第134話 面倒くさい奴
冒険者ギルドの正面に回り、受付に顔を出してマスターへの取次をお願いする。
「おお、ジンじゃねーか!久しぶり!」
受付でぼんやりと待っていると、見慣れない若者に肩を組まれた。
誰だ?怪訝な表情を向ける俺に、若者は苦い顔で答える。
「……なっ、なんだよう。忘れたのか、ほら異常発生の前に森で会っただろう」
うーん。と唸って考える俺にリザが救いの手を延ばす。
「ジン様、霊芝のときに出会った3人組ですよ」
「……あぁ」
忘れかけていた記憶が浮上してきたが、名前までは思い出せなかった。
「ひでーな。あの後1度ギルドであってお互いに名乗ったじゃねーか……まぁ、いいや。嫁さんが覚えていてくれて助かったぜ」
そうだった。確かコイツは戦士のザックだったか。
今の俺と同じ年の17歳で、冒険者ランクも同じD級だったな。
短い金髪に頬傷、碧眼の若者だ。17にしては老けてるというか、いかつい感じで如何にも戦士といった風貌である。
斥候役のゼル、魔術師のシドという男3人のパーティーらしいがこの若さでD級というのは、それなりに優秀な部類に入るらしい。
「それで考えてくれたのかよ?」
馴れ馴れしく肩に手を置くザック。
俺はさっぱり話が見えてこないので、首を傾げて考える素振りをする。
「うおおおい。俺達のパーティーに入らねーかって誘ったじゃねーか!忘れたのかよ!」
「ああ、っていうかそれ断ったよな?」
アルドラの表情やリザの様子を見ても、彼は悪い人間ではないのだろう。
悪人が何か企みを持って近づいてくる場合、大抵はエルフの直感で見破ってしまうのだ。
「なんでだよ!俺達とお前とで組めばもっと稼げるぜ?その気になりゃ奴隷だって買えるぞ!同じD級じゃねーか、仲良くやろうぜ」
自分たちは将来有望な若手パーティー。そこに誘ってやるんだ、有り難い話だろう?つまりはそういうお誘いである。やれやれ……
別に俺は奴隷を欲しいと思ったことはない。
パーティーメンバーとして、俗に戦闘奴隷と呼ばれる戦闘に心得のある奴隷を買う冒険者もいるようだが、戦力ならアルドラで十分だ。
だいたいレベルが高かろうが、戦闘スキルを持っていようが、実際に魔物狩りで役に立つかはその場になってみないとわからないものである。
性奴隷というのもあるらしいが、それこそ俺には必要ないし。
まぁ、ベイルには花街という安全に女遊びができる場所があって、一部の高級店でなければ敷居もそう高くはないので性交目的だけで金の掛かる奴隷を買うというのは少数派らしいが。
ともあれ彼らと組むとなると、色々説明しなきゃならないし面倒というのもある。
それに俺にはシアンを育てる義務があるのだ。とても忙しい。
「悪いな。他をあたってくれ」
諦めきれないのかザックはしつこく食い下がる。
面倒くさい奴だ。男に付きまとわれても嬉しくも何とも無いのに。
ギルド内でそんなやり取りをしていると、明らかに不機嫌な表情をした大男が俺たちの間に割って入ってきた。
「お前が黒い稲妻か!なんだまだガキじゃねえか!」
ギルド内全体に響き渡る威嚇するような大声。
高圧的な態度。また碌でも無いのが寄ってきたな……
後ろに控えるリザが、睨みつけるような視線と敵意のオーラを放っている。
「やっぱり希少種の巨人を殺したってのはデマだな!どうせたまたま死んでいた所に居合わせたんだろう。まったくこんなチビがD級だなんて笑わせるぜ」
俺は相手を刺激しないように注意して、受付にいたリンさんにそっと近づいて小声で話を聞いてみた。
「申し訳ありませんジンさん。ご迷惑をお掛けして……」
彼は最近ギルドに加入したばかりの冒険者らしい。F級がE級になるためには、講習を受けて初心者迷宮を突破しないとその資格を与えられないのだが(最低限の知識と自衛能力を図るため)自分には生来備わった肉体があるから、知識など必要ないし自衛能力も問題ないE級に昇格させろと騒いでいるらしいのだ。
まぁ、当然その訴えは受け入れてもらえず、八つ当たりなのか色々な人に噛み付いて問題を起こしているらしい。
「素直に講習受けろよ……」
俺には少々理解し難い部分があるのだが、ルタリアには義務教育のような機関が存在しない。学校といえば聖職者を育成教育する神学校か、魔術を学ぶ魔術学院くらいしかないそうだ。
村落で読み書き計算などを学ぶ場合には、教会などに赴き司祭などに教えを請う。
女神教徒であれば、彼らは拒むことはないだろう。聖職者は聖典を読み祭事を司るために読み書き計算などが出来なくはならないのだ。
しかしそれらは強制ではない。村落に暮らす労働者の多くは、必要が無いからという理由で学ぶことを放棄している。
「なんだチビぃ、さっきからごちゃごちゃと……」
アルドラは離れているので手を出すことはないだろうけど、リザがかなり険しい表情をしている。他人には無表情に見えるかもしれないが、俺にはわかる。
今彼女はかなり機嫌が悪い……このまま放置しておくと風球を連射しそうだ。
雷魔術:麻痺
「ガッぁッッ――……!?」
声もでかいし、鬱陶しいので強制的に黙らせる。
「講習は受けたほうがいいですよ。どうせ黙って話を聞くだけですから」
そう言って新人にアドバイスを送ると、リンさんから執務室へ行くように呼びかけられたので、その場を後にした。
「やれやれ、ジンさんに絡むなんて無謀にも程がありますよ……ベイルへ侵攻してきた、あの大巨人と同格の存在を倒した人だと言うのに」
ベイルに直接被害を与えた巨人の存在は、多くの冒険者達が目にしている。
その巨人と同格とされる巨人を倒したジンの存在は、冒険者たちの間でも知られるようになっていた。
ジン・カシマ 冒険者Lv28精霊使いLv22
人族 17歳 男性
スキルポイント 0/63
特性:魔眼
雷魔術 C級【雷撃 雷扇 雷付与 麻痺 雷蛇】
火魔術 【火球 灯火 筋力強化】
水魔術 【潜水 溶解 洗浄】
土魔術 【耐久強化 掘削】
闇魔術 【魔力吸収 隠蔽 恐怖】
魔力操作 【粘糸 伸縮】
探知 C級 【嗅覚 魔力 地形】
耐性 C級 【打 毒 闇】
体術 D級
盾術
剣術 C級
槍術
鎚術
鞭術
短剣術
闘気
隠密 C級
奇襲 D級
投擲
窃盗
警戒
軽業 F級
疾走
解体
解錠
繁栄
同調
成長促進
木工
雷精霊の加護