石には、魔石のようにスキルも宿っていた。

 おそらくはこっちが土産の本命なんだろう。


 闘気


 アルドラさんは戦士だったらしいから、たぶん名前からしても近接戦闘系のスキルだろうと思う。

 検証が楽しみだ。




「至らぬところも多いかと思いますが、よろしくお願い致します」


 落ち着いたリザが姿勢を正して、頭を下げる。

 この世界でも礼を尽くすときには頭を下げるものなのだろうか。


「うん、よろしく……っじゃなくて!」


 俺は展開に着いていけず、思わずノリツッコミが出てしまった。


「……あの、私では駄目でしょうか……?」


 リザは肩を落とし、声を震わせる。

 いや、そういうことじゃなくてだね……


「いや、あって間もない俺達がね、そういうのっておかしくないかな?お互いの事なにも知らないわけだし、アルドラさんに言われたから、はいわかりましたって、言うのはどうかと……」


 俺はしどろもどろに説明する。

 

「駄目ですか……?」


 リザは俯いたまま、大粒の涙をこぼし肩を震わせる。


「あ……いや……」


 うん、駄目じゃないかな?

 よく考えてみると駄目じゃない気がしてきた。

 ようはお見合いってことか……


 こんな可愛い娘を妻に何て、向こうの世界じゃ夢のような話だし、悪い話じゃないよな。

 

「えっと、リザはそれでいいの?急に妻になれなんて話聞かされても困るでしょ?」


 リザは小首を傾げて、きょとんとした様子で俺を見つめてくる。


「結婚相手を家長が決めるのは当然のことだと思います。私は困りません」


 そうなんだ。

 リザは真っ直ぐな瞳で見つめてくる。

 その瞳には迷いはなかった。


「ジン様は私では嫌ですか?」


「嫌じゃないよ。むしろタイプっていうか、願ったり叶ったりだけど、急な話で戸惑っているっていうか……」


 急に結婚なんて言われても実感ないんだよ。


「……わかりました。ではお互いに、もっとよく知り合ってからと言うことにしませんか?」


 リザは真っ直ぐな瞳で見つめてくる。

 眼力がすごい。


「そうだね、わかった。よろしく頼むよ」


 俺はリザと固く握手を交わした。

 

  


「ジン様~?ちゃんと後ろ見てます~?」


「うん、わかってる。っていうか、見られたくないんなら、時間ずらして別々に入ったほうが良かったんじゃない?」


 俺は今何故かリザと一緒に露天風呂に入っている。

 一緒に入っているくせに、裸は見られたくないようで、ちょいちょい覗いていないかチェックされるんだが、それなら最初から別で入りたい。


「この湯は体力魔力の回復を促進する効能があるんです。ジン様も昨日の戦闘でだいぶ消耗されたんですから、回復に務めたほうがいいですよ」


 まぁそうかもしれないけどね、気は休まらんよ。




 俺たちは体を休めるため、昼すぎまで横になっていた。

 回復効果のある温泉だが、一日中入っていれば良いというものでもない。

  

「そろそろまともな食事がしたいね」


 昼には黒華豆を炒ったものと、干し肉だ。

 黒華豆はエルフ族が好む高級食材らしい。


「この豆は大叔父様の好物でした、久しぶりなので懐かしいです」


 そう言って、リザは豆をポリポリ物凄い早さで食べている。

 リスみたいだな。


 この豆はエルフの村でしか栽培されない食材で、収穫量も少なく貴重らしい。

 

「体力を取り戻すまで、この村に滞在してその後、ベイルに向かうのか?」


「はい。ジン様は人族とは思えないほどの魔力量ですので、全快には何日か掛ると思います。安全を考えて全快してから行動するのがいいでしょう。冒険者の登録できる一番近い街はベイルですので、そこを目指すのがいいかと」


 エルフは魔力量も多いが、魔力の回復速度が多種族より優れている特性があるらしい。

 たとえ最大魔力が同じでも、完全回復にかかる時間はエルフ族が一番早いという。

 魔力の回復というのは、いわゆる魔素の吸収である。

 大気中に漂う魔素や食物に含まれる魔素を、取り込み体内で魔力へ変換する。

 そのため自然に魔力というのは徐々に回復していくもの、更に環境や状況によって回復速度は変化する。


 つまりは都市よりは自然の中のほうが、飲まず食わずで行動するより、良い物を食べ休息をとるほうが、魔力の回復は早まるということである。

 無論例外はあるらしいが、おおまかに言うとこんなとこらしい。


「わかった、任せるよ。俺はこっちの常識はわからないから、いろいろ迷惑かけるかもしれないけど、よろしく」


「お任せください。それにしてもジン様も冒険者に憧れがあったんですか?」


「憧れっていうか、異世界に来たら冒険者になるのはお約束っていう……まぁ、興味はあるよ」


 俺はアルドラさんも若いころ経験したという、冒険者を目指すことにした。

 アルドラさん曰く俺くらいの魔力量と、この魔石からスキルを取得できる能力があれば、S級の冒険者にもなれるだろうという、太鼓判を貰ったのだ。

 アルドラさんからは、基本的な魔物との戦い方や解体処理法、魔物の体内の何処に魔石があるか、など冒険者として必要な最低限の知識を教えてもらっている。


「?そうですか……森も活動期に入っているようですし、丁度いいかもしれませんね」


「活動期?」


「はい。この魔物の住む、ザッハカーク大森林は魔物が活発になる活動期と、活動が鈍くなる停滞期があるんです。活動期は魔物の数が増え、個体ごとの強さが増すので危険とされていますが、冒険者にとっては稼ぎどきになるので、この時期に冒険者になるために地方からやってくる人も大勢いますよ」


「なるほどね、レベルを上げるにも丁度いいかもしれないな」


「ジン様はレベルの確認ができるのですよね、それは心強いです」

 

 この世界の住人にもレベルの概念があるようだ。

 しかし高ランクの鑑定スキルでもないと、レベルの確認は出来ないらしい。

 鑑定スキルは生産系の職業が持つスキルらしく、低ランクの冒険者が一般的に所持しているスキルではないようだ。

 レベルの確認はギルドで行うのが一般的らしい。


「つまり魔物と対峙しても、普通相手のレベルもわからないわけか。それはリスキーだな」


「はい。高ランクの冒険者なら鑑定持ちの奴隷を探すこともできますが、低ランクの冒険者ではそれも難しいでしょう」


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