第125話 ゴブリン盗賊団3
「ほう、ここか」
俺達がやってきたのは、クローラーの縄張りから歩いて30分ほどにある谷間だった。
地面が抉れたように裂け、底には細やかながら水の流れがある。
「近くでソルジャーが4体、見回りをしていた。あれが意味もなく森を徘徊することは無いって言うから、たぶん間違いないだろう」
ゴブリンはレベルが上がり成長すると、知能が著しく高くなり様々な技能を発揮するようになる。
その中でも特に好戦的で、体格に恵まれた者は戦士階級に昇格するのだという。
戦士の仕事は縄張りの巡回、巣の防衛、敵地への侵略等である。自ら餌を探すために森を徘徊することはない。それらはもっぱら最下級ゴブリンの仕事なのだ。
「だが正確な位置はわかるのか?お主の探知でも見つからなかったのじゃろう」
ここ最近、とあるゴブリンの群れが成長し危険視されていた。
群れとして成熟し、それぞれに成長、役割を得たゴブリンを多数抱えた危険な集団と化しているらしい。
そういった群れでも特にゴブリンシーフを多数抱えた集団を、ゴブリン盗賊団とギルドでは呼称している。
シーフのゴブリンは小型で力も弱いが、すばしっこく悪知恵も働く。無意味な戦闘を回避し、人間の集落を闇に紛れて襲撃しては物資を盗んでいくのだ。
既にかなりの被害が出ているという。
「最近は遺跡探索に熱中してる冒険者が多いようだけど、誰も巣を見つけてないんだよな。ギルドにも腕の良い斥候はたくさんいる筈なのに、見つけられないってのは理由があると思ってたんだ」
森の奥深くに巣があるなら、今の俺では対処できない。
隠密と隠蔽を駆使すれば行けなくもないが、そこにポイントの大部分を消費すれば万が一戦闘になった時に対処できなくなる可能性がある。
奥地には危険な魔物しか居ないというし。
それに巣は奥地にはないだろう。
人間の集落は森を出ないと無いのだ。であればそれほど奥地に巣があるとは思えない。
巣が奥地にあると森外へ向かうのに冒険者に目撃される可能性が高いし、奥地には危険な魔物が多数生息している。もちろんゴブリンを餌にしているような奴もだ。
せこい盗みを繰り返す集団が、わざわざ危険な場所に巣を作るとは思えない。冒険者から逃れるために敢えてという可能性もあるが、冒険者より奥地の魔物のほうが危険そうだ。まぁ、無いだろう。
「理由はソルジャーだけか?」
アルドラが怪訝な表情を浮かべる。
「いや、理由はこれだよ」
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降りられそうな場所を選んで谷間を降りることにした。
リザは自ら軽やかに。シアンはアルドラに担がれて。ミラさんは俺がおんぶして降りた。
「ごめんなさい。重くないですか?」
「全然軽いですよ。ミラさん小柄だし、俺も一応男ですからね」
背中に当たる柔らかな感触。
ミラさんはリザやシアンと比べると、ふっくらした体型だがリザよりも背は低いし、重いとまでは感じない。
本人は気にしているようだが、そのくらいのほうが男からの意見としては魅力的だと思う。
俺がミラさんをおんぶしているのを見て、リザが失敗したといったような表情を浮かべていた。
もしかしたら彼女もおんぶして欲しかったのかなと思い、帰りは呼びかけてみることにした。
「森も地図の空白部分を埋める為に、結構動き回ったんだが幾つか埋まってない場所もある」
高濃度の瘴気がある場所では、探知を始めとしたスキルや魔術が正常に働かない場合がある。
「いくつかは確認したけど、どうも意図的に地形探知が上手く機能しない場所があるとわかった」
遺跡内部や洞窟地下深くなど瘴気の溜まりやすい場所なら理解できるが、地上で探知が作用しない場所は限られている。
ベイルだと中央と呼ばれる貴族の邸宅や、行政機関のある場所などがそうだ。そのようなところは招かざる客を想定して、予め結界が張られていたりするらしい。
そういった場所を探索するには地形探知に頼らず、自ら歩いて回らなければ地図は埋まらないようだ。
今のところ危険を犯してまで1人で地図完成を目指している訳でもないので、そういった箇所は放置している。
「ここも、その1つか」
「巣が見つからないのは、まだ見つかってない遺跡なんかを巣にしているんじゃないかって思ってね」
谷間のとある場所に崩れた岩がいくつも転がる箇所があった。まるで崖崩れがあったような場所だ。
「掘削で破壊してもいいけど、かなり慎重にやらないと危険そうだ」
俺が思案していると、リザが名乗りを上げた。
「ジン様、私にやらせてください」
「風魔術の浮遊か。……そうだな、頼むリザ」
「はいっ」
浮遊を使って慎重に岩を移動させていく。幾つか動かすと奥へと続く隙間が見えてきた。
隙間は人が通るには狭いようだ。背が低く細身のゴブリンなら通れるかもしれない。
鎧を着込んだゴブリンだと厳しいだろうか。普通のゴブリンは120センチほどで、鎧ゴブだと140センチはある。彼らは筋肉も発達していて、たかが20センチほどだがそれなりに大柄である。
岩を全て排除すると洞窟のような穴が見えた。
「これが入り口か」
「ジン様ここに何かあるのですか?」
人が通れるような大きさの穴だが、皆の様子を見るとどうも見えていないようである。
状態:擬態
「俺の魔眼だと見破れるようだ」
「確かに壁の奥から何かしらの気配を感じるのう」
正確には把握しきれないが、確かに洞窟内部から魔物の存在は感じる。危険は何かしらあるとは思うが――
「入り口に娘達を残しておくほうが危険だと思うが」
「魔物がいるならジンさんが怪我をするかもしれませんし、治療師は必要でしょう」
「私は常にジン様のお側に」
「兄様の側に居たいです」
まぁアルドラもいるし、残していくより全員で行動したほうが安全かもしれない。
シアンに至っても彼女には多くの経験を与えたほうが良いとの話もしている。
「……そうだな。みんなで行こう」
壁をすり抜けるように洞窟内部へ侵入。
内部は人工物というより自然の洞窟、鍾乳洞のようにも見える。
入口付近に違和感を覚え、手探りで探ってみると魔眼が異変のある場所を教えてくれた。
一部の壁に人の手が後から加えられた形跡がある。
調べると何か細工をしてあるようだ。
「魔法の罠というやつかのう」
低級の魔晶石と魔力回路を組み合わせた1種の魔法陣のようだ。
壁の一部をくり抜き、装置を仕込んでから壁を元の形状に戻したのだろう。
丁寧に復旧されてはいるが、微妙な違和感は拭えなかったようである。
「魔晶石が周囲の魔素を取り込み、半永久的に何かしらの魔術的効果を発揮するというもののようじゃ」
「おそらく幻影の魔術と探知妨害ではないでしょうか。この洞窟の規模から他の場所にも探知妨害の仕掛けが施されているかもしれません」
確かに洞窟は奥が深そうだ。入り口付近は人一人が通るに精々だが、奥に進めば進むほど天井は高く幅は広くなっていく。緩やかな階段のように、どうやら地下へ地下へと続いているらしい。
魔晶石 素材 F級
それに装置を破壊しても幻影が解除されただけで探知妨害は解除されていないように感じる。
もしかしたら探知妨害は他の場所に設置されているのかもしれないが。
まぁ、取り敢えず魔晶石は回収しておこう。
低級とはいえ魔晶石は高価なのだ。値段は詳しく調べていないが金貨10枚近くと聞いたような覚えがある。
それに加え魔力回路というのは、設置者が意図した魔術効果を発揮するために施す刻印のことで、石版や木板、金属板などに彫り込んで作るものらしい。
ここに設置されているものは石灰質の壁に直接彫り込まれている。
資金や知識があるものが、明確な意図をもってこの場所を隠蔽している意志を感じた。
「誰かがこの場所を隠したがっているのはわかった。まさかゴブリンが設置したってことは無いよな?」
レベルが上昇しそれに伴って知性も上がるなら、そういった技術を使いこなすゴブリンがいても不思議ではないと思うが。
「流石にわしも聞いたことがないのう」
「そこまで知性の高いゴブリンは、まだ確認されていないと思います」
まだか。
アルドラも聞いたことがないというし、頭のいいゴブリンが罠を設置しているという可能性は低いのかな。
エリザベス・ハントフィールド 薬師Lv28
ハーフエルフ 16歳 女性
スキルポイント 1/28
特性:夜目 直感 促進
調合 C級
採取 E級
風魔術 C級【脚力強化 風球 浮遊 微風 風壁】
水魔法 E級【洗浄 浄水 濃霧】
杖術 F級
装備
ミスティコート 魔装具 E級 魔術効果:認識阻害
ストール 衣類 E級
ハードレザーアーマー 防具 E級
レザーグローブ 防具 E級
ソフトレザーパンツ 防具 E級
レザーブーツ 防具 E級
魔術師の指輪 魔装具 C級
アウトラスト 魔装具 E級 魔術効果:体温調節
ショートスタッフ 片手棍 E級
解体ナイフ 魔剣 D級 魔術効果:解体
冒険者の鞄 魔導具 D級 魔術効果:収納40/40