第155話 深海の使者3
雷撃の射程は短く役には立たない。火球の射程は20メートルほどだが、速度が足りずマーメイドに当てるのは難しそうだ。
そもそも高速で動く魔物に攻撃を当てるというのは、相当に難易度が高い。
「当たる気がしない……しかし、牽制の意味でも攻撃はしておくか。魔力を無駄にするのも癪だしな」
横を見ればリザの攻撃も控えめだ。当たらない。当たってもたかが知れていると察したのだろう。
俺が持つ攻撃手段で、速度と射程が長いのは今のところ1つしかなかった。
鹿王の朱弓 魔弓 C級 魔術効果:貫通
取り出した弓に矢を番え、水面を波立たせる魔物へ向けて放つ。
矢は貫通の魔力を宿し高速で飛行、魔物が潜むであろう水面に静かに吸い込まれた。
手応えはない。
そうそう簡単には当たらないか。それでも狙った場所に飛ばせただけでも、なかなかのものだろう。
俺は気にすること無く再び矢を番え、魔物へ向かって放ち続けた。
「……何だ?何か、違和感が――」
耳鳴りだろうか。頭の奥を締め付けられるような感覚。視界が歪み、思わずよろけたたらを踏む。
周囲を見渡すとリザ、シアンも頭を押さえ違和感を感じている様子だ。
ミラさんは異変からか、その場に蹲っている。
「気をしっかり持て!こいつは呪歌だ。セイレーンが近くにいるぞ」
舵を取るシダから激が飛ぶ。
どうやら、この異変は何らかの攻撃を受けている結果らしい。
「おおっ!?」
衝撃を受け、船体が大きく揺れる。
船の最後尾、縁に掴まる巨大な腕が見えた。
マーメイドのそれとは、あきらかに違う巨大な腕。しかし、同種なのか鱗に覆われ鋭く長い爪が備わっているのが見えた。
「何とかしろぉぉぉーーーー!!」
高速で動く船を掴み、その動きを止める。まるで海の底に引きずり込まんとするような強大な力。
このままでは危険だ。魔術を放つために魔力を集める。しかし、それよりも早く動いたものがいた。
シアンだ。懐から何かを取り出し、船尾に向かって投げ放つ。
僅かな時間を置いて、そこから閃光が生まれ激しい雷鳴が周囲に轟いた。
衝撃で船が揺さぶられる。魔物の拘束を脱したのか、船が再び推進力を取り戻した。
「よくやったシアン!」
声を掛けながら、船に乗り込もうとするマーメイドを雷撃で蹴散らす。
「はいっ」
一時的に動きを止められた結果、マーメイドが何体も船に取り付いてしまったようだ。
リザは火球で、シアンは斧を振るいマーメイドを追い払った。
船から僅かに離れた水面に、大きな水のうねりを感じる。
まだあの怪物が追いかけてきているのだ。
懐に収まっていた幻魔石を取り出し顕現させる。しばらく休息させたので、幾ばくかは魔力も回復したことだろう。
魔力の粒子が集まり、人の体を成していく。
やがてアルドラが姿を現した。
「ジン、後ろじゃ!」
姿を見せるなり叫ぶアルドラ。
「え?」
彼の言葉に反応するも一歩遅く、俺は背後から何者かに首を絞めつけられた。
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