第124話 ゴブリン盗賊団2
※前半シアン視点
※後半ジン視点
森の中で偶然見つけた、とある場所にある池のほとり。
周囲を見渡すとやや地面が低くなっていて、窪地のようになっている。
この池の回りはクローラーという魔物の繁殖地となっているらしい。
「ふう、問題ない。問題ない。落ち着いてやれば、大丈夫だから……」
呪文のように言葉を唱え、私は自分に言い聞かせる。
ふと少し前のことを思い出した。初めての狩りは兄様と二人で行ったんだっけ。
兄様も石弓は使ったこと無いって言ってたけど、お店の人の助言と私と二人で色々考えて使い方を勉強したんだった。
楽しかったな……兄様は上手くできたら頭を撫でて褒めてくれた。少し子供扱いされている気がするけど、それでも嬉しかった。
それに私は……そうだ。兄様のお嫁さんにしてもらったんだ。
本でそういうのは読んだことあるけど、実際のところはよくわかってない。
妻って何をするものなの?
母様は兄様のことを「支えてあげられるようになりなさい」って言ってたけど……
兄様に聞いてみても「俺も正直わかんないんだよな」って言ってた。
焦らなくてもゆっくり考えればいいんじゃないか。とも言っていたので、私なりにゆっくり考えてみたいとも思う。
姉様を見てると確かに支えてる感じはする。姉様は色んな薬が作れるし、魔術も凄い。兄様と一緒に狩りにも行ける。
それに夜だって凄い……
姉様を見習って目指せば良いのだろうけど、私が姉様みたいになるのは難しい気がする……だって凄すぎるんだもん。
姉様は「私の真似より貴方にしか出来ないことで、彼を助ければ良いと思う」って言っていた。
私にしか出来ないことか……う~ん、難しいなぁ……
樹の根元に腰をおろし、背中を預けて戦闘の用意をする。
手に持つのは、兄様が力のない私でも戦えるようにと考えてくれた機械式石弓。
ドワーフの職人に依頼して特注で作ってもらったそうだ。金貨3枚もしたらしいけど、兄様は安かったって言ってた。
私には高価過ぎると思うんだけど……
片手回し式ハンドルを使い、備え付けられた歯車と歯竿で弦を引くというもので、私でも扱えるように調節されてある。
弦を引き絞り専用の矢を固定する。革製兜の帯を締め直して、準備完了だ。
「にゃあ」
ネロが足元に擦り寄ってくる。
木陰に溶けこむような艶やかな黒い毛並み。神秘的なオッドアイ。
初めて出会った頃と比べると、随分と大きく立派に逞しくなった。
凛々しい顔を向けて鳴くネロの姿は、まるで「ご主人様は僕が守るよ」と言ってくれているように思えた。
「ありがとうネロ。じゃあ行こうか」
木の影から獲物を見定める。
草を喰む魔物の姿。この辺りにいるクローラーは境界あたりにいる物より、些か凶暴で体付きも大きく色も少し黒みがかっている。
亜種というやつだろう。
魔物には通常種、亜種、上位種、希少種など呼ばれているものがある。
人の都合でグループ分けしているだけなのだが、クローラーを例にすると通常種は濃い緑色のクローラーで境界付近に多数生息する。
亜種というのは食べ物や魔素の濃度の違いなど、環境の変化によって違いが生じたものであるという。上位種というのは通常種よりも、魔物として大きく強力な存在に変化したものだ。
希少種はある種の突然変異だと言われ、発生原因はわかっていない。
どれも人族の研究者たちが提唱しているものなので、人によっては意見の食い違いもあるが世界的には概ね浸透している考え方らしい。
私は近い所にいるクローラーに狙いを定める。
呼吸を整え、周囲に注意を向けつつ、引き金に指を掛けた。
放たれた矢は魔物に命中すると、強く弾かれたように明後日の方角へと飛んでいってしまった。
クローラーの皮膚は強く固いと同時に弾性もある。
皮膚に垂直に当てるように矢を放たなければ、力を逸らされてああやって弾かれてしまうのだ。
わかっていたはずなのに失敗した。
「ギィィィ……」
魔物からうめき声のような音が聞こえる。顎をガチガチと打ち鳴らし、怒りを現す威嚇行動である。
自分に向けられた敵意に、思わず後退りする。
しかし魔物はしばらくすると、怒りが収まったのか何事もなかったかのように再び草を喰み出した。
「ふう……」
魔物狩りには何度か来ているけど、未だに慣れない。
初心者向きの魔物相手でも怖くて仕方がない。
「でも兄様を心配させないように、自分の身を自分で最低限守るには……」
再び矢を番える。
「もっと強くなるしか無いんだよね」
放たれた矢は直線の軌道を描き、魔物の頭部に深々と突き刺ささった。
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巨人異常発生から森の様子が変わった。
森を覆い尽くすように広がった瘴気が、魔物の生息域に変化をもたらしたのだ。
更に今まで見つかっていなかった遺跡の多くが発見された。それらに隠されてるやもしれぬ、まだ見ぬ宝を求めて冒険者たちは遺跡探索に色めき立っていた。
「なるほど、あの魔法薬も遺跡で見つかったものか」
「今の技術では生み出せない魔法薬や魔導具が見つかれば、大金を手にする可能性もありますから」
この2ヶ月、リュカに稽古を付けて貰いつつ盗賊の地図の空白部分を埋めていった。
まぁ、行ったことのない場所を虱潰しに移動しただけだが。
ベイル市街、ベイル地下遺跡、ベイル地下水道、ベイル周辺地域、ザッハカーク大森林、ザッハカーク砦。
その場にたどり着き、名称を知ることで地図にも記載される便利機能だ。
空白部分を埋める作業が思いのほか楽しくて、疾走、隠密、隠蔽を使ってかなり頑張った。
地形探知を併用することで、探知で調べた箇所も地図に記載されるという事実に気がついたのは少し後だったというのが悔やまれる所だが、まぁそれはいいだろう。
「確かこの辺だったはず……」
周囲の様子を伺う。魔力探知の反応から疎らに魔物の存在を感じる。森の中にしては密度は少ない。
「ジン様、いました」
リザの示す方へ視線を送ると、今まさに3体のゴブリンと戦闘中のシアンを見つけた。
慌てる俺にリザは冷静な口調で窘める。
「大丈夫ですよ。彼女たちも成長しましたから」
「兄様!」
返り血を浴びて随分と勇ましい様子のシアンは、俺を見つけると嬉しそうな笑顔を見せて胸に飛び込んできた。
「見てたのですか?」
「ああ。少し前に来たんだ」
シアンを抱きしめ、頭を撫でる。革製兜の上からだが彼女は嬉しそうだ。
「見てもらえますか?」
シアンが抱きしめられた状態のまま耳元で囁く。
色っぽい話ではない。ステータスのことだろう。
狙撃 F級
「おお!凄いぞ。スキルを覚えたのか」
スキルは1つ目、2つ目あたりはいつの間にか覚えてしまうほどの難度であるという。
しかし3つ目、4つ目となると長い期間修練を積み、技を磨かなければ手にはいらないと言われている。
其処には才能や運も含まれるだろう。
スキルをたくさん持つことがそのまま強者という訳でもないが、努力が実を結んだというのは素直に喜んでもいいはずだ。
「えへへ。兄様みたいに調べられないから確証はなかったのですけど、何となくそうかなって」
「頑張りましたねシアン」
リザが優しくシアンを称える。
「はいっ。ありがとうございます」
「見つかったのか?」
背後から声がする。藪から姿を表したのはアルドラとミラさんだった。
「ああ。見つかったよ。それなりの規模だとは思うけど、問題ないだろう。治療師もいるしね」
ミラさんに視線を移すと、冒険者風の装備に身を包んだ彼女が朗らかな笑顔を向ける。
「怪我したら任せて下さい。パアッと治しちゃいますからね」
「頼りにしてます。それじゃ、サクッと行きましょうか。ゴブリン盗賊団の殲滅任務に」
シアン・ハントフィールド 獣使いLv11
ハーフエルフ 14歳 女性
スキルポイント 1/11
特性:夜目 直感 促進
同調 E級
調教 E級
使役 E級
狙撃 F級
装備
ミスティコート 魔装具 E級 魔術効果:認識阻害
レザーヘルム 防具 E級
ソフトレザーアーマー 防具 E級
レザーグローブ 防具 E級
ソフトレザーパンツ 防具 E級
レザーブーツ 防具 E級
力の指輪 魔装具 E級
アウトラスト 魔装具 E級 魔術効果:体温調節
クレインクィン 石弓 E級
ウッドボルト 矢弾 E級
ボルトバック 猟具 E級
ハンドアクス 片手斧 E級
ナイフ 短剣 E級
ネロ 使い魔Lv8
種族:ブラックキャット 魔獣
弱点:火雷水 耐性:闇氷
スキル:闇付与
バックパック 雑貨 E級
ライフポーション 魔法薬 D級 ×4
キュアポーション 魔法薬 D級 ×4
※バックパックは普通の背負い袋。荷物が嵩張らないように必要最低限の荷しか入れていない。
今回の戦利品
クローラーの触角 素材 F級 ×14
ゴブリンの左耳 素材 F級 ×8