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異世界×サバイバー  作者: 佐藤清十郎
第2章 自由都市ベイル
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第116話 巨人殺しの英雄2

 逞しい男たちの群れであった。


 群れの中、その中央には裸の男が2人抱き合っているのが見える。


 それぞれの肉体に備わるのは巨大化した筋肉。


 はち切れんばかりと、その存在を誇示している。


 2体の筋肉の熱き抱擁だ。


「うおおおおおおぉぉーーーーーッッッ!!!」


「フオオオオォォォォーーーーーーーッッッ!!!」


「アーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」


 周囲の男たちの野太い怒号が、冒険者ギルドのホールに響く。


 そこには男たちの熱気と喧騒が渦巻いていた。


 あ、よく見るとズボンは履いている。全裸ではなかった。危なかった。


「アルバス久しぶりじゃのう」


「私を覚えてくれているとは嬉しいな!」


 中央で抱き合う男たちをよくよく見れば、1人は見知った顔だ。


 アルドラ。2メートル近い高身長に長い銀髪、蒼い瞳を持ったエルフの美丈夫である。


 もう1人は知らない顔だ。アルドラの知り合いだろうか。彼を僅かに超える程の高身長。だが見た目の年齢はずっと上のようだ。白髪を整髪料でキチッとまとめている。四角い顔に髭も綺麗に整えられていて、そこいらのゴロツキといった風体ではない。


 今は上半身裸に革パン、革手袋といった謎の出で立ちなのでわかりにくいが、身なりを整えれば老年の紳士といった雰囲気だろう。


 おそらく人族のようなので実際はアルドラの方が年配なのだろうが。


 

 アルバス・ダムドーラ 戦士Lv58

 人族 72歳 男性

 鉄壁 C

 鎚術 B

 盾術 C

 剛力 B 

 体術 D

 投擲 F



 レベル58……Aクラスの戦士。


 重装歩兵みたいなスキル構成。体格からしてもそうだが、相当な強さなのだろう。まぁAクラスなので、言わずもがな。


「ふんっ」


 突然、筋肉の老紳士がアルドラの顔面に拳を叩き込んだ。


 久しぶりに会った友人といった、気さくな雰囲気が一変した。


 急に気が触れたのだろうか?


 まったく意味がわからない。 



 拳を大きく振り上げ、体重の乗った一撃。


 アルドラはノーガードでそれを顔面で受けた。


「ジョルトブローだ。全身の力と体重を乗せた、破壊力抜群のパンチだぜ」


 俺が驚いていると、隣にいたおっさんがドヤ顔で教えてくれた。


「はぁ……」


 思わずため息混じりの声が漏れた。



 場内からワッと歓声があがる。


「巨人殺しの英雄とアルバス戦士団の団長を並んで見られるとは、俺も運がいいぜぇ」


 おっさんは手に持った酒を煽った。顔も赤いし、強いアルコールの匂いがする。既に相当飲んでいるようだ。だが彼だけという訳でもなく周囲を見ると皆同じような状況のようだ。


 何故か上半身裸の奴が多い。中には全裸のやつもいる。飲むと脱ぎたくなるタイプか。いるよなそういう奴。


 

「アルバス腕を上げたな。いいパンチじゃ」


 凄まじい迫力の拳を受けるも、全く動じないアルドラはふんと鼻を鳴らして答えた。


 そしてその言葉が終わるやいなや、アルドラもお返しと言わんばかりの拳をアルバスの顔面に叩き込んだ。


 メリッという嫌な音が場内に響き、周囲の人間は息を呑んだ。


「アルドラ、貴方も全く衰えていない。エルフとはこうも衰えを知らぬ者なのか」


 アルドラの拳も、相当な威力が乗っていたはずだが、老紳士は何事も無かったかのように耐えた。


 そして彼らは互いの力量を確かめ合ったと言わんばかりに、再び熱い抱擁を交わすのであった。


「なんだよコレ……」


 俺はウンザリした表情で、それを離れた場所から静かに眺めていた。



   

「もう聞いてるとは思うけどー!ラウル辺境伯から今回の作戦に対して特別に恩賞が届いてるんだよぉー!巨人の首を上げた人にはぁ、金貨2枚の大盤振る舞いっ。特に頑張った人には特別報酬もあるよー!」


 突如、受付カウンターに立ち上り演説を始めるノーマさん(ギルドマスター)に冒険者たちからどよめきが起こる。


「わかってると思うけど、作戦に参加した人は前金で金貨2枚、後金で金貨2枚貰えるからねっ。忘れないで受け取るよ~に」


 場内の男たちから「はーい」という野太い返事が聞こえる。


「更に更に~、今回出現した4体の巨人希少種を倒した人には特別報酬が与えられちゃいまーす!」


 場内から再び歓声。巨人希少種、確かにあれは別格にやばかった。というか4体も出たのか。俺が見た奴の他にも2体。


 アルドラやリュカさんクラスの戦力がないと、あんな化物を相手するのは厳しい物があるだろうな。




「まず1体目、雷を操る巨人を退治した双剣士リュカに報奨金、金貨30枚」


 場内から歓声があがった。


「リュカさんか!」


「流石はベイルの英雄!」


「リュカさんがやったってことは単独撃破か!やっぱり並じゃねぇ」


 周囲の冒険者から矢継ぎ早に感嘆の声が漏れる。


 巨人の希少種ということもあり、実際その姿を見ていないものでも、その危険性を感じているようだ。


 報奨金の高さから見ても、撃破の重要性を伺えるだろう。


 だが俺が実際見て感じ取った雰囲気からすれば、報奨金はもっと高額でも良いくらいだ。


 続けて、ベイルに巨人の大群を率いて進行した大巨人や、砦付近に出現した瘴気を操る巨人などの名が上がった。


 聞いたことのない名の竜剣士や、ギルド職員のヴィムの名も呼ばれていた。


 アルドラの話によれば彼は元A級冒険者とのことなので、非常事態ともあれば職員とも言えど戦力に数えられるのだろう。


 そしてノーマさんの口から読み上げられる名には、俺の名も含まれていた。


「黒い稲妻、ジン・カシマ」


 見に覚えのない字名で呼ばれた。


 隣のおっさんに説明を求めると、目立つやつは早いうちから遅くてもB級クラスにもなれば周囲の者から字名を付けられるのだという。


 大抵が戦闘スタイルなどから直感を得て付けられるのだが、運がいいとギルドマスターに名を付けてもらえるらしい。


 マスターは気に入った者にしか字名を付けない。字名を付けられた者は、必ず出世すると言われている。


 それ故に字名は冒険者であれば、誰もが求めてやまない憧れなのだ。


「えぇ……いらねぇ……」


もう少し他に何かなかったのかと、1人項垂れる思いであった。

 



>>>>>




「黒い稲妻か……」


 隣に立っていた魔術師っぽい装備の爺さんがボソリと呟いた。


 わしは知ってるぞ、的な感じを醸し出してる。


「知ってるのか爺さん」


 爺さんの隣の若い男が爺さんの呟きに乗っかった。


「ああ。この間、でかい盗賊団が捕まったって話があっただろう?」


「ん?……そういやあったな、そんなこと」


「潜伏先には盗賊が何十人もいたそうだが、それをたった一人の男が壊滅させたらしい」


「は?A級の冒険者でも乗り込んでいった。って話か?」


「いやそれをやったのがE級冒険者の男って話だ」


 若い男はゴクリと息を飲んだ。


「E級なんてのはランクで言えば見習い程度のものだぞ。仮に盗賊が素人同然の、盗賊もどきだったとしても1人で討伐は有り得ない」


「その有りえないことをやったのさ。噂では実力を隠してベイルに潜入している他国のS級冒険者じゃないかって言われている」


「何だよその胡散臭い話……」


「その噂の根拠が、そいつが雷魔術と闇魔術を自在に操り、剣術の心得もある魔導剣士だって話さ」


「な、何だって……!?万物の基礎となる4属性の上位属性、光闇雷氷のうち2つも修得しているだと……?」


「上位属性というのは魔術を極めた魔導の熟達者たちの中でも、ほんの一握りの者たちが習得できるとされる非常に希少な力だ。無論、早い段階で力に目覚める天才も中にはいるが、それは極少数だろう」


「なるほどな。確かにそれが本当の話なら、そいつはただのE級ってことはないようだ。だが噂の出処は何処なんだ?それによっちゃ、信憑性ってもんが問われるぞ」


「ノーマさんが受付で話していたのを盗み聞きしたんだ。捕縛した盗賊たちは、死ぬよりも恐ろしい悪夢を見せる呪いの雷、黒い稲妻を受けて廃人となったらしい。廃人になった盗賊は、奴隷商会でも引取を拒否されて処分に困ったとボヤいていたよ。何人かは頭のまともな奴が生き残ったんで、証言が聞けたらしい」


「死ぬよりも恐ろしい呪いの魔術か……黒い稲妻ジン・カシマ。一体どんな化物なんだ」


 若者は恐ろしい想像をしたのか、思わず身を竦ませた。

  



 俺は隣で話を聞いていて頭を抱えた。


 個人情報駄々漏れだし、変な噂が1人歩きしてるし。


 S級を目指して、名声を高めて家族を守る作戦だったけど、ちょっとおかしな感じになっている気がしないでもない。


 ギルドマスターのせいじゃないのコレ? 

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