第154話 深海の使者2
「シアンは右を、リザは左を警戒してくれ。俺は中央、ミラさんは後ろで待機」
「「「はい」」」
この海域から目的地まで、おおよそ15時間は掛かるという。となれば迎撃する以外に選択肢はない。
人が管理する領海に入れば魔物もおいそれとは追ってこないというが、その目的地まで安全に休める場所は無いらしいのだ。
「シダさん、これを」
「ん?何だこれは」
鞄から取り出した魔法薬を男に手渡す。
「魔力回復薬です。消耗していると感じたら直ぐ飲んで下さい」
リザの逆風と同じく、気流操作を使っている間は他の魔術が使えない。
となれば、魔物の迎撃は俺たちで請け負うことになる。まぁ、話によれば引き寄せてしまったのは、俺たちが原因のようであるし致し方ない。
ゼストが浜に近づくなと言っていたのは、この事だったのだろうか。もう少し詳しく指示してほしいものだ。
「なんと、助かる。でも良いのか?たしか高価なものだと聞いたことがあるが」
「大丈夫ですよ。彼女が薬師なので、材料さえあれば作れるんです。それに自分たちで使うぶんは確保してありますしね」
「そうか、それなら遠慮無く使わせてもらおう」
魔法薬を受け取ったシダは操船に戻った。このような海上で船が止まれば逃げ場はない。彼は操船に集中してもらおう。
「ギィシャァアアアアアーーーーーーッッッ!!!」
奇声を発し、魔物が水面より姿を見せる。
マーメイド 妖魔Lv23
たいてい人魚というのは、美しい人間の女性の上半身に魚の下半身というので相場が決まっている筈である。
だが目の前に現れたのは、人魚というより魚人。
鱗で覆われた異形の怪物だった。
確かに顔は魚系だ。下半身は見えないが魚なのだろうか。
右側に姿を見せた魔物の頭部に、突如深々と矢が突き刺さる。
狙いすましたシアンの石弓が獲物を捉えたのだ。
「うおおお、凄いな。高速で動く物体を水面から出た瞬間に狙い撃ちって、並の技じゃないだろう」
俺が驚きの声を上げると、シアンが満足そうな笑顔を向けてくる。
「えへへ。後でいっぱい褒めて下さいね」
そういって彼女は再び矢を番えた。どうやら彼女は心配なさそうだ。
自分に自信がなかった頃が嘘のように、逞しく成長したものだ。
ネロはと言うとシアンと足元で小さく丸まっている。
浜でも大人しかったが、船もダメらしい。そういえば水が苦手だったんだよな。
左側の水面が大きく跳ね、マーメイドが船の縁に取り付いた。
鱗に包まれた腕。鋭い爪。船へと乗り込もうと身を乗り出す。
「お任せ下さい」
鋭い牙の並ぶ大きな口に戦杖を叩き込む。
刹那、マーメイドの頭部が勢い良く燃え上がった。
「ッンガッ!?」
声にならない声がマーメイドから溢れる。
リザは即座に戦杖を引き抜き、側頭部に渾身の打撃を叩き込んだ。
「左舷は私が守ります」
新しい杖でリザの攻撃力は大幅に改善されたようだ。
「嬢ちゃんたち、やるなぁ」
背後でシダがぼそりと呟いた。
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