表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
125/274

第117話 巨人殺しの英雄3

 冒険者ギルドは地獄絵図であった。


 酒に酔った冒険者たちで溢れ、皆ひどい酔い方をしている。


 酒精の強いものを一気に煽ったのだろう。あるものは部屋の隅で嘔吐、あるものはあられもない姿で床に転がっていた。


 そのような醜態を晒しているのは、大概いかつい男性冒険者だ。


 と言うより、この場にいるのはほぼ男性冒険者のようであるが。


「今夜はわしのおごりじゃあ!酒じゃ、酒を持って来い!」


 アルドラの怒号が響く。


 いつの間にか巨人のようにデカイおっさんに肩車されている。


「おおおおッ!巨人殺しの英雄に乾杯!冒険者の勝利に乾杯!ついでに死んでいった友に献杯!」


「酒屋を呼んでこいっ、樽で運び込め!」


「誰か手伝いに行け!呼んでくるより早い。ありったけの酒を飲み尽くしてやれ!」


 場内の熱気は最高潮といった様子だ。


 命がけの戦いを乗り越えた戦士たちが、ここで全ての苦悩、苦痛を吐き出したいと叫んでいるかの様子に思えた。

 



 隣のおっさんが教えてくれたのだが、アルドラは俺が送り出した後、獅子奮迅の戦いを見せ巨人の群れを圧倒したらしい。


 アルドラが単身群れに切り込み、密集している巨人を分断することで他の冒険者も巨人が狩りやすくなり、旨味を得たのだという。


 彼自身も100前後の首を上げ、一度の戦いで巨人殺しの英雄と讃えられるまでになってしまったようだ。


「命がけの戦いをくぐり抜けたのだ。この宴の僅かな時間くらい憂さを晴らすのも悪く無いだろう?」


 おっさんがいい顔で答えた。


「……そうですね」


 彼らは何時死ぬかもわからない、極度の緊張に晒されていたのだ。


 その疲労も大変なものだったのだろう。


 確かに今は発散の時なのかもしれない。



 

 アルコールと男の汗と、人間の生み出す熱気と、吐瀉物の匂いが入り交じる地獄とかしたギルドホール。


 ギルドは石造りの窓の少ない密閉された空間。


 そこに男たちが寿司詰めの如く集まり酒を煽り騒いでいるので、当然のごとく熱気も臭気も篭ると言うものだ。


 そろそろ換気をしてくれ。と俺が心のなかで願った時、勢い良くギルドの扉が開いた。


 1人の来訪者が姿を見せる。


 重厚な門戸が開け放たれ、新鮮な外気が悪臭を押し流す。


 姿を見せたのは緋色の髪と緋色の瞳を持つ、獣狼族の女性剣士だった。


「……ずいぶん派手に盛り上がってるみたいね」


 涼やかな瞳が、全裸で暗黒舞踏を披露していた壮年の冒険者を射抜いた。


(ちなみに暗黒舞踏とは、遥か彼方に存在する東国により伝来した神に捧げる古の舞である)


 筋骨隆々といった自慢の肉体も、彼女に睨まれて色々縮んだように見える。


「あっ……リュカさん、お疲れまでーす」


 それなりに年を重ねた歴戦の戦士も少年兵のように畏まる。


 彼の額に汗が滲むのが見えた気がした。


 男は思わず股間を両手で隠し、腰を引いて押し黙った。



 リュカの登場で場内が静まり返った。


 カツカツという、彼女のブーツの音だけがホールに響くといった状況となっている。


 リュカは無言のまま場内を見渡し、俺と目が合うと動きを止めた。


「ジン。付いて来なさい、話がある」


 有無を言わせぬ口調に迫力を感じとり、俺は黙って彼女の後を追従した。




>>>>>




 俺たちが立ち去った後のホールから「ジン?アイツが?」とか何とか聞こえたような気がしたが、聞こえなかったことにした。


「戻ったか。ジンも一緒か、丁度いいな」


 執務室に入ると、高そうな椅子に深く座るギルドマスターゼストの姿があった。


 先程までホールに居たはずなのに、いつの間に追い抜いてここに入ったんだろうか……


「ん?その腕は……随分酷い怪我をしたようだな」


 ゼストの視線が失われた右腕に注がれる。


「ええ……まぁ色々と」


 

「取り敢えず座ってくれ。よし、アイツらも来たな。まずは改めてジンから報告を聞きたい。お前自身の口でな」


 ドアを開けてエリーナとヴィムが姿を現す。


 挨拶を交わし、彼らが所定の位置に腰を下ろした所で俺からの報告を行った。


 リザからの報告は受けているはずだが、改めてというなら断る理由もない。



「なるほど。それでどれほどだったんだ?」


 俺が魔人の報告を終えた後、リュカの報告が後に続いた。


「全力で戦えば負けない自信はあるけど、相手の能力がわからないんじゃね。私は普段からそれほど情報を隠していないし、たぶんそれなりに知られていると思うから、不利なことは間違いないでしょうけど」


「お前を出し抜ける程度には力を持っているということか、その若い奴は」


 ゼストがにやりと不敵な笑みを浮かべる。


「声は若い男だったけど、実際はどうかわからないわよ。フードで顔半分は隠れていたし、瘴気もかなり濃かったからね」


 姿や声色を偽装するスキルや魔導具も存在するらしいので、偽ろうと思えば難しくないのだという。ただ感覚の鋭い獣人や直感を持つエルフを出し抜けるかは別の話ではあるが。


「しかし、今回の巨人騒動の中心は件の魔人の可能性が高いことは間違いないな」


「そうなの?」


「ああ。ジンの報告にもあった……アルドラの村の件。状況は似ている」


 アルドラの村を襲ったインプとは臆病な魔物で、棲家を荒らすものに対しては戦いを挑むが、基本的に非好戦的である。


 魔術の使い手で、高い戦力を有するエルフの村を積極的に襲うというのは普通であれば考えられない。


 

 今回の巨人にしてもそうだ。


 彼らは凶暴で凶悪な怪物ではあるが、基本的に自ら縄張り外へと出ることは殆ど無い。


 人間は弱い生き物だが、中には自分たちを殺しうる強力な存在もいる。ということを彼らは知っているのだ。


「魔人は魔物を統率する能力がある。その可能性は高いだろうな」


 ゼストは確信したかのように語った。


「口ぶりからして、その若い男は関係者だろう。深入りするなと言っておきながらの、この騒ぎ。妙じゃないか?魔人も暴れてるし。探られるのが困るなら大人しくしておけよ。ってな」


「魔人は……そうですね。暴走していたように思えます。話が通じないっていうか、自分の考えで突っ走ってる感じでしょうか。魔人化してからは、まさに暴走って感じで」


 俺はあのときの状況を思い出しながら語った。


「上役の存在もいるようだし、組織なのは間違いないだろう。短期間に2体の魔人。背後にいる組織。魔人への変化、暴走。……今回の巨人の騒動は意図していなかったものと言うことか。魔人化したやつの暴走から引き起こされた。……アルドラの村に出た魔人とは死に様が違う。不完全な魔人……制御できていないのか?魔人を作っているのか……?」

 

 まるで独り言のように語る。頭のなかの考えを整理しながら呟いているようだ。 


「最初から魔人だったって線はないの?」


 リュカの疑問に首を振って答える。


「それはないな。何か原因があって魔人化した。それは間違いない」


 ゼストは確信を持って答えた。


 テーブルに置かれたギルドカードを拾い上げる。


 魔人ルークスが唯一所持していたものだ。彼の遺体はリュカが回収し、ギルド職員の手に渡してある。これから詳しく調べられるのだろう。


 今はギルド近くの治療院に安置されているはずだ。


「エリーナわかるか?」


 カードを側に控えていたエリーナに手渡す。 


 赤銅のカード。C級の冒険者に与えられる身分証である。


「ええ。確か妹さんと二人でパーティーを組んでいた獣狼族の若者だったと記憶しています」


 数年前に起きた異常発生の際に、妹が戦死。その直後、彼もギルドから姿を消したそうだ。




「そうだ。貴方に頼まれていたもの、ちゃんと回収してきたわよ」


 リュカはそう言って自身の鞄を弄る。


 そしてあるものを取り出し、テーブルに置いた。


「おぉ、ありがとうございます」


 

 魔晶石 素材 B級



 大きさで言えばゴルフボールより一回り大きいくらい。


 魔石は石炭のように黒々として光沢のある石といった感じなのだが、魔晶石はまるで水晶だ。薄く黒い色付のされた透明の水晶。


 球体ではなく、歪んだ楕円形に近い形状をしている。


 

 見るだけで、そこに込められた魔力を感じる。


 触れると其処に込められた魔力が、体内へと流れこんでくるのがわかった。



 スキル【隠密】を修得した。



【隠密】魔力の流出を完全に断つことで、探知スキルに認識されることもなく、また気配を消す効果により相手から認識されにくくなる。


 姿を消す闇魔術【隠蔽】との相性が良く。同時に使えば互いの利点をより高める事になるだろう。



「ほう、魔晶石か」


 魔物の体内には魔力の結晶、魔石が見つかることがあるが、より上位の魔物には魔晶石が備わっていることがあるという。


「ええ。それはジン達が倒したヤツで、これは私が倒したものね」


 リュカはもう1つ魔晶石を取り出した。


 薄紫色に輝く透明の水晶体。内包される強い魔力を感じる。


 試しにと触れさせてもらうと、魔力が体内に流れ込んできた。



 雷魔術【雷蛇】を修得した。



 蛇のように獲物を探し襲う攻撃魔術のようだが、実際に使ってみないと操作感はわからないな。


 思い掛けず新たな力を得られた。


 魔石や魔晶石からスキルを得ても、それ自体の価値が変化する訳ではないから、問題ないと思う。


 魔石からスキルを得られるのは、今のところ俺だけのようだしな。


 


「それとロムから貴方に」


「俺にですか?」


「街の外で大きいの倒したんだって?倉庫に運び込まれて使える素材に解体されてたから、貴方の取り分を渡して置いてくれって。倉庫番の子から預かってきたのよ」


「そうなんですか。じゃあ、ありがたく」



 魔晶石 素材 B級



 内包された魔力を体内に吸収する。


 スキル【奇襲】を修得した。


 これは対象への認識外からの攻撃に補正が加わるというスキルの様だ。



 魔犬の大牙 素材 C級



「討伐依頼の出ていた魔獣の牙か。また珍しいものを持ってきたな」


 ヴィムが牙を持ち上げて、しげしげと眺める。


「知ってるの?」


「ああ。確か俺の工房に設計図があった筈だ」


 ヴィムはギルド職員という肩書のほか、鍛冶工房を経営している。


 設計図というのは魔物の素材を用いた、魔剣の制作レシピのようだ。


    

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ