第13話 魔人襲来
2体の巨大な魔物を引き連れた、ウルバスが姿を現した。
「……きたか」
『無理じゃったら、逃げてくれよ』
「まぁ無理はしませんよ」
グオォォーーーーーッ
巨大な魔物の咆哮が広場に響く。
ドガッ
魔物の1体が、燃え上がる廃材の山を蹴りあげ、周囲に炎が散乱する。
広場は炎と煙に覆われていった。
ウルバス 魔人Lv13
ジャイアントインプ 妖魔Lv12
弱点:光 耐性:闇
スキル 耐久強化
「おー、でかいな」
ジャイアントインプは4メートル以上はあろうかという、毛むくじゃらの巨体で巨大な野獣といった様相だった。
足元に転がっている、ラージインプの骸を片手で掴み上げると、大きく振りかぶりこちらへ放り投げてきた。
ドガアァーンッ
どうやら投擲の腕は、今ひとつのようで、狙いを大きく外したソレは後ろの廃屋へと吸い込まれていった。
グオォォーーーーッ
あまり頭は良くないようだが、放置していても面倒だ。
さっさと片付けてしまおう。
シュッ
空気を切り裂く鋭い音。
死角から狙いすましたかのような一撃が、俺の首筋を掠った。
「おおっと」
『油断するな、狙われとるぞ!』
ウルバスは狙っていた獲物を発見したというような、歓喜の笑みを浮かべ襲いかかってきた。
その目はまるで紅いガラス球が嵌め込まれたように変質しており、その白い皮膚も石のように硬質化していて異常さを増幅させていた。
石膏のようなヒビ割れた拳で殴りつけてくる。
しかしその動きは素人というか、闇雲に攻撃してるような印象で、それほど危機感を感じなかった。
鹿島仁 漂流者Lv10
お、戦闘が続いていたおかげで、いつの間にかレベルが上がっている。
俺は自分の拳に雷付与を使用してから、スキルポイントの変更を試みた。
体術 C級
ぶっつけ本番だが、やるしかない。
俺はウルバスの攻撃を紙一重で躱し、腕を掴み、足を引っ掛けて地面に転ばした。
格闘技の経験なんて無いので、俺じゃあこの程度が精一杯だ。
俺は馬乗りになり、雷付与された拳を心臓目掛けて全力で突き放った。
バリバリバリッ
拳に伝わる固い感触。
放たれる紫電の閃光。
本当に石膏像を殴っているようだ。
まったく血の通う生物の感触ではなかった。
まぁ石膏像を殴った経験はないのだが。
どうやら多少は効いたようで、ウググとくぐもった呻き声を上げる。
しかし次の瞬間、黒いオーラのようなものが、ウルバスの体を包み込む。
俺は嫌な気配を感じて、その場から飛び退いた。
よろりと立ち上がるウルバスの体からは、どす黒いオーラが噴出している。
「アルドラさん、あれ何だかわかるかい?」
『なんじゃ?』
アルドラさんには、あの黒いオーラが見えていないのか?
物凄い嫌な予感がするんだけど。
ウルバスが自分の前に手をかざすと、黒いオーラは渦を巻いて集まり、球体を形作った。
なんだろうと思った次の瞬間、それは俺の方へと放たれたのだった。
「おおっと、あぶねぇ!」
黒い玉のスピードは遅く、躱すが楽だったのが幸いだった。
それでもしつこく連射してくるのを、俺は躱し続けるのだった。
グオォォーーーーッ
ジャイアントインプが雄叫びを上げて近づいてくる。
そういえば居たのを忘れていた。
巨大なインプは、その長い腕高々と振り上げて、襲い掛かってくる。
「邪魔臭い!」
ジャイアントインプはウルバスと俺の間に割り込み、覆いかぶさるように迫る。
グオォォォーーーーッ
しかし何が起きたのか次の瞬間、腕を振り上げた体勢のまま、ジャイアントインプはその場に倒れこみ、地面に突っ伏してしまった。
「え?死んだ?」
よく見ると生きてる。
しかし、あー、とか、うーとか呻き声を上げながら、どうも体を起こすことが出来ないようで、その場でもがいていた。
俺が不思議に思っていると、すぐ脇を黒い玉が通過した。
「あぶなっ」
俺は腰から青銅剣を抜き放ち、地面で呻いている、ジャイアントインプに止めを差した。
もしかして、あの黒いオーラか。
「アルドラさん、ちょっと時間稼げる?」
『む?ほんの数秒なら気合で何とか、なるかもしれん』
「頼みます、もう1体のでかいの片付けるんで」
『わかった、まかせい』
俺は疾風の革靴に魔力を込めて、走りだした。
暴れ狂うジャイアントインプの攻撃を躱し、隙を突いて背後から近づくと、腰から抜き放った青銅剣を振りぬき、膝からしたを分離させた。
剣術 C級
崩れ落ち、地に膝を付くジャイアントインプの首を瞬時に跳ね飛ばす。
俺は地面に沈み込む巨体に剣を刺し入れた。
刺し口から手を滑りこませ、ジャイアントインプの体内を探る。
指先に触れる魔石の感触。
俺は耐久強化を習得した。
すぐさま近くにあった、ラージインプの体内からも筋力強化のスキルを回収した。
火魔術(筋力強化)
土魔術(耐久強化)
あれ?スキルじゃなかったか。
まぁ、魔術であれば、まとめて複数の術を行使できるぶん、得なのでより良い気がするからいいのだが。
『おい、まだか!』
アルドラさんの焦りの声が聞こえた。
連続して放たれる黒球をウルバスを中心にして、俺は円を描くように走り続け回避していた。
弾速が遅いために、回避自体はそれほど難しくない。
しかし連発されると、なかなか近づけないのだ。
あの黒球を受けるのはマズイ。
おそらく相手の動きを封じる類の魔術だと思う。
なんとか近づいて、一太刀入れられないかと思案していると、俺は足がインプの骸に引っかかり体勢を崩してしまう。
そこへ間髪入れずに飛来する黒球。
俺は直撃を受けた。
「あああああ」
『ジン!』
黒球はまるで、靄の塊のようで、実体はなかった。
ダメージはないようだし、痛みも感じない。
だが、恐ろしい効果はあった。
まるで体に力が入らないのだ。
膝を付き、剣を地面に突き刺して、体を支えるも立ち上がることさえかなわない。
「あぁ、くそっやっぱデバフか」
しかも威力は相当強力だった。
効果時間によっては、とんでもなく強力な魔術だろう。
『ジン立て!来るぞ!』
何とか首を動かして見れば、余裕の笑みで、近づいてくる魔人の姿があった。
「やばいです、立てません。アルドラさん時間稼ぎお願いします!」
アルドラは驚きと焦りの表情で、ウルバスに向かっていった。
亡霊のアルドラは基本物体に触れられない。
しかし気合?を入れれば、数秒は物を持ったり、触れたりも出来るらしいのだ。
ウルバスに向かって時間を稼ぐとはいっても、持って数秒だろう。
『ぬうううううん』
アルドラの気合が迸る。
まるで相撲の押し出しのようだ。
こちらに向かって歩いてくるウルバスを押し返している。
ウルバスの姿はもはや石膏像の魔物のように変化していた。
衣類もほとんどが朽ちていて、顕になっている。
『これ以上は無理じゃあ』
アルドラさんが保ったのは2秒が限界だった。