第12話 闇の軍勢
俺は村でアルドラと共にウルバスを迎え撃つ準備をした。
村の中央に廃材を積み込み、篝火を焚く準備をする。
俺は他に何か使えるものは無いかと、空き家を見て回った。
「お、いいもの発見」
とある小屋で魔獣の革で作られたウエストバックを発見した。
これにポーション類を携帯して備えよう。
鹿島仁 漂流者Lv8
人族 17歳 男性
スキルポイント 0/8
特性 魔眼
雷魔術
火魔術
闇魔術
体術 F級
剣術 F級
鞭術
探知 D級
スキル設定はこれでいいか。
とりあえず探知で警戒しつつ、変化があったら雷魔術に変更しよう。
戦闘中でも変更は可能だが、あまり意識を戦闘外へ向けるのは危険のような気もするので、よく注意しなければ。
あとはウルバスが、本当に現れるのかということだが……
アルドラさんの話によると、ウルバスは必ずまた姿を現すだろうと言っていた。
『まぁ、あやつが恨みを持って村を襲ったとなれば、一番恨まれているのはわしじゃろうからなぁ、わしがまだ元気だと知れば、必ず姿を現すじゃろう』
元気だけど、もう死んでるんですよねアルドラさん。
あー、だとするとウルバスは、アルドラさんが既に故人だということに気がついていないのかな?
まぁ既に正気を失っているようだったし、言葉も通じるかどうかわからんからな。
『お主も、既に目を付けられてる可能性もあるのう。わしと一緒のところを見られているわけじゃし、一緒のところにてお主が襲われたのじゃから、もうどのみち逃げられなかったんじゃないかのう』
はははと笑うアルドラさん。
いや笑い事じゃない。
「そういう危険なやつがいるってことは、もっと早くに言って欲しかったですね」
『1年近くも前に現れて、それ以来姿を見せなかったやつじゃぞ?もうとうに何処かへ消えたと思っとったわい』
アルドラさんに文句を言っても仕方ないか。
このまま俺が人の街へ向かい、それを追ってウルバスが人の街で被害者を出せば、俺の責任を問われる可能性も無きにしもあらず。
なにかややこしい事態になりそうだ。
できればここで解決して、人の街へ向かいたい。
いや、けっして美人エルフのおっぱいに、ほだされた訳ではない。
それに美人というが、現代の地球育ちの俺と、この異世界の森の原住民エルフが同じ美的感覚かどうかは、わからないからな。
もしかしたらアルドラさんなみに、でかい女かもしれないし。
いくら美人でも2メートル近い女とかだと、ちょっと引いちゃうかもしれない。
まぁ見るぶんには、いいかもしれないが。
そういえば、あまりに自然に会話できるんで気付かなかったが、アルドラさんと普通に言葉通じるのも不思議な話だな。
まぁそもそも異世界トリップが一番の不思議体験なんだろうが。
言葉が通じるのは便利だから、まぁ文句はないし、別にいいか。
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日は落ち、夜の闇が村を包む。
村の中央の広場では、轟々と炎が燃え盛る。
集められた廃材の山に、火が放たれ、天に向かって火柱が上がっていた。
俺は干し肉を齧りながら、その時を待った。
アルドラさんの話によると、高台の教会はもしもの時の避難場所らしい。
強力な結界が張られているため、まず魔物は中に入ることは出来ないだろうということだ。
もしも危険を感じたら、教会まで走って避難するように言われた。
村の周囲を囲む、木の城壁も教会のそれよりは弱いものの、魔物避けの結界が設置してあるようだ。
その効果もあって、村には魔物が侵入できないのだという。
「来ましたね」
『まぁ、結界とは言っても万能ではない。強力な魔物には効かないようじゃ』
ドガァンッ
裏側の門が吹き飛ばされる。
破損していたとはいえ、まだ一部形を残していた門は、いま完全に役目を終えたようだ。
村の中に、砕かれた破片が飛散する。
外から侵入してきた者は、大型の妖魔であった。
ラージインプ 妖魔Lv10
弱点:光 耐性:闇
スキル 筋力強化
お、魔眼から得られる情報に変化がある。
何か俺したんだっけか?
魔眼にはLvが設定されていないために、能力の成長というものはないのだと思っていたが、違うのだろうか?
どういうことだろうと、俺が思案していると、横に居たアルドラさんから激が飛ぶ。
『なにをぼーっと突っ立っておるんじゃ!そら団体さんのお出ましじゃぞ』
見ると大型のインプの後から、わらわらとインプが溢れて出てくる。
能力の変化に思案するのは、あとでゆっくりすることにしよう。
いまはこいつらを片付けるのが先だ。
ラージインプはゴリラのようにデカイ。
黒い猿のような小柄なインプと比べると、その大きさは異様なほど存在感を放っている。
インプ 妖魔Lv3
弱点:光 耐性:闇
スキル 魔力探知
インプも俺の知るやつよりは、ちょっとレベルが高いな。
それにしてもコイツらって。
「ウルバスの下僕ってこと?」
『わからん』
今のところ、ウルバスの姿は見えない。
ギャギャギャ
インプたちはうるさく囃し立てる。
いつの間にか、俺の周囲はインプの群れに囲まれていた。
さてやるか。
カシラの杖に雷付与をかけ、頭上で旋回させる。
雷刃旋風
頭上から周囲に撒き散らされる稲妻の嵐。
半径20メートルほどの範囲に、雷撃が降り注いだ。
バリバリバリバリバリバリバリッ!!
ギャアァァァァーーーーーーッ!!
バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!
ギャギャギャァァァーーーッ!!
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!
ギャギャギャーーーッ!!
小型のインプは次々に吹き飛ばされ、頭が、腕が、足が、消し飛ばされる。
遠目に見ても、致命傷のダメージだ。
グオォォーーーーーッ
生き残ったラージインプが腕を振り上げ、襲い掛かってくる。
俺は身を引いて躱し、すれ違いざまに、ラージインプの体に青銅剣を差し込んだ。
ギャーーッ
ラージインプは傷口から、赤黒い血が吹き出して、そのまま地に伏して動かなくなった。
青銅剣からは白いオーラが立ち上がっている。
破邪の青銅剣 魔剣 属性:光 斬撃強化
さすがは魔剣、なかなかの手応えだ。
「範囲攻撃でだいぶ減ったと思ったけど、なんか増えてるなぁ」
周囲にはインプの骸が散乱しているが、それを踏み越えインプが再び集まりつつあった。
これは長い夜になりそうだ。
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村の中央の焚火が、夜の闇を明るく照らしていた。
どのくらいの時間が経過しただろうか。
すでに数えきれないほどの、インプの群れを葬ってきた。
周囲にはうず高くインプの骸が積まれている。
骸の山を乗り越え、4体のラージインプが俺に迫る。
俺は雷撃を放ち牽制しつつ、一番近いラージインプの脳天を切り裂き動きを止めた。
雷付与で更に強化された魔剣が、光と雷のオーラを伴って、ラージインプをなで斬りにしていった。
光の属性が傷口を広げ、雷の属性が麻痺を引き起こす。
動きの悪くなったラージインプに止めの一撃を差し込む。
『大丈夫か?』
アルドラさんが心配そうな顔を向けるが、問題無いまだ行ける。
俺は携帯していたライフポーションとマナポーションを飲み干した。
「えぇ、ポーションがあって助かりました。それにこれからが本番のようです」
焚火の向こう側に、2体の巨大な魔物を引き連れた魔人がその姿を現した。