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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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閑話 王都ロンバルディア

 王国歴463年 春


 鹿島仁がザッハカーク大森林に降り立つ50年前




 ドンドンと部屋の木戸を叩き鳴らす音と共に、助祭の青年が慌てた様子で上ずった声をあげた。


「ラズン司教様。王都からの使者がお見えになりましたっ」


「わかった。直ぐに行く」


 私は困惑していた。


 苛立つ心を勤めて抑え、平静を装う。


 なぜ私が王都に召喚されるのだろうか。教会の運営費を着服したのが見つかったのだろうか?それか仕事を助祭に押し付けて、花街に通っていたことか。もしやルイージ司祭が密告したのだろうか……


いや、だとすれば彼も一緒に通っていたことが明るみになる。そんなことを彼がするはずがない。しかしなぜ王都なのだ……何か問題を起こして呼び出されるとすれば王都ではなく、ルタリア派の教会本部がある神聖都市ヴィネとなるはずだ。


 しかも呼びつけたのはルタリア王国の国王 アウタリス陛下であるという。


 様々な憶測が頭のなかで嵐のように渦巻いていく。


 考えを纏めている時間などない。しかし陛下を待たせる訳にも行かない。私は乱れる心のままに、使者の用意した馬車に飛び乗り陛下の待つ王都へと向かった。


 


 人口5000人程の小都市タラントより馬車で東へ2時間、王都ロンバルディア。


 周辺に広がる穀倉地帯はルタリア王国最大の広さを誇り、この国の豊かさを象徴するかのようであった。


 古き良き伝統ある様式美と、新しい技術を惜しみなく取り入れる美しい都市の様子から、ここを訪れる旅人より永遠の都と称されるルタリア最大の人口を抱える大都市でもある。


「白亜の竜が守護する約束された地か……」


 何処まで広がる蒼い若草の小麦畑を眺めながらポツリと呟く。


 馬車の長椅子は対面式で、正面には使者が座っているのだが彼は馬車に乗ってから一言も発していない。


 何かしらの説明があってしかるべきとは思うものの、陛下よりの使者に問い詰める訳にもいかずに困惑は深まるばかりである。


 ちらりと様子を伺うも、無言無表情を貫いている。そういう教育をされているのだろう。


 今日のことが事前に知らされたとき、説明は然るべき時にと言われているので使者から説明がないのも仕方のないことなのだが、それにしてもだ。


「……はぁ」


 重苦しい空気に思わず溜め息が漏れるばかりであった。




>>>>>




 王都ロンバルディアの中心にあり、この都市の美しさの象徴でもある白亜の城、ティレニア城。


 ルタリア王国、建国以来より存在し続け、今なお輝きを失わない王の居城である。


 王城に入ってどれくらいの時間が経過したのだろうか。


 部屋の1つに通され、お目通りが叶うそのときまで待つようにと指示されている。


 まるで裁判の判決を待つような心境だ。


 時間の感覚が無くなり始めた頃、謁見を知らせる報が私の耳に届いた。




 そこは儀礼、式典が行われる謁見の間といったような広間ではない。


 おそらく、陛下の私室といったものだろう。通常であれば主か掃除婦、執事くらいの入室しか許されないような場所だ。


 すでに夜の帳は降り、窓から見える空は闇に包まれている。


 部屋は薄暗く、僅かに蝋燭の明かりが幾つか灯るのみ。


 柔らかな光が、豪華な調度品を朧気に映し出していた。


「そう固くなるな。今この部屋にはわしとお前しかおらぬ」


 50代後半の壮健な男。アウタリス・ロンバルト。剣、槍、弓、馬術など一通りの武術を収め政への思慮も深い王の見本のような男。


 だが王国の歴史に名を刻むような大きな仕事をしていないという評価もあり、その評判は決して高いとは言えなかった。


「はっ……あの……それで、私はなぜ呼ばれたのでしょうか……?」 


 他に誰もいないと言いつつも、人の気配はある。おそらく侍従だろう。部屋の隅、闇に紛れているのだ。


「野心はあるが度胸はない。教会の運営費を誤魔化して財布を温める程度が精一杯の小物がお前だ」


 ギロリと鋭いアウタリス王の視線が、怯えからか身を小さくさせるラズン司教を捉えた。 


「……はっ……ははぁ……」


 思わず吐き出した息を飲み込む。蝋燭の明かりに照らされた陛下の顔には影が差し込み、私の恐怖心を増大させた。


「そこでお前に良い話があるのだ……なに難しい話ではない。簡単な仕事だ。上手く行けばお前を、大司教へ押し上げてやることも可能だぞ」


 近年ルタリア王国では豊作が続き、上質な小麦が前年を上回る収穫を記録している。


 国内消費を上回る小麦は近国に輸出されるが、大量に市場に放出されれば価格の暴落は免れない。


 だが暴落は起きなかった。近年に新開発された商業船は海の魔獣の襲撃を掻い潜って、より遠方の国々との貿易を可能にしたのだ。


 多くの貴族、そして船主である貿易商たちの懐が温まったのは言うまでもない。


「貴族が余る程の金を持つと、やることは1つだ」


 ゴクリと唾を飲み込む。


「そ……それは……」


「ルタリア王国より南、ティレニア海を挟んだその先、南方大陸ファラカル。言うまでもなく獣人共の支配する大地だな」


 ここ数年で貯えを増大させた大貴族を中心に、南大陸へ侵攻を進言する声が高まっている。


 北の大地に居を構えるハイドラ帝国は、近隣諸国を侵略しその力を増大させている。


 抵抗する国は滅ぼされ、支配を受け入れた国は属国へと降っているという。


「帝国に対抗する力を蓄えるため、南大陸の植民地化というのが貴族どもの言い分だな。女神教ルタリア派も賛同の声が大きい。文明の遅れた南大陸に、文明と信仰を普及させるという大義名分を掲げているのだ。獣人にとっては迷惑な話かも知れんがな……しかし勢いづく貴族どもを長く抑えることも難しい」


 確かに教会内でもそう言った発言をする者はいる。


 精霊信仰という得体のしれない物を崇める獣人に、正しい教えを伝えようと言うのだ。


「それで私の仕事というのは……」




「なるほど。金鉱ですか……」


「うむ。お前には守護に神殿騎士と、兵を与える。他の者に悟られてはならん。表向きには女神教の布教活動として行動するのだ」


「……わかりました。して時期はいつごろに」


「帆船の改修が夏には始まる。早ければ来年の春には動く」



     

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