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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第121話 白猫館2

「旦那様ぁ、もっと下の方……もっと下の方を擦ってください……」


 衣を捲り、白い腹を晒す。チセは甘えた声を出しながら、身を捩った。


「いやいや、もっと下ってそれもうお腹じゃないから」


「いやぁん……旦那様のいじわるぅ」


 あぐらをかいて座る俺の膝の上に、横抱きになるように小さく収まったチセは、白い肌を晒して腹を撫でられていた。


「サヨちゃんも指離してくれない?」


 大人しかったサヨも、どうしたことか俺の腕を取り指に吸い付いている。


 まるで赤ん坊が哺乳瓶に吸い付いてるような感じだ。


「はむっ……んっ……ふぅ」


 まったく声が届いていない。どうやら話が通じないようだ。


「にゃぁ~。お兄ちゃんの匂い、いい匂いがするにゃぁ~」


「あぁ~、この匂いスキ~。すぅー、はぁぁぁぁ――」


 なんかいつの間にか幼女が増えてるし。


 背中に張り付くのは、2人の獣猫族の少女。


 首筋の匂いを嗅いだり、舌を這わせたりといった正気とは思えない行動を取っている。


 チセとサヨも正気では無いようだが、どうしたと言うのだろうか。


 部屋に訪れてしばらくは普通だったのだが……



 状態:発情



 何処かで見た記憶のある情報が、魔眼よりもたらされた。


 あー。それかぁ……


 場合によっては有り難い状況だが、正直言って彼女たちは守備範囲外。


 そのため現在の状況は嬉しいよりも、むしろ困る状態だ。


 将来は美人になりそうな可愛い子たちだが、流石に若すぎるだろう。


「旦那様ぁ、もっと下……お願い……」


「いいなぁ、私も触って欲しい……」


「あたしはちゅーして欲しいな……」


 うーん。どうしたものか。


 何度か説得を試みたが、話が通じるような状態ではないようなので説得は難しそうだ。


 かといって力尽くで引き剥がすのも難しい。


 俺が1人苦悶していると、部屋に人が近づく気配を感じる。


「失礼します」


 落ち着いた大人の女性の声が、廊下から聞こえる。


「長らくお待たせしまして、申し訳ありません」


 健康的に日焼けしたような小麦色の肌。胸元まで長く伸びた髪は美しく結い上げられ、金の髪留めで纏められている。


 ダークブラウンと言ったような、吊り目気味の濃い茶色の瞳。


 俺を招待した獣牛族の妓女。モクランであった。



 整った顔立ち、頭部に備わる湾曲した2つの角。


 背は高く大きく開かれた胸元、括れた腰、大きな臀部、迫力の質量。


 なんという、わがままボディ……


 その妖艶な美しさに、男なら誰もが目を奪われるだろう。


「あらら、まぁ、ジンさん……もしかしてお邪魔でしたか?」


 口元に手を添えて大げさに驚いた振りをするモクランに、俺は苦笑して答えた。 


「まさか、勘弁して下さいよ。取り敢えず助けて貰えますか?」




>>>>>




 発情の原因となった紫雲香は取り除かれた。


 本来ならばこれほど強力な効果は出ないらしいのだが、彼女たちが幼かったせいもあって効果が強く効きすぎてしまったようだ。


 通常であれば、男性にはほぼ無効、女性にはちょっとエッチな気分になるというものらしい。


 無論これはリザが生み出した薬が元になったものである。


「獣猫族の一部の女性には発情期というものがありまして……」


 所謂先祖帰りとでも言うのだろうか。


 10人に1人。もしくは20人に1人ほどの割合で、発情期に悩まされる者が現れるのだという。1種の体質のようなものなのだとか。


 発情期の期間は異性を激しく求めるが、それ以外の期間は激しく拒絶する。そういった性質の類らしく、この仕事を続ける上で非常に困る体質のようだ。


 紫雲香は擬似的に発情期の状態を作り出す、媚薬のようなものなのだ。


 薬師ギルドに相談したとこで、そのような特殊な事情の薬は対応してもらえない。


 長年悩まされていた事情が解決されたことで、多くの獣猫族の女性たちが助かっているのだという話を聞いた。




「申し訳ありませんジンさん。あの子達には後でキツく言っておきますので」


「いや、怒らないであげてください。可愛い子たちじゃないですか」


 ちなみに獣牛族には発情期という性質はないらしく、モクランには紫雲香の効果は無いそうだ。


「ジンさんはあのくらいの娘がお好みですか?」


「いえ、そういう意味ではなく……」


 チセを始めとした4人の幼女は、モクランが呼んだ獣猫族のお姉さん方に連れて行かれた。


 文字通り摘み上げられて。


「旦那様っ、助けてー!やだぁぁあーーー」


 他の子達は大人しく連れて行かれたが、チセは最後まで叫び抵抗していた。


 初対面のはずだし、懐かれるようなことをした覚えはないので、少し不思議な思いである。まぁ、悪い気はしないが。


 彼女たちは所謂、見習いというのか丁稚のような存在らしい。


 店の掃除や、先輩妓女の身の回りの世話等をして過ごし、客前に出ることは無いのだという。


「ジンさんのお相手をする娘を言いくるめて、チセがその役目を引き継いだのでしょう。色々知恵の回る娘ですから」


「そうでしたか。まぁ口は達者のようですしね」


「そうなんです。ですが普段はあのように我侭を言うような娘では無いので、ジンさんは余程気に入れられたのだと思いますよ」


 隣に並び座るモクランは、透明な硝子の杯に酒を注ぎながら語った。


「まぁ、可愛い女の子に懐かれるのは、悪い気はしないので良いですけどね」


 そう答える俺の顔を覗き込みながら、モクランは穏やかな笑みを見せる。


「成人を迎えていない娘は、客の相手をさせてはいけない決まりなのですが、ジンさんは恩人ですし特別に呼んできましょうか?相手はチセが良いですか?」


 そういうモクランの笑みは、少し意地悪っぽく見えた。その表情からしても冗談で言っているというのが理解できる。


「いや、俺はどちらかと言うと大人の女性のほうが好みですよ」


 今日のモクランの衣装は艶やかといった言葉が似合うものだった。


 黒、朱、橙を中心に大きな華を描いた着物は、素人が見ても豪華で手の込んだ品だということがわかる。


 和装の着物の様に、何枚か重ねて着るものらしく、中の白い衣が肌の褐色をより鮮明に引き立たせる。


 下着はつけないものらしい。


 やはり着物だからなのだろうか。


 俺のような別世界の記憶を持ったものが、この世界で暮らしているという可能性もある。


 精霊の祠で会った彼のように、同郷の存在がこの文化を作ったのかもしれない。 


 だとすれば、俺はそいつに一言いいたい。「ありがとう」と――



 大きく開かれた胸元は、うまい具合に先端部分が絶妙に隠されている。


 覗きこめば見えるかもしれないが、流石にそれは不味いだろう。


 まぁ、見ろと言わんばかりの、挑発的な衣装ではあるが。


 しかしながら谷間がすごい。


 あまり凝視するのも、どうかと思うのでそれとなく視線を外すことにした。


「若い奥方を2人も貰った方の言葉とは思えませんね」


 そういって彼女は胸元を正す。覗き込んでいたのがバレていたようだ……


「ま、まぁ、それはそうとして、今日の衣装は凄いですね」


 前にあった時は違い、今日は仕事着なのだという。


「ジンさんのことを考えながら選んだ衣です。どうでしょうか?似合ってますか?」


 足を崩して、体を斜に構える。


 開けた足元から望む太ももが悩ましい。


「すごく似合ってます」


「ふふふ。そう真っ直ぐに言ってもらえるのが一番うれしいですね」


 

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